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第23話

 馬車で移動すること数十分。あたし達は近くにある町に到着した。


「ここがロルクアの町だよ。城に近いから物流はそれなりにあるんだー」


 シルファーが窓の外を見ながらそう言う。物流が多い町は色々なものが集まりやすいから期待できるなと胸中でほくそ笑む。

 問題はずっとこいつらが一緒だとギルドに行くのが難しいことくらいか。


「食料は足しておきましょう。リア……アリア様はなにか食べたいものはありますか?」

「え? あー……肉かな、やっぱ。特に牛系のやつだな! 冒険者だと、イノシシとか鳥は食えるけど牛は高いから」

「お、いいねえ。ステーキにするか」

「ワシは良く焼いてくれればええぞい」

「ではステーキは確定で、後は野菜を――」


 ディーネはこれからのショッピングの順番を考えているようだ。そこであたしは行きたい場所を口にする。


「武具の店とギルドに行きたいんだけど、どう?」

「ダメです」

「即答!? なんでだよ」

「アリア様はそういうのに興味が無かったからのう。アクセサリーや服の店ばかり物色しておったぞ」

「それがいきなり武器を……ってみんな驚くよー」

「ぐぬ……」


 確かにあいつは戦うって感じじゃなかった。フランツと移動している時も足手まといになるくらいだったし。

 しかし親父に手紙を出そうと思ったらギルドじゃないと届きにくいし、どうするかな?

 あたしはポケットに入れている手紙を手で確認しつつ、考えを巡らせる。

 そうこうしていると、馬車を止める厩舎へ到着した。


「よし、みんな降りてくれ! ここからは歩きだ」

「あいよ」

「……アリア」

「あ、ありがとうございますわ、イフリー」


 軽率にいつも通りに返事をしたら、耳元でディーネが諫めるようにアリアの名を口にした。言葉遣いのことだろうと、あたしは慌てて訂正する。


「よろしい」

「むう」


 イフリーの手を借りて馬車から降りつつ口を尖らせる。続いてディーネ、シルファーが降りて最後にノルム爺さんが地上へ立つ。


「また後でな」


 引いてきた馬のハリヤーの首を撫でてやると嬉しそうに鼻を鳴らしていた。そのまま厩舎の人に引き渡してからあたし達は町中へと足を運ぶ。


「まあまあ大きな町ですわね」

「この国だと普通より少し大きいかなー? ……ぷふー」

「笑うなって」

「むぎゅ」


 あたしの言葉遣いに笑みを浮かべていたシルファーの頬をつまんでやった。柔らかい。

それはともかく、町の様子は非常にいい。人の往来が多く、武装した奴等も多い。ということはギルドの依頼も多いのかもしれない。

王都が近いからそっちの方が多そうな気もする。


「冒険者が多いみたいだけど、魔物が多かったりするのかしら?」

「む? そうじゃな、草原よりも森が多い土地じゃ。魔物はそれなりに出るぞ」


 ノルム爺さんがあたしの独り言に反応してくれた。このヨグライト神聖国は聖女の居る国ということでそこまで土地の開発は進めていないらしい。

 そのため比較的、自然が多いという。そうなると動植物や魔物の住む場所が確保されていることになる。


「ならみんなこっちに来て依頼を進めるのもアリなのかしら」

「ダンジョンも他の国と比べてもあるし、シーフにはいいかもしれねえな」

「なんだって!?」

「あ、イフリー! 余計なことを言わないのー」


 イフリーから有益な情報を聞き、あたしは驚いた。ダンジョン、あるのか。

 明らかに自然に出来た洞窟から、大昔に誰かが作ったような迷路と様相は様々だけど、地上から地下へ降りていくというのはだいたい一緒だ。

 何故有益かというと、ゴブリンといった少し知恵のある魔物が宝を集めていたり、昔の人間が宝を隠していて金回りがいいからである。


「ああ、いいなあダンジョン……」

「ほら、うっとりしてるー」

「まあ、今はどこにも行けませんし考えるくらいならいいでしょう。先に雑貨と服を見ましょうか」

「まあ、あたしはギルドと武具屋にいければなんでもいいですわよ」

「だから行きませんって!」


 チッ、乗ってくれなかったか。仕方ないとみんなと一緒に歩いて行く。


「あ、聖女様!」

「こんにちはー」

「え? ……ごきげんよう」


 そんな調子で道を歩いているとあたし達を見つけた人達に声をかけられた。よく町に来るって言っていたしこういうこともあるのかもしれない。

 あたしは手を振って挨拶をする。


「手を振ってくれたぞ!」

「珍しい!」


 すると町の人たちは驚愕していた。


「ええ……どういうことだ? ……ですか?」

「あはは……アリアは町に居る時くらいは聖女としてじゃなくて普通の女の子をしたいって言って手を振るくらいだったからねー」

「なるほど……」


 まあ、謁見を終えたあたしからすると確かにあれをずっと続けていたらストレスになるのは分かる。だから町に来てまで愛想良くしたくないのかもしれない。


「あいつも大変だったんだなあ」

「しかし、それが使命じゃからな。聖女としての」

「ふむ」


 ノルム爺さんがそう言い切ったけど、あたしの納得いく答えじゃないかな。

 見つかったらまたこの生活に戻ると考えれば少し不憫な気もするからだ。

 とはいえ、あたしだってこんなことを続けたくはないので見つからないでいいとは思わないけどね。

 なんとなく町の人達に手を振りながら移動し、雑貨屋へと到着する。

 イフリーが扉を開けてくれ、中へ入るよう促してくれた。


「ありがと」

「へへ、どういたしましてってな。さて、俺は適当に物色しておくから、終わったら声をかけてくれ」

「わかりました。ではアリアは私かシルファーのどちらかと行動を共にしてください」

「はーい」

「新しいハサミとか欲しいかも? あ、そういえば泡立て器が壊れていたんだっけー」


 シルファーが調理器具のある棚へ移動していく。あたしもなにか探そうかなと思ったけど、どっちかと一緒に行動するならあまり見ることができないかな?


「調理器具に興味はないし、ディーネについていくか」

「あら、私ですか? てっきりシルファーについていくと思ったんですけど」

「ああ。調理器具よりはいいかなと思いましてですわ」

「そうですね。趣味の工芸や編み物の棚なので調理器具よりはいいかもしれません」

「へえ、編み物はやりそうだけど工芸もやるのね」


 言葉遣いに気を付けながら告げると、ディーネは得意げな顔で指を立ててから言う。


「ええ! 彫り物が最近のお気に入りです。部屋に動物の木彫り人形をいくつかおいていますよ」

「ふうん。彫り物はなんか削る用の刃物で形を作るんだっけ? あたしも買ってみようかな」

「いいと思います。趣味を増やすのは生活にハリが出ますし」


 そう言いながら移動して、趣味の道具がある棚へ。


「編み物も色々あるもんだ……ものですね」

「寒くなってきたらマフラーを編みましょうか。リ……アリアの分も」

「あたしもやってみるかなあ。……って、違う違う、その前に見つけてもらわないと……」


 興味深いけど、聖殿に腰を据えて生活するわけじゃないのであたしは慌てて首を振る。

 今頃どこをほっつき歩いているんだろうな。



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