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第16話

「いや、だからあいつは我儘が酷かったんだって! そりゃ聖女なんて特別な存在だから精霊の俺達は守護するために居るけどよ。歴代の聖女でも特にひでえよ」

「まあ、アリアはここに来るまで大切にされてたみたいだからねー」

「そうなんだ、箱入り娘ってやつかあ」


 というわけで晩飯……じゃない、夕飯の席になり、あたしと精霊たちはテーブルを囲んでいた。

 酒も出て、乾杯をしたんだけど、しばらくしてからイフリーがアリアの愚痴を零しだした。

 イフリーは溜めこんでいたのか口を尖らせて不満を言う。

 最初は普通にアリアの話をしていて、勉学は良くできていたとか、外向けの愛想はいいとかそういうのを聞いた。

 性格は……あまり良くない……というか、よく耳にする令嬢様って感じだった。

 口を開くと我儘だったとイフリーが言うけど、それも理由がある。

 買い物に出れば精霊を荷物持ちに使うし、掃除はまったくしないくせに散らかす。

 着替えは脱ぎ捨て、ちょっと手を伸ばせば取れる物を取らせたりしていたそうだ。


「好き嫌いもそこそこあったよねー」


 さらにシルファーが追い打ちをかけた。確かにそこまでいくとお姫様かって思ってしまうなあ。


「いいところは無かったのか?」

「んー、基本的には優しいんだよ。わたし達が困っているのを見たらちゃんと助けてくれるしね」

「自分に対して甘いと言えばいいかしら? 外面が良いのは作っている訳では無くて素ではありますね」

「ふうん」


 女性陣の評価は悪くない印象だ。


「あいつ、訓練した俺に汗臭いから近寄るなって言うんだぜ!?」

「ワシは、早く引退したらどうじゃと言われたことがあるぞい。精霊は寿命などないから引退する必要はないと返しておいたが」


 しかし男性へは当たりが強かったようだ。ノルム爺さんはあまり気にしていないみたいだけど、イフリーは不満だったらしい。


「今頃どこにいるのかねえ……」

「捜索隊も聖女を探しているって公にはできないからねー。ギルドも頼れないし。でも早く見つけてほしいよ」


 シルファーがそう言って最後のソーセージを口に入れた。そこでふと、あたしは頭に浮かんだことを尋ねた。


「そういや聖女……アリアが居なくなったのは隠さないといけないんだろ? 誰に頼んでいるんだ?」

「いい質問じゃな。ワシらは伝えた通り精霊じゃ。そしてそれぞれに眷属が存在する」

「眷属?」

「おう! 風ならエルフ、火ならサラマンド。水ならネプチューヌで、土ならノームって感じだぜ」

「ワシが言おうとしておったのに……」

「まあまあ」


 ドヤ顔で説明しようとしていたところでイフリーが出番を奪い、ノルム爺さんががっくりと肩を落とす。

 どうやら自分達の部下といえる存在を使って探しているそうだ。エルフなんかはよく見かけるけど、まさか精霊の眷属とは思わなかった。


「例えばエルフのトップがわたしって感じだねー」


シルファーが椅子から立ち上がると、腰に手を当ててにっこりと微笑んだ。可愛い。


「あの子達なら口を割ることはないから、ちょうどいいんです。最初、リアさんを見つけた時は私の眷属でしたよ」

「なら数は居るだろうしすぐ見つかるか」

「……そうだね。さて、と。それじゃご飯も食べ終わったしお開きにしようかー!」


 すぐ見つかる、というところでシルファーが肯定したので、少し気分が軽くなったような気がした。

 立っていたシルファーがそのまま夕飯は終了だと宣言した。


「ええ。では、リアさん。明日から謁見が始まるからゆっくり休んでくださいね」

「お、そっか? なら風呂に行こうぜシルファー」

「わたしはお片付けをするよー。ずっとわたし達と一緒だったし、疲れたでしょ?」

「別に構わないけどなあ。クランに居る時はもっと騒がしいし」

「なら俺が一緒に……いててててて!? ディーネ、耳を引っ張るんじゃねえって!」

「ふん」


 鼻の下を伸ばしたイフリーがディーネに耳を引っ張られて悶絶する。

 あたしはいい気味だと口にしながら席を立つ。


「あたしも手伝うから一緒に入ろうぜ! ディーネも」

「そうしたいのはやまやまだけど……」

「明日からの打ち合わせをしたいので、今日はごめなさいね」

「あー、そういうことか。オッケー、ならお言葉に甘えさせてもらうよ」


 昨日はたまたま緊急で謁見があったけど、本来ならきちんとした手順があるんだろう。親父も重要な仕事の時は打ち合わせをしていたなと思い出す。

 まあ、邪魔をするのも良くないだろうしここは素直に言うことを聞いておくべきだと手を振って自室へと戻ることにした。


「……明日かあ。大丈夫かねえ」

 まあ失敗してもあの四人が怒られるだけだから気が楽だけどさ?


◆ ◇ ◆


「……行ったか?」

「うん、気配は近くに無いから部屋に戻ったみたいー」


 リアが立ち去ったあと、イフリーがシルファーに尋ねる。彼女は目を瞑って少し長い耳を動かして、遠くへ行ったことを告げた。


「では片付けをしてから会議室へ」

「後でもいいだろうに」

「ほっほっほ、ディーネは真面目じゃからな」


 ノルムは皿を手にして笑いながらキッチンへ向かう。ひとまず片づけを終えた四人は、会議室へ集合した。


「んで、リアはどうなんだ? なんか魔法適正は凄かったみたいだけどよ?」


 席に着いて開口一番はイフリーだった。まずは女性だけでということでシルファーとディーネに任せていたのでリアのことをあまり見ていない。

 なのでこれは報告会でもあった。イフリーに尋ねられた二人は少しだけ間を置いてから口を開く。


「……正直、驚きを隠せませんでした。あれほどの才能を見せられるとは」

「才能か」

「あのねー、リアは四属性全部を『相反せず』に使えるんだよ。闇属性は試していないけど、いけそうな雰囲気はあった」

「全……!?」

「じゃと……!?」


 シルファーの言葉にイフリーとノルムが冷や汗をどっと噴出させながら驚愕の表情を見せる。

 本来なら『冗談はよせよ』くらいの軽口を叩くのがイフリーだが、女性二人の雰囲気から本気であることを察して茶化すことはなかった。


「バカな……どこにでも居そうな娘ではないか。アリア様に似すぎているとは思うが、聖女みたいな力をもつはずがない」

「それは私も同意です。しかし、実際、この目で見ましたから」

「うん」


 ディーネがシルファーに目配せをすると神妙な顔で頷いた。疑問を口にしたノルムは腕組みをして話す。


「嘘をつく理由もない、か。仮に双子だと考えたら納得はいくかのう」

「いや、この数百年ここに居るけど歴代の聖女は必ず子供は一人だ。双子なんて産まれたら大変なことになる」

「確かに」


 双子ならどちらかが聖女候補という問題が発生するため、聖殿に話がいかないはずがないとイフリーが言う。するとシルファーが指を立てて返す。


「なら、どこかで聖女の血筋が突然変異したとか」

「拾われたって言っていたからそれもないでしょう。それにアリアの親類・縁者は全て網羅しておりますし」


 ディーネにそう言われて、それもそうかとシルファーは唸る。

 そしてディーネは咳ばらいをしてからトーンを少し落としてから全員へ言う。


「……ぶっちゃけ、アリア様より聖女としての適性があるかもしれません」

「ディーネ、それは――」


 急な申告にノルムが難しい顔で口を開く。しかし、ディーネは手をかざして『聞いて』と遮った。


「もちろんアリア様を探すのは続行します。で、連れ戻した暁には――」

「暁には……?」


 溜めを作ったディーネにシルファーがごくりと喉を鳴らす。


「アリア様とリアさんでユニットを作ります……! 巷ではアイドルという歌って踊れる人物をそう示すそうです。同じ顔で能力が高い二人が組めば話題になり、この聖殿も賑わい、お布施もがっぽがっぽ」

「がっぽがっぽ……!」

「まあ、支給金だけじゃアリアの我儘には足りねえもんな」


 お金の目になっているシルファーを見て、イフリーが肩を竦めていた。


「そうですね。それにリアさんの能力も見た目も素晴らしいです。貴族との出会いも用意できれば子々孫々ここに居てもらえるかもしれません」

「打算がすぎるのではないかディーネ?」


 ノルムは能力が今、高くても子がそうなるとは限らないという。実際、アリアの能力は先代より低いと告げた。


「それはあります。が、あの才能をシーフとして放逐するなど私にはできません! ふふふ、楽しくなってきましたよ! では、そういうことで。各自リアさんの成長を促していきましょう」


 ディーネはそれだけ言って席を立つと会議室を出て行った。残された三人は複雑な面持ちでしばらく黙り込む。


「……まあ、わたしはいいけどね。リアは口が悪いけど、気遣いができるいい子だよー。わたし達が頼み込んだとしても、簡単にやるって言わないし、アリアより我儘を言うと思うよ?」

「そうじゃのう」


 シルファーが指で髪の先をくるくるさせながら言う


「ま、ディーネの案はともかくリアには不自由なく過ごしてもらって、辞めないようにしねえとな」

「セクハラ禁止だからねー」

「ははは、からかうといい反応するからアリアより面白いぜ」


 シルファーが頬を膨らませて椅子から立ち上がると、イフリーは慌てて会議室から逃げ出した。


「はあ……大丈夫かのう」

「そこはわたし達がフォローすればねー。さて、明日から本番だし頑張っていこうねーノルム爺さん♪」

「……」


 シルファーが笑顔でリアの真似をし、ノルムはもう一度ため息を吐くのだった。


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