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第14話

 プチファイアという火属性の魔法を試しに使って欲しいと言われて試してみる。

 ちなみに属性相性というものがあり、火の適性があったら水属性系統の魔法は使えないかしょぼくなるのだそうだ。

 あたしは風が使えたので、土は微妙ってところだろう。


「〈プチファイア〉……っと」


 シルファーの出した魔法を頭に思い描いて魔法を使ってみた。


「うわあ!?」

「え? ……うわあ!?」


 その瞬間、シルファーが大きな声を上げた。あたしは目を閉じて魔法を使ったので何事だと目を開けると、なんかでかい炎が指先から出ていた。


「お、お、なんだよこれ!? でかすぎねえか!?」

「言葉遣いー! じゃなくて止めて止めてー!」

「え、ど、どうやって……?」

「こっち向いちゃダメー!?」


 指先の炎が勢いを増してきた。シルファーに言われて振り返ると、彼女は慌ててしゃがみ込んだ。

 炎よ消えろと思えばいいのかと思っていると、急に冷たい水を浴びせられた。


「ぷあ!?」

「なにをやっているのですか。花に火が移るところでしたよ!」


 あたしに水をぶっかけたのは花壇の水やりをしていたディーネだった。でかい炎が一瞬で消えたので魔法っぽいな。


「いやあー、ごめんねーディーネ。というかリア、今のはプチファイアだったんだよね?」


 そこでシルファーがあたしに確認をしてきたので、口を尖らせてから頷く。


「そうだよ。なんせ魔法なんて使うのは今日が初めてだ。シルファーの魔法を真似しただけなんだけど?」

「うーん」

「なんかあるのか? ……ふぇっくしょ!」

「話は着替えてからにしましょう。リアさん、こっちへ」


 シルファーがなにやら考え込む。質問を投げかけたけど、先に着替えた方がいいとディーネに手を引かれて部屋へと戻る。


「ふいー、びっくりしたなあ。魔法って制御しにくいって聞いたことがあるけど、それなのか?」


 自室で落ち着いたので再度シルファーに尋ねてみる。魔力の暴走……ってやつだったかな?


「……いや、リアのはちょっと違うねー。わたしはあくまでもプチファイアを使った。それをリアが見た。で、使った結果がアレってのはおかしいんだよー」

「おかしい?」


 シルファーが口を尖らせてあたしの身体をぺたぺたと触ってきた。すかさず捕まえて膝の上に置くと、ディーネが指を唇に当てて呟いた。


「まったく魔法を使ったことがないなら小さき炎が出て終わりのはずなのですよ。もし、魔力制御に失敗したとしても、あそこまで規模の大きい炎が出ることは無いので……」

「考えられるとすれば、リアの魔力が魔法を上回ったって感じー?」

「それだと暴走じゃないのかよ?」


 あたしは違いが分からなかったけど、魔力が暴走するともっと被害が大きいんだってさ。

 制御ができないからさっきみたいに火を留めておくことも無理という。


「ってことは無意識に制御していたってことか……」

「うんうん。出した魔法は魔力が強すぎて大きくなったけど、制御が出来ていたからわたしは丸焼きにならずに済んだってことー」


 あたしの胸に背中を預けながら上を向いてシルファーが肯定してくれた。なら魔法の素質があるってことか!

 雑にシルファーの髪の毛を撫でまわしていると、ディーネが話し出した。


「シルファーが軽く言っていますがこれは大変なことですよ。リアさん、あなたの才能はとんでもないもののようです」

「え、そうなの?」

「はい。ひとまず、残りの適正を見てみましょう」


 ディーネが真面目な顔で水と土の属性を見たいという。そこでコップに水を満たすという方法を行い成功した。

 さらに庭に出てから土魔法で穴を掘るという作業をさせられた。

 こちらも概ね問題なくできた。水は水筒が無い時に便利だし、穴も掘れるなら野営がしやすいよな。


「いやあ、魔法って本当に便利だな! 報酬もいいし、魔法が使えるようになったからアリアにすこーしだけ感謝しねえと。ん? どうしたんだ、二人とも」


 まったく使えない属性が無く、才能アリと言われたことが現実となり、あたしは喜んでいた。ここから去った時、あたしは最強のシーフとして名馳せることになりそうだ。

 だけど喜ぶあたしとは違い、シルファーとディーネは口をあんぐりと開けて固まっていた。


「どうしたー? シルファーは部屋に連れて行って飾るぞー」

「ハッ!? えい!」


 シルファーを抱っこしようとしたところで気が付き、あたしの手を払って距離を取る。そこでディーネも我に返った。


「あまりのことに意識を失っていましたね……」

「どういうことだよ? あたしに魔法の才能があったのがそんなに驚くこと?」


 ディーネの言葉を聞いて、指先から火を出しながら聞いてみる。するとため息を吐きながら首を振って言う。


「才能……なんてレベルで片付けられることじゃありませんからね? 四属性を全て劣化せずに使えて、さらに回復魔法も使えるんですよ! アリア様より凄いんですけど!?」

「おう、近い、近い……!?」


 段々ヒートアップして詰めてくるディーネを両手で抑えながら後ずさりをする。

 聖女と呼ばれていたアリアよりも使用属性が多い……というかほぼ全部が使えるあたしは大魔法使いと呼ばれる可能性を秘めているらしい。


「いや、むしろアリア様より聖女としての能力がっ!」

「ディーネ、それ以上はいけないよー」

「コ、コホン……そ、そうですね……。しかし、リアさんの力は想像以上でしたね」

「へへ、あたしもまさか魔法使いの才能があるとは思わなかったよ」


 あたしが笑顔で返すと、ディーネは一瞬だけあたしを見た後、肩を掴んで来た。


「リアさん、あなたの力は凄いものです。もしアリア様が見つかってもここに居て欲しいです! 同じ顔で強い能力! 二人を前面に押し出して売り込めば――」

「売り込む必要ないよー!?」


 目を怪しく光らせるディーネをシルファーが引き剥がしてくれた。一体どんな妄想を繰り広げているのかわからないけど、ロクなもんじゃないだろう。


「ま、これなら偽聖女としてやっていけそうだし、その点は良かったかな?」

「そうだねー。わたし達にとっては僥倖だね。それじゃ魔法のことはこれくらいにして、お昼ごはんを食べたらディーネのお勉強の時間だね♪」

「うへえ……」

「ふふふ、立派な聖女らしい女性にしてみせますよ……!」


 時間がかかったから勉強はお昼からのようだ。あたしはうんざりする気持ちを抱えながら食堂へ向かうのだった。


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