奇麗な花が咲いた花壇に、噴水があり、程度のいい町みたいな感じを受ける。
謁見の後、あたし達は案内がてら庭園に来ていた。
「凄いな、ここ」
「まあ、聖女の居る聖殿だからねー」
「はいはい、誤魔化さないの。さ、席に着いて」
しばらく歩いて行くとテーブルセットがある場所へ到着した。ディーネに促されて座ると、対面に彼女も座った。
「よっと」
「よっこらせ」
さらにイフリーとノルム爺さんが座り、シルファーをあたしの膝の上に置いて話し合いが始まった。
「なんでよー!」
「どうせ椅子が足りないしいいじゃない」
「立っていてもいいんだけど……まあいいや。それで、ディーネさっきの話は本当なのー?」
ひとまず危機は脱したことを喜んだものの、別の問題が発生してしまった。
そのため、あたしは四人のとテーブルを囲んでいた。
「ええ、間違いなくリアが癒しの力を使ったわ。あなた、一体何者なの?」
「いや、そんなことを言われてもあたしは目を瞑って言われた通りやっただけだぜ?」
「俺も見たけど、間違いなくリアがあの傷を癒していたぞ。お前、回復魔法使えたりするんじゃねえの?」
あの場に居たイフリーもあたしにそう投げかける。真面目な表情から本気で言っていることが分かる。
「魔法は使ったことがないって」
「それは――」
「本当だと思うよー? もし使えるなら渋々依頼を受けたりしないでしょ? まあ、癒しの力はともかく回復魔法が使える人は居るし、適正はあるんじゃないかなー?」
身を乗り出してきたディーネの追及をシルファーが手で制止した。ついでに考えられる推測を口にした。
「ムーンシャインは回復魔法じゃないんだろ?」
あたしはシルファーをぎゅっと抱きしめて、顎を頭に乗せてから聞いてみた。
「むぎゅ。そうだねー。『治れ』って言いながら手をかざしたから、発動したんじゃないかな?」
シルファーが言うには、魔法名は自分でイメージを強くするために口にしている人が多いそうだ。
いちいち魔法名を口にしないと使えないなら、例えば口を塞がれた時に魔法使いは役立たずだということになるとのこと。
それを聞いてあたしはなるほどと納得する。言われてみれば魔法がそんなに不便なわけがないのだ。
確かにあたしはあの子の傷が治ればいいと思いながら癒しの力を口にした。
「ということはあたしにも魔法が使える……!」
「そうじゃのう。アリア様にそっくりで回復魔法を使えるならこちらとしても大変助かる」
「だなあ。簡単なケガならリアに任せてもよくなるし、シーフで回復魔法が使えたら将来性もあるよな」
「イフリーお前いいこと言った! そうだよ、仕事が増える!」
冒険者はケガが多い仕事だから特に魔法使いは重宝される。回復魔法が使える奴はそれほど多くないので、もし自在に使えるようになったら――
「リア、涎が出てる!?」
「おっとごめんごめん」
将来、お金持ちになった自分を想像していい気分になっていたみたいで、危うくシルファーの髪に涎が落ちるところだった。
「ふうむ、実は生き別れの姉妹だった……ってことは無いかしら?」
「あはは! あたしは確かに捨て子だったけど、流石にそれはないんじゃない? もしそうならもっと真剣に探していると思うし」
「先代の聖女様もそういうことは言っておらんかったしのう」
「……確かにそうですが」
ディーネの推測はあたしとノルム爺さんの言葉で一蹴されてしまった。
顔が似ているのは確かにそうだけど、聖女の娘だったら捨てられないよなあ?
先代であるアリアの母ちゃんも娘が二人いるなんて話はしていないから間違いなくあたしは違うよ。
「まあまあ、あたしのことはどうでもいいとして、聖女ってそもそもなんなんだ?」
これ以上、ディーネに突っ込まれるのも面倒だと思ったので話を逸らす。
「あー、そっか。リアはこの国の人間じゃないんだよねー」
今後、アリアが見つかるまではこの仕事をするわけだし、知っておいて損はないと思ったのもある。
するとシルファーが咳ばらいをすると、膝から飛び降りてあたしの方に向いた。
「こほん。さて、それじゃ基本的なところからかなー? ここがヨグライト神聖国なのは知っているよねー?」
「ああ。狙って調査に来たからな」
「うん。聖女ってここに居るアリアが唯一ってわけじゃないんだけど、聖女と呼ばれる存在はこの国が発祥なんだー。大昔に戦争で傷ついた人達を癒し歩いたっていう伝説があってね。その家系の人間は癒しの力を得る……そう言われているよ」
「へえ、危険なところにわざわざねえ」
「まあねー。当時は回復魔法とは違うものだと言われているよー。でもアリアもお母さんも普通だったよねー」
感心したところでその回答を貰い、あたしはずっこける。でも大昔のことなら尾ひれがついてそんなものかもしれない。
「でも、当時の国はとても助かったから、聖女として王族並みの待遇になったとされるのー」
「なるほど、それでこの聖殿かあ」
で、代々、貴族と結婚して子供が出来ると女の子は次の聖女候補になるそうだ。
男の子は聖女になれないので、早い段階で結婚して子供を作るとか。
「それは……どうなんだろうなあ」
「なにがー?」
「いや、男は聖女を作るため、女は聖女になるためだけに生まれるみたいなもんじゃん?」
「まー、そうだねー」
なんというか自由が無いなと思ったね。貴族との結婚ってのも強制みたいで、好きな奴と一緒になれないと言っているようなもんだ。
「ああ、だからアリアはここを逃げたってことか」
「……そうだねー。気持ちはわかるけど、エトワール家の習わしだからさ」
アリアは貴族扱いでエトワールという家名を持っているそうだ。平民と違って貴族は煩わしいことが多いから仕方ないとシルファーが肩を竦めて笑っていた。
あたしには関係ないけど、気に入らないなと感じている。金はあっても自由が無いなら生きている意味があるのかね?
「とりあえず成り立ちはそんな感じ。で、聖女になったら基本働かなくていいんだけど、一日に何度か謁見があるんだよ」
「謁見……」
丁度先ほど体験したばかりなので渋い顔をすると、今度はディーネが説明を変わった。