――あたし達は一時間おきに休憩をとりつつ、まっすぐ目的地へ向かっていた。
道中、ヴァイキングウルフやポイズンフロッグ、ジャイアントアントといった魔物に出くわすも、奇襲をかけて確実に倒していく。
「ほーら、お前等の好きな虫だぞー……よし、かかった!」
木の棒にロープをくくりつけ、釣り竿のようにしてジャイアントアントを釣る。
「そんな狩り方があるのか……」
「直接戦闘より楽だぞ? さて、剥ぎ取りだ」
困惑した様子の男の言葉に、あたしはあっさりと返す。それと金になるので、少しだけ待ってもらい素材の回収もちゃんとしていった。
「……早くいきませんこと?」
「すまねえ、もう少しだ。……っと、ありがとよ。行こうぜ」
「そこまでしてお金が欲しいんですか?」
女が立ちあがったあたしに向けて、そんな言葉を吐いてくる。カチンときたあたしは、詰め寄りながら苛立ちを隠しもせずに返答した。
「そこまでして、とは随分だな。金を稼ぐのがどれだけ大変か知らねえのか? これだけの素材を持ち込んでようやく銀貨五 枚ってとこだ。魚店や野菜売りだって、一日の売り上げが銀貨五枚から七枚になるかどうかだぜ? あれだけの宝石をポンと出せるあんたは金持ちかもしれねえが、あたし達みたいな冒険者はこういう細かいところも無駄にはできねえ。それに、殺したこいつらも無駄死にになるだろうが」
「そ、それは……」
あたしの剣幕に押されて言葉を詰まらせる女の子。すると庇うように男が間に割って入って来た。
「すまない。彼女は君を侮辱したわけじゃないんだ。少し裕福に暮らしていたということで勘弁してくれないか?」
「ふん、ま、別にいいけどよ」
どうせ町までの短い付き合いだし、貴族のお嬢様に理解が出来るとも思えない。
あたしは二人から離れると、また周辺の警戒を始めた。
「あなたは――」
「うん?」
無言で歩いていると、不意に女の子から声をかけられた。振り返らずに生返事をすると、彼女は話を続けた。
「あなた、ご家族はいらっしゃいますの?」
「へ? ああ、一応いるぜ」
「一応?」
訝し気に尋ねて来たので、あたしは少しだけ振り返ってから答えてやる。
「あたしは赤ん坊のころに捨てられていたらしいんだ。で、所属しているクランの親方が拾ってくれた。いわゆる義父ってやつになってくれた」
「なんと……」
男の方が驚愕だといった感じで声を上げた。そこであたしは手を振りながら笑う。
「同情とかはしなくていいからな? 捨てられて生きていただけでも儲けものだし、今の生活は楽しいからな」
「盗賊、なのにですか?」
その言葉を聞いてあたしは立ち止まり、首だけぐるりと回して睨みつける。
「追い剝ぎとか強盗と一緒にするなよ? きちんとギルドに認められたシーフだ。この護衛もギルドで依頼してくれれば対応するんだぜ?」
「す、すみません……」
女の子はあたしの怒気を受けて委縮し、男の後ろに隠れるように移動した。なんとなく誤解されたままなのも嫌なので言葉をつづけた。
「宝箱の罠を解除したり、隠し扉を見つけるとか、特にダンジョンだと一人は必要なんだぜ? 魔法使いと同じくらい、必要な人材だ」
「わ、わたくしだってかいふ――」
「よすんだ」
「ん?」
なにか言いかけたところで男に止められていた。気にはなったけど、聞こえなかったことにしておこう。
「あ、は、はい……あの、すみませんでした」
「いや、あたしも言いすぎた。すまない」
女の子がすぐに謝ってきたので、あたしも倣っておいた。世間知らずのお嬢様ならこんなものかもしれないと考え直したからだ。
「――のでは?」
「しかし――」
それからは妙な空気になり、押し黙ったまま先を急ぐ。道中、二人が小声でなにか話し合っていたけど、気にしないようにしておいた。
そして陽が傾き、夕方に差し掛かったころ目指す町が見えて来た。
「あそこだな?」
「ああ! ようやく到着した」
「よ、良かったですわ……も、もう歩けません……」
「後は僕が背負っていくよ」
町が見えて安堵したのか、女の子はその場にへたり込んだ。男は苦笑しながら残りの道中、彼女を背負って歩き出す。
彼氏ってのも大変だなあ。力が強いのは悪くないけど、あたしは足手まといになりたくはないかな。
と、そんな機会が訪れるのかもわからないことを考えつつ移動をし、いよいよ目的地の町へ入った。
「よし、それじゃここまでだな! 依頼完了だ!」
「本当にありがとう。それじゃ報酬を……」
「待ってください。あの、ここまでありがとうございました。お礼も兼ねて、夕食をご一緒しませんか? わたくし達も今日はこの町でゆっくり休みたいと思いますので……」
「え? うーん、別にそこまでしてもらわなくても……」
報酬さえもらえれば後はどうでもいいんだよなあ。かといって今の時間なら後は宿をとって飯を食うだけというのも事実だ。
「もちろん、報酬とは別にご馳走しますわ」
「お、本当か! なら、折角だしご一緒させてもらおうかな」
「ええ、是非! うふふ」
フードの下から見える口が柔和な笑みを作っていた。少しとはいえここまで一緒に来た仲だ、最後くらい一緒に飯でも食うかね。
お互い宿を取ってから合流しようと提案され、あたし達は同じ宿を取った。
部屋に荷物を置いて鍵をかけてからロビーへ行くと、受付と話している二人を発見した。
「お、早いなー」
「はひ!?」
「ん? どした?」
あたしが声をかけると女の子は大げさに飛び上がって驚いていた。大声を出したわけじゃないんだけどなあ。
「はは、ちょっと美味しいお店がないかの話に夢中になってしまったんだ。それじゃ行こうか」
「オッケー」
宿を後にして受付の親父さんに聞いたという酒場へと足を運ぶ。
すっかり陽が暮れた道は人通りが少なくなり、家屋に灯りが見えていた。
「あそこですわね」
「へえ、いい感じじゃん」
女の子が指した先には外にテーブルを出して飲んでいる冒険者達が居た。中を覗いてみると、かなりの賑わいを見せていた。
「こりゃ確かに人気店かもな! あ、三人だけど座れる?」
「いらっしゃいませー! えっと……あ、ちょうど角の席が空きましたからあそこへ!」
「サンキュー。ほら、行こうぜ」
「ええ!」
女の子は今までと違い、テンションが高かった。
やっぱり美味い飯と酒って聞くと気分が上がるなと思いつつ、あたし達は席についた。