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第2話

 ――翌日


 たっぷりとビールに果実酒を飲み、ここの名物であるホロッホ鳥の香草焼きを食べた。

 つまみにはトマトと粉チーズのサラダとふかふかの小麦パンを食べ、昨日は至福の時間を過ごした。


 酒場のおばちゃんには未成年に間違われたけどな。あたしは立派な成人だっての。


「よし、行くか!」


 気分よく朝を迎えたあたしはてきぱきと準備を行い受付に向かう。


「またおいで」

「気が向いたらな」


 受付の兄ちゃんが柔らかく笑い、手を振るのを横目で見ながら宿をチェックアウトした。

そのままあたしは仕事をするため再びギルドへ向かう。もちろん親父に頼まれた依頼のためでもある。


「ここでうまく行きゃあ他の国にも調査に行かせてくれるかな? ちょっとした旅行みたいで楽しいよな」


 クランのみんなと依頼を受けるのは気が楽だけど、たまにはこうやって一人で腕を磨くのも悪くない。

 みんな食うために必死だからそんなことは言えないけどね。お金が無くなるとギスギスしちまう。そうならないためにも調査が必要なのだと親父は言う。

 そんなことを考えながら歩いているとやがてギルドに到着した。

 中へ入り、特にシーフが必要そうな依頼を物色する。


 しかし、今日はダンジョン探索や開錠、魔物討伐の斥候というような依頼は軒並みバツがついていた。もう他のパーティに持っていかれた後、というわけ。

 受付でなにかないか聞いたところ、眼鏡をかけた兄ちゃんが申し訳なさそうな顔で。来たばかりのやつならあると、あたしに依頼を差し出した。


「簡単な依頼で悪いが、マッシュルームスネークの頭が足りないらしくてな。こいつでどうだい?」

「ああ、構わねぇよ。何匹くらい必要だ?」

「最低二十だな。それ以上なら少しおまけしてやるよ」

「その言葉、忘れんなよ! 行ってくるぜ!」


 愛用のダガーが腰の定位置にあることを再度確認し、毒消しの薬がカバンにあるかチェックする。

 革鎧などの装備も問題なかったため、あたしは町を出て森へと入っていく。


「少し遅れただけで、もう依頼が埋まっているとはね。この町は冒険者が多いのかな? ま、しばらく様子を見て、いい依頼が受けられないことが続くようなら別の町へ行くか」


 森で目標を探しながら散策する。一人でも森の深いところへ行かなければ危なくないし、あたしなら逃げきれる。


「さて、今日の依頼のターゲットは茂みの中に……お、いたいた……」


 マッシュルームスネークという魔物は、頭がキノコのように大きく膨らんでいる蛇の姿をしている。

 で、草むらから頭だけを出してキノコに擬態し、獲物が近づいてきたところをバクッといくってわけだ。

 噛んだ後は毒を注入して相手を麻痺させ、肉をかじり、血を吸っていく。

 普通の蛇と大きさは変わらない割に結構凶悪なんだけど、麻痺毒は医者が麻酔ってものに使うらしく、数はあったほうがいいって話だ。


「へへ、あたしの飯を豪華にしてくださいませっと」


 背後からそろりと近づき、素早く首を落とす。

 こいつらは手を伸ばした際に感じる体温や呼吸で相手との距離を測っているらしいから、ダガーの先でちょんと斬れば良い。

 狙って相手をする分にはそれほど恐ろしい相手じゃないんだよな。


「よし、これくらいでいいだろ」


 休憩を挟みつつ、合計二十五匹のマッシュルームスネークを倒した。その場で血抜きし、袋に入れて今日の依頼は終わりだ。

 昨日の稼ぎと合わせて今日も豪勢な飯が食えるため頬が緩む。

 お昼を回っている時間なので、遅い昼食でも食べて町でカードゲームの賭け遊びか、風呂屋に繰り出すのもいいかもと算段する。


 だけどその時――


 ガサガサと、草むらが激しく揺れる音がして、あたしはすぐに身をかがめて耳を澄ます。


 ……距離は五メートルってところか?


 この付近であればヴァイキングウルフかゴブリンの可能性が高いかと思案する。


「一匹なら倒すけど、群れなら逃げるべきだな」


 こんな森の浅い場所にはいないと思うけど、もしオークかトロルの場合であれば戦う選択肢は無しだ。


「きゃあああ!?」

「下がって! ……はあああ!」


 ひとまず遭遇した時のプランを考えていると、女の子の悲鳴と男の咆哮が耳に入って来た。


「キャウン!?」

「グルルル……」


 さらに狼の声が聞こえてきて、先ほどのガサガサという音の正体は、移動しながら戦闘中だったためということが分かった。

 すぐに音がする方へ向かい、気配を消して木の陰からそっと様子を見る。不用意に飛び出していいことは何一つない。

 あたしが何も考えずに飛び出すのは装備品のバーゲンセールか新作料理の時だけだと決めてある。


「……やっぱヴァイキングウルフか、一匹は倒したみてぇだけどまだ残りは三匹もいやがる。あたしが奇襲すりゃ殺れるか?」


 男女はフードを目深にかぶっていて顔は見えないが、剣を構えているほうが体格もいいし、おそらくこっちが男だろう。


 ――さて、あたしはヴァイキングウルフの背後をとって隠れているので、ウルフからあたしは死角ということになる。このまま襲撃してもいいけど、できるかぎり安全策を取っておこうか。


 とはいえ、ヴァイキングウルフにダガーで立ち向かうのは困難だ。奇襲でもすればいいけど……


「そうだ!」


 あたしはいいことを思いつき、さっきの袋からマッシュルームスネークを取り出す。


「くそ……囲まれたか!」

「う、うう……」


 近いな、ここから動かないなら好都合だ。準備を整えようっと。


「こいつを……こうして、っと。で、この辺に――」

「命をかけて君を守る!」


 おー、カッコいいことを口にしているな、兄ちゃんは。もう少し待っていてくれよ!


「よし、これでいけるか? それ!」

「きゃいん!?」

「ん? なんだ? ……あれは!」


 あたしが石をヴァイキングウルフへ投げつけると、その内の一匹にヒットした。

 ウルフが悲鳴を上げると同時にフードの剣士と女の子もこちらに気づく。


「ガウウウ……」


 こちらの姿を見せると、ウルフ達は計画通りこっちに視線を向けてくれた。


「おうおう、威勢がいい狼どもだな! しかしこいつを見てもそんな態度でいられるかな!」


 こちらに視線が向いたので、あたしは草むらの上に乗せている袋や上着をサッとはぎ取った。

 するとそこに二十五匹のマッシュルームスネークがずらりと並んでいた。


「わ、わふ……」

「くぅん……」

「大人しくなった……?」


 フードの兄ちゃんがポツリと呟いた。さっきも言ったがこの蛇は大きくないけど毒はかなり厄介だ。魔物には効き目が薄いらしいけど、麻痺させられて齧られることは珍しくない。

 動物の本能でこいつらをみてヤバいと感じて竦んだみたいだ。


「おい!」

「……! 分かった」


 あたしはジェスチャーで攻撃するタイミングを合わせる旨を伝えると、フードがこくりと頷いた。そこで念のため腰のダガーを抜いてから――


「おああああ!」

「わ、わんわん!」


 あたしが大声を上げてウルフ達を威嚇した。

 その瞬間、ウルフたちはビクッと体を強張らせた。だが、その内一匹は弾かれるように地面を蹴ってあたしのところへ向かってきた!


「いい気迫じゃねえか。だけど、残念だったな」

「ぎゃわん!?」


 ウルフが突っ込んできたのであたしはすぐにマッシュルームスネ―クの死体を掴んで投げつけてやった。するとびっくりしたウルフが一瞬怯み、あたしの作った落とし穴にはまってしまう。


「うおおおおお!」


 そこでフードの男が怯んでいた残りのウルフ達へ剣で斬りかかった。


「ぎゃん!?」

「きゅうううん……」


 お見事!

 剣士は一瞬で三匹の額を割り、一瞬で絶命させた。 

 さて、とりあえず周囲に気配は無いし、助けたお礼に獲物をいただこうかな?


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