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EX17 とあるエピローグのような

「轟ちゃん、よかったのか? 二年生たちだけにして」


「よくない」


「なら」


「コウ、津田んがイジメる」


「……それは酷いね」


「おい」


 駅の改札前で俺たちは喋っていた。

 土曜日の夕方、この時間はそんなに人がいなかった。

 まばらに通り過ぎる人たちを眺めながら俺たちは話を続ける。


「きっと今頃」


「あーあー、聞きたくない」


「……コウジ、いじめ過ぎだよ」


「俺が悪いのかよ」


「悪い」


「……悪いね」


「おい」


 このバカップルが。

 まったく。ならそんな浮かない顔すんなよ。

 そう思っていると、轟ちゃんがこちらを睨んできた。


「津田んが杉野んに発破かけるからだ」


「俺のせいかよ」


「そうだ。全部津田んが悪い!」


 完全にいじけていた。

 助けを求めコウに視線を送るが、困ったように笑うだけだった。

 俺は溜息を交えながら言う。


「とはいえ、遅かれ早かれこうなっていただろうな」


「分かっている」


「ならそんなに不満げにするなよ」


「だって! みんなで楽しく終わりたいじゃん……」


 その言葉を聞いて、俺もコウも返す言葉がなかった。

 そうだよなぁ。別に終わり良ければ総て良しってわけじゃないが、最後だからと気張っている自分がいるのも事実だ。

 けど、あのバカどもにとっては今が青春の真っただ中なのだ。

 俺たちは有終の美を飾ろうと思っているが、あいつらはこれから始まるのだ。


 たった一年の差。

 それだけでここまで考えが変わってしまうものとはね。

 あー、やだやだ。センチメンタルになるのは、俺っぽくないな。

 無理やり話を振る。


「轟ちゃん的に配役発表は満足かい?」


「…………」


「轟ちゃん?」


「……正直複雑。私はやりたい役とれたけど」


「あー、二年生たちね」


「佐恵んはいいとして、香奈んと栞んはきっと思うところがあるだろうね」


「仕方ない。実力主義、だろ?」


「分かっている! 分かっているけど…………うー! コウ~」


 コウに抱き着く轟ちゃん。

 優しく受け止めながらコウは困った表情をしていた。


「……はいはい。配役発表っていうとコウジ。樫田の方はどうだった? 一番ストレスあったんじゃない?」


「だろうな。けどあいつらしく徹底的に今後三週間の予定考えていたぞ。何パターンもな。配役発表の結果どうなるかも分かっていたし大丈夫だろ」


「……なら大丈夫だね」


「それは違うよ」


 コウの胸に顔を埋めながら、轟ちゃんが否定した。

 ああ、そうだな。


「樫田んはしっかりしているし賢いけど、メンタルが強いわけじゃないよ」


「さすがは部長。よく分かっているじゃん」


 俺がそう言うと轟ちゃんは勢いよく振り返り、こちらを睨んできた。

 な、なんだよ。


「私的には、今回樫田んを演出家にしたことも不安要素」


「そうかもしれないけどよ轟ちゃんが言ったんだろ。託せるモノはなんであれ託すって」


「……」


「大丈夫だよ。樫田自身も自分の立場を分かっているって」

「私、津田んのそういうとこ嫌い。立場とかじゃないじゃん。同じ演劇部の仲間じゃん……」


 泣き出しそうな顔で言う轟ちゃんをコウが頭を撫でて落ち着かせる。

 こういう言い方はよくないかもしれないが、男と女の違いなのだろうか。それとも価値観の違いだろうか。

 どちらにせよ俺やきっと樫田もそういう考え方を持たないと行動できないんだよ。


「……未来。コウジはそういうこと言うやつだけど、それはみんなを思ってのことだよ」


「分かっている」


 コウが優しく諭すと、轟ちゃんは複雑そうな表情を作った。

 まぁ、俺達の間柄では今更な話だ。

 轟ちゃんも俺もコウもそれぞれ考え方は違うし、見るところも考えているポイントも別々。

 それでも寄り添って、擦り合わせて俺たちは俺たちの代を作ってきた。

 俺は歩み寄る。


「役者の轟ちゃんには分かりにくいかもしれないけど、演出家として今回の劇をやることは樫田にとって、いや二年生たちにとって有意義なことだ」


「それは分かっているつもり」


「じゃあ最後ぐらい信じないと」


「そう、だね」


 ゆっくりと轟ちゃんは答える。

 複雑な心情は察するに余りある。

 俺もまた二年生のことを考えると落ち着かなくなる。

 いつの間に、こんな親バカになったんだか。

 そんなことを思っていると、コウが本題へと切り込む。


「……信じるなら、僕たちが今決めるべきことはそれじゃないだろ?」


 何のことを言っているのか、すぐに分かった。

 轟ちゃんもだろう。ゆっくりと顔を上げる。


「分かっているよコウ」


「賽は投げられたってやつだな」


 自分で言って、自分で納得する。

 もう引き返すことはできないということを。


「コウも、津田んもいいよね?」


 轟ちゃんが聞いてきた。

 きっとこれは最終確認だ。

 俺たちの三年間、そしてこれからの演劇部について。


「……僕は大丈夫だよ」


「俺も問題ないぜ、轟ちゃん」


 決意を込めて返事をする。

 これからの三週間、部活は春大会に向けて動き出す。

 そしてそれは俺たちの引退を意味する。

 それまでに残った仕事をしなくてはならない。


「話をしよっか。次の部長について」


 轟ちゃんの一言で、一気に緊張感が増した。

 俺たちは人波が流れる駅の改札前でしばらく話し続けた。

 託すための想い話を。


 きっと、これが俺たちの青春の終わり。


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