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第104話 久々のゲーム

 俺は家に帰りシャワーを浴びて夜ご飯を食べ、自室に戻った。

 今日は色々あったな。

 そう思いながらベッドに腰掛ける。

 とりあえず池本のことは落ち着いたのだろう。

 だがオーディションのこと、山路のことと続く問題は存在する。

 休んでいられない。

 とはいえ、どうしたものか。

 そう考えていると、スマホが震えた。

 二年の男子グループにメッセージが来ており、相手は樫田だった。 


『久々にモン狩るやらんか?』


 突然のことに困惑しながらも、俺は返事を返した。


『やるか』


『なんか久々だな』


『いいよー』


 俺はすぐにゲームの電源を入れる。

 そして、なんなら通話しないか? という樫田の意見で話しながらやることになった。

 ……何かあるのではないかと疑ってしまう自分がいた。

 下衆の勘繰りというやつだろうか。

 グループチャットを作ると、すぐにみんな集まった。


「お疲れさま」


『おう、悪いな、急に誘って』


『なんか樫田から誘うの珍しいな』


『お疲れ様―、そうだねー、なんかあったー?』


『まぁ、ちょっとした気分転換だ。今日色々あっただろ?』


 大槻や山路も同じように思ったのだろう。

 対して樫田は、さらっと答える。

 それ以上は誰も踏み込まず、ゲームを進めていく。

 他愛ない話をしていく中で、大槻が言う。


『そういえば池本、めっちゃ化けたらしいな』


『あ、僕も聞いたー。よかったねー』


『そうだな。今日の段階であそこまで化けたのはでかいな』


『まぁ、俺たち的はそこまで関係ないけどな』


『女子たちは競争率高いからねー』


「確かに……田島や金子はどんな感じなんだ?」


 俺はふと気になったことを聞いた。

 池本ばかり気にしていたから、他の二人についてあまり知らなかった。


『金子は特出して抜きん出ていることはないが、無難にこなしているぞ』


『田島はけっこう良いよー。ひょっとしたら女子のみんなと戦えるかもってぐらいに良い演技するねー』


「そっか、樫田から見てどんな感じなん?」


『二人の言っている通りだな…………特に田島はオーディションで何の役を狙うかで番狂わせをするかもな。金子は初心者が抜けてはいないが、決して悪い演技はしていない、ただ…………いや何でもない』


 何かを言いかけて、樫田は口をつぐんだ。

 気になったのは俺だけではなかった。


『なんだよ。もったいぶるな』


『実は金子からオーディションについて、相談を受けてな』


『ああー、今日の孤独列車終わった後に話していたのってそれー?』


『そうだ。詳細は話せないがちょっと予想外でな』


『お、樫田が予想外のこととは珍しい』


『そんなことはない。特に最近はな』


 樫田がそう言うと一瞬沈黙が生まれる。

 みんなそれぞれ、思う当たることがあったのだろう。

 俺は少し踏み込んでみることにした。


「予想外っていうと、正直山路に主役やるって言われたことも予想外だったなぁ」


『まぁ、そうだよねー』


『…………』


『…………』


 山路は平然といた声で答えるが、樫田と大槻が何やら静かになった。

 ああ、やっぱり俺の知らない何かがあるのか。


『どうしたの杉野―? 僕が主役目指す理由知りたくなったー?』


 山路が俺に聞いてくる。

 顔の見えないこの状況では、山路の意図が分からない。

 ただ、俺は正直に答える。


「興味はある。けどさ、あの時も言ったけど役者が主役を狙うのは普通のことだし、必要なのは言葉じゃないだろ?」


『ふふ、そうだね』


 俺の答えに満足そうな笑い声が聞こえた。

 津田先輩や椎名にはああ言われたが俺は同じ役を狙うライバルとして、山路とは対等でありたかった。

 少しだけ、雰囲気が和んだのを感じた。

 また少しだけ沈黙が流れる。

 破ったのは大槻だった。


『なんつーかさ。俺達二年生になったんだな』


 どこか感傷に浸るような口ぶりだった。

 樫田が冗談交じりのように茶化す。


『どうした? らしくないな』


『だねー、珍しいー』


『うっせい! 俺もたまにはそういうこと言うんだよ』


「ははは……でも確かにな。もう俺達二年生だ」


『だろ杉野? 分かるだろ俺の言いたいこと!』


「分かるよ。俺も最近よく実感する」


 俺は大槻の言葉に同意した。

 どうしようもない現実的変化。


『でも、そうだねー。もう去年とは違うねー』


『そうだな。後輩も入ったし…………先輩たちももうすぐ引退だな』


 笑いながら、それでも真剣に樫田がまとめた。

 ああそうだ。後輩が入ったことによる変化ばかり実感しているが、もうすぐ先輩たちが引退するんだ。

 その当たり前が、未だに想像できていない。


『そういえば、先輩たちの引退式どうすん?』


『確かにー、全然考えてないねー』


 大槻が思い出したかのように聞いて山路が乗っかる。

 言われてみれば、どうすんだろ。

 演劇部恒例の引退式。今年は俺たちが幹事をやることになるのだろうが、全然そんな話は出ていなかった。


『それなら、女子がある程度案を固めてくれている』


『あ、そうなん?』


『ああ、俺もこないだ知ったんだが……』


『椎名と増倉が話しているところ想像つかないねー』


 そういえばいつぞや増倉が女子のグループチャットがあるって言っていたのを思い出した。

 なるほど、そういう話をしていたのか。


『でも、さすがに女子に任せきりってわけにもいかないだろ』


『それなんだが、買い出しを頼まれていてな。明日買いに行くんだが誰か一緒に行かないか?』


『今日の目的はそれだねー』


『まぁな』


 山路が突っ込むと樫田は素直に認めた。

 なるほど、そういうことか。

 樫田が申し訳なさそうに続ける。


『オーディション前の忙しい時に悪いんだがどうだ?』


『別にいいぞ』


『問題ないねー』


「大丈夫」


 その問いに俺達は即答するのだった。



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