俺らが公園に入った時、誰もいなかった。
だが、ほんの数十秒後にみんながやってきた。
今日の暑さのピークは過ぎたはずなのに、やけに熱を感じた。
入ってきたみんなの表情の真剣さにあてられたのか。
はたまた内から生まれる直感が危険信号を出しているのか。
公園の中央にいる俺たちの近くへみんなが歩いてきた。
声が届く距離まで近づくと、大槻が言った。
「みんな来てくれてありがとう」
「……ありがとう? おかしいわね感謝される言われはないわ」
先陣を切るかのように一番前に椎名がいた。
静かに、されど透き通る声の中には明確な怒気が混ざっていた。
俺は心配になり横にいる大槻を見る。
動じることなく堂々とはしているが、それは彼の覚悟が奮起させているのだろう。
俺はみんなの中でなぜか一歩後ろにいる樫田に目を向ける。
視線に気づいた樫田は困ったように笑うだけだった。
その意味を俺は解釈できなかった。
それでも話は始まる。
「ああそうだな…………みんな! 本当にごめん! 俺最低なことした! 一年生の歓迎会っていう大切な時に自分のことを優先して周りのこと考えないで勝手なことした! みんなを困らせて、怒らせて、迷惑をかけた! 本当に申し訳ない!」
大槻が深く頭を下げ、謝罪をした。
俺は反応を確認する。
みんなは黙って大槻を見ている。
その表情は険しかった。
何だ? この感じ。
まるでここまでは予定調和のように、何も驚くことないと言わんばかりだった。
「顔を上げて頂戴」
椎名の言葉に大槻が顔を上げる。
そしてそのまま椎名が話を進める。
「今回の……昨日今日のことを大槻がどこまで杉野から聞いているか分からないけど、二人が話し合っている間も私たちは話し合ったわ」
「……」
「正直、未だに結論が出てないわ。分かる? あなたがしたことはそれだけ私たちにとって大きなことなのよ!?」
「椎名……」
「でも、簡単に許すことも、まるでこのことをなかったことのように今まで通り過ごすこともできない。私たちは前に進むしかないの」
「……っ」
許すことのできないという言葉に、大槻が拳を強く握る。
話しているうちに、徐々に椎名の感情がぶつかってくる。
重く熱い感情だ。
「だから、大槻私たちを一人ずつ納得させなさい」
「……納得?」
「そうよ。これから私たち一人一人と話して、私たちの言いたいこと全部受け止めて、そして私たちを納得させなさい。それができなければ――」
椎名は一直線に大槻を見て、そして言った。
「部活を辞めなさい」
「……っ!」
「おい! 何でだよ!」
思わず声が出た。
椎名は大槻から目を離さない。
他のみんなも、決定事項のように何も言わず同意している。
「何も辞めさせること――」
「杉野!」
大槻がみんなの方を向いたまま俺の名前を叫んだ。
言葉が止まる。
大丈夫だから黙ってくれ。
そう言われた気がした。
「みんなを納得させれば、俺は部活にいていいんだな?」
「ええ」
「分かった」
「……そう、よっぽどの覚悟なのね」
「ああ」
二人の、いや俺以外のみんなが決意した。
なら、俺に言えることはないじゃないか。
椎名はチラッと俺を見た後、後ろに下がった。
そして交代するかのように樫田が前にやってきた。
「てなことで、やることは決まったわけだが詳細を説明するぞ」
どうやら、ただ話し合うのではなくルールがあるようだ。
まるでいつもの話し合いの進行役のように樫田が話す。
「まず制限時間は一人当たり三十分だ。五人だから長くても二時間半。時間に納得させれば五分で終わってもいい。あくまで最長三十分ってことだ。それで内容……何をどう納得させるかって話だが、それぞれみんな議題を考えてきた。だからまずこっち側が大槻に言いたいことを言ったり質問したりする。その議題について大槻が納得させればいい。要はディベートみたいなもんだ」
「ディベート……」
「そう。判断基準はそれぞれ違う。だけど……そうだな。さっき椎名も言ってたが俺たちはまだ結論を出していない。それはお前を辞めさせるかどうかってことじゃなくて、部活のこととか二年生としてとか色んな事を考えているからだ。今言えることはざっと以上だが何かあるか?」
「……いや、大丈夫だ。するべきことは分かった」
樫田の説明に、大槻は頷いた。
たぶん、樫田が最後に言いたかったことは、みんな悩んで迷っているということだろう。
だから誰一人として納得しない前提で望んではいないということだ。
「ああ、そうそう。分かっていると思うが杉野。お前は口出し禁止な」
「……分かっているよ」
思い出したように俺の方を見て樫田は注意した。
ああ、大丈夫だよ。
きっと俺が出ることでみんな納得から離れるだろう。
これは大槻の問題だ。
何を問い、何を確かめるのかは分からない。
それでもみんなが整理して結論付けるために出した方法だ。
なら見守るしかない。
俺の言葉に安心したのか、樫田は笑顔になり大槻の方を再び見た。
「じゃあ、始めようか」