「! どこだ!」
「落ち着け」
俺の反射的な叫びを樫田が冷静に留める。
ただ女子たちも気が気でないんだろう。
そわそわとせわしない。
「全員行くつもりか?」
「それは……」
注目が夏村に行く。
確かに合わせるべきか? そもそも夏村自身はどうしたい?
「私は行かない。その方がいいと思う」
「そう、ね。そうかもしれないわね」
「そうだね。わかった」
夏村が示した意思に、椎名と増倉が頷く。
まるで、その短い言葉だけで何かを分かり合ったかのように。
「じゃ、他が行くなら俺も一旦残るわ。会計とかやっとくから早く行きな」
「おう、わかった」
「杉野、山路に連絡すれば場所分かるから。こっちもすぐに追いかける」
「ありがとう、早く来いよ」
「分かっている」
俺と樫田はどちらかともなく拳を出し、軽くぶつける。
立ち上がり、そのまま退室した。
椎名と増倉がついてくる。
カラオケ屋を出ると俺はスマホを取り出して、山路に連絡した。
数コール後、繋がった。
「もしもし」
『もしもし、杉野?』
「樫田から話は聞いた。今からそっち向かうから場所はどこだ?」
『ああ、なるほど。場所なんだけど――』
「え?」
こっちの状況を察したであろう山路から聞かされた場所に、思わず俺は足を止めていた。
後ろを向くと、二人が不思議そうな顔でこっちを見てきた。
「どうしたの?」
「山路なんだって?」
「いや、それが……」
俺が聞いた場所を言うと、二人は驚いた表情になった。
――――――――――――――――――――――――――――――
俺たちは数分とかからずに、山路と合流した。
そこは駅から数分の場所。
俺たちが線香花火をした公園だった。
その入り口、中から見えない場所に山路は立っていた。
俺たちに気づくと、公園の中を警戒しながら手を振ってきた。
公園は木々で囲われているため、その隙間から覗けば外側は気づかれないようになっている。
小走りで近づき、小声で話しかける。
「大槻は?」
「公園のベンチに座っているよ」
「よく見つけたわね」
椎名が公園の中を見ながら山路に聞いた。
山路は一瞬周りを見渡して、俺たち以外がいないことを確認して言った。
「偶然だったよー。バイトを早上がりさせてもらったんだ。ここを通って駅に向かうのが一番近かったからねー。そっちはー? 夏村はともかく樫田は―?」
「会計とか任せて先行けって。たぶんすぐ来ると思うよ。てか、それならもしかして大槻、ずっとベンチに座っていたの?」
「さぁー。すくなくとも僕が見つけてから十分以上はずーっとあの状態だねー」
山路の質問に増倉が答える。
大槻、ずっとこの公園にいたのか……?
その事実にそれぞれ何を思ったのか。会話が止まる。
木々の隙間から大槻を見る。
特に動くことなく、静かにベンチに座っていた。
遠くて表情は確認できない。
不思議だった。会ったら一発ぐらいは殴るぐらいの気持ちでいたのに、許さないっていうのは変わらないはずなのに、彼の姿を見ると胸が痛んだ。
今俺は大槻会って、どうするんだ? 何を言うんだ?
戸惑いか臆病か。俺は公園の中を見るのをやめた。
「さて、どうするー? 僕はみんなの意見を尊重するよ―」
山路が漠然と聞いてくる。
それはつまるところ、俺たちの結論を聞いているのだ。
だからか口調こそいつも通りだが目の奥には真剣さを宿していた。
どう答えようか迷っていると、椎名が口を開いた。
「ごめんなさい。今後の方針を明確には決められなかったわ。でも、彼を見捨てることもしないわ」
「そっか。椎名がそういうなら、そうなんだね」
椎名の言葉に満足したのか、山路は笑顔で頷いた。
たぶんそれは一番厳しい椎名が見捨てないといったからだろう。
山路の中で、一番の懸念はなくなったのということだ。
「でも実際問題どうする? みんなで大槻のところに行く?」
増倉がみんなに聞いた。
確かに、ほとんどノープランで来たからな。
このまま四人で公園の中に入ってどうするんだ?
まずは樫田を待つか?
いや、それでも状況は変わらないだろう。
「来ておいてアレだけど、まずここは男子二人で行った方がいいいんじゃない?」
「そうね。下手に全員で行って刺激するよりはいいかもしれないわね」
女子二人が俺と山路を見る。
まぁ、確かに言わんとしていることは分かるが。
踏ん切りがつかず、山路を見る。
「僕は杉野に任せるよー。みんなの意見を知っているのは杉野だからねー」
山路は笑顔でそう言った。
カラオケ屋での話し合いにいなかった山路からすればそうなるか。
ここで樫田を待つ。という選択肢もある。
けどたぶん、そうしたら話の主導権は俺じゃなくなるだろう。
もしかしたら大槻と主体的に対話をできる機会はないかもしれない。
そう考えると答えは出ていた。
「分かった。まずは俺と山路で行こう」
俺の言葉にみんな頷く。
「あまり刺激しないようにね」
「落ち着いて、相手の話を聞いて話しなさい」
「僕は基本一歩後ろにいるからー」
みんな警戒しすぎじゃない?
と、思いながらも背中に冷や汗をかいているのを感じていた。
正直、大槻が今何を思っているのか、想像がつかない。
出たとこ勝負なのは、今更か。
「じゃあ、行くか山路」
「そうだねー」
俺と山路は公園へ入っていった。