「つまり、大槻が佐恵に告白してフラれてどっか行ったと」
「そして佐恵は泣いて、何かあったと察した樫田が走ったと」
俺の説明を椎名と増倉は簡潔にまとめた。
いや、まぁ、状況証拠としてはそうかもだけど、もっと人情的な部分とか。
「正直、なぜこのタイミングでってのはあるわね」
「というか、成功する算段はあったのかな」
「ないでしょうね。そんなものがあるならこのタイミングは選ばないわ」
「そうだね。遅かれ早かれってところはあったけど今かねー」
「ええ、そうね。タイミングが最悪なところも大槻らしいわね」
あれ? これっていわゆる女子の悪口ってやつか? なんか怖いんだけど。
てか、大槻の片想いってみんな知ってたん?
「杉野も大変だったね。その状況なら仕方ないって感じだけど」
「そうね。結果的に歓迎会も無事だったし、良かったのではないかしら」
「ああ、ありがとう」
「? なんか元気ないね」
「まぁ、こんなことの後で疲れているわよね」
二人から見ると俺は元気がないようだ。
確かに今日の疲れもあるだろう。けどそれだけではない。
「なんつーか、二人が思ったより普通にしているから、驚いて」
「…………」
「…………」
ん? なんか変なこと言ったか?
二人が黙ったんだが。
「お待たせ―、樫田と連絡取れた…………どうしたの?」
山路が電話を終え近づくと、何この空気? みたいな顔で聞いてきた。
俺が聞きたい。
「何でもないよー。労って損したかな」
「そうね。こういうところは変わらないのよね」
「杉野―」
なぜか、二人は呆れた様子だった。
山路はそれを聞いて俺のせいだと思ったのだろう。
分かっていない俺を見るに見かねてか、椎名が言い放った。
「杉野。私たちも驚いているし混乱しているわ。でもそれで騒いでも何も変わらないわ。それに轟先輩が言っていたでしょ、ゴールデンウィーク後にみんなで部活に来るようにって」
「あ」
「先輩たちはきっと分かっていて、私たちに一任したのよ」
俺は自分の考えの至らなさを恥じた。
そうだよな。驚いて立ち止まっている暇はないよな。
みんな必死に現状の改善を考えている。
「そうだな。すまん」
「いいのよ。杉野が後悔する理由も分かるわ」
「そうそう、後輩からの相談だったら断れないよね」
二人とも笑顔でそう言った。
少し疲れが取れたような感じを覚えた。
「でも、問題はこれからの動きよね」
「佐恵が心配ね」
「それだねー。たぶん、そろそろ…………あ、来たみたいだねー」
山路が見ていた公園の入り口の方に目をやる。
そこには樫田がいた。
近づいてくる彼は少し疲れているようにも見えた。
「……お疲れ様、かな? 悪いな肝心な時に勝手な行動して」
「お疲れ様。いや、あれがなかったら俺はもっと酷い行動してたよ」
「そうだねー。異変があったことすぐに分かったよ」
樫田はまず謝ったが、俺と山路は感謝を言った。
俺はあのとき冷静さを取り戻せたし、みんなも樫田のおかげで異変に気付いたのだ。謝ることはない。
「佐恵は帰したのかしら?」
「大丈夫だった?」
椎名と増倉は、夏村について樫田に聞いた。
友として心配なのだろう。
「ああ、一人で帰れるってことだったから…………俺の見立てだけど良くない状態だ。大槻と何があったか全部は聞いてないけど、精神的に参った様子だった」
場の雰囲気が重くなる。
大槻と夏村、それぞれの心情を推し測ることしかできない。
なぜ大槻はどこかへ行ったのか。
なぜ夏村は泣いてしまったのか。
少なくとも、俺は知らない。
「これからどうしよっかねー」
「そうね、大槻の方は誰か連絡したの?」
「一応、メッセージは残したんだけどな」
「返信はない、と。かなりまずい状況ね」
みんなが今後について話し始めた。
俺はひとまず、黙ってそれを聞いた。
現実を少し遠くに感じながら、気分が沈んでいく。
俺はまだ、この想いの正体を知らなかった。