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第42話 ありふれた分かれ道

 はい。こちら惨敗のパー組です。


 メンバーは大槻、夏村、池本と俺の四人ですね。

 絶賛、公園からショッピングモールへ戻っております。

 くそー、チョキが正解だったか。


「バケツとかライターって百均で売ってるよな? ……おい、大槻聞いてるか?」


「ん、ああ悪い悪い。そうだな。百均は二階だったよな」


 どこか的の外れた答えを言う大槻。

 どうしたんだ? 疲れた?

 そんな俺の考えを察したのか、大槻は笑顔になった。


「なんでもねーよ。それより、時間も時間だから百均と花火買う組で二手に分かれね? 四人で回る理由もないだろ」


「まぁ、確かに」


 一理ある。なにも四人で百均行ってそれから花火を買う理由もない。

 大槻が後ろに並ぶ夏村と池本に、提案する。


「確かに時間の節約」


「私も大丈夫です」


 賛同を得て、大槻がやけに嬉しそうだった。


 なんだ? どうしたんだよ。

 その様子に違和感を覚えながら、ショッピングモールまで戻ってきた。


「じゃあ、俺と大槻がこのまま百均行くから」


「なっ!」


「分かった」


「…………」


 大槻は何かまずそうな表情をして、夏村とはすぐに同意して、池本は黙っていた。

 何この絵図は……。

 やっぱ何か企でいるな大槻。


「ここはじゃんけんにしないか!?」


「もうじゃんけんはいいだろ。ほら、行くぞ」


 俺は大槻の肩を持ち、二階に行こうとする。


 夏村はそれを黙って見ている。

 石のようにその場から動こうとしない大槻。

 どうしたものか、考えていると池本が言った。


「あ、あの、私は、その…………!」


 何かを言うとしているのが分かった。

 池本は俺を見て目が合うと、下を向いてしまった。

 少し待ってみたが、その後の言葉は出なかった。


 え、何だ?

 雑多な駅近くの中、俺たちには沈黙が流れていた。


「分かった。私と大槻で花火買ってくる」


 動いたのは夏村だった。

 簡素に言うと、ショッピングモールの方へ歩き出した。


「お、おい」


 思わず、引き留めると夏村は振り返った。


「池本、杉野に話があるみたい」


「え? ……そうなのか?」


 つい、そのまま池本に聞いてしまった。

 彼女は少しだけ首を縦に振った。

 俺に話? いや、でもだな。


「じゃ、よろしく」


 構わずに、夏村は歩いていく。

 大槻もその後を付いて行った。


 一抹の不安を覚えながらも俺は先輩として池本の方を向く。

 こうなってしまったものは仕方ない。


「んじゃあ、俺たちも行こうか」


「はい、ありがとうございます」


 そう言って俺たちは夏村たちとは違う入口、直接二階に行ける階段の方に向かう。

 歩きながら、横にいる池本を見て、俺はどう切り込むかタイミングを探る。

 先輩らしくとか色々思ってしまう。


 ああ、これは邪念だな。

 そう思うと自然と口から言葉が出ていた。


「なあ、池本」


「は、はい!」


 だいぶ、緊張……いや怯えているに近いか?

 でも、俺の言うことは変わらない。


「俺さ、鈍感なんよ」


「えっとど、鈍感ですか?」


「そ、いつも樫田とか山路に『もっと周りに気を遣え』だの『厚顔無恥だねー』みたいなこと言われんのよ」


「ふふ、ちょっと似てますね」


 俺がモノマネをしながら話すと池本が笑顔になる。

 少し力がほぐれたようだ。


「だから、今池本が考えていること、悩んで抱えているそれを俺は分からない」


「…………」


「フードコートでプレゼント渡したとき、ちょっとだけ様子が気になったぐらいで全然分からんのよ、すまん」


「い、いえそんな!」


「でもさ、聞くよ。どんな言葉でも、どんな思いでも、俺に言いたいってことなら全部聞いて答えるから、話してくれないか?」


 ちょうど、俺が階段を上り終わったところだ。


 あと一段で登りきるところで池本は止まる。

 いつもより高低差のある形で見つめてられた。

 どこか寂しさをまとうその瞳を俺はただ見ていた。


「その、自分でも何が何だか分かっていないのですが、それでも聞いていただけますか?」


「ああ、聞くよ」


「ぐちゃぐちゃで、まとまってないですけど」


「ああ、いいよ」


「きっと何言ってんだって笑いますよ?」


「笑わない」


 池本が最後の一段を上った。

 さっきより近くで、俺を見てくる。


「買い物、夏村たちに頼んでどっか入るか?」


「大丈夫です。歩きながら聞いていただけますか? なんかじっとしながら話せそうにないので、いいですか?」


「ああ、もちろんだ」


 俺たちはショッピングモールに入っていく。

 けっこう人がいたが、花火が売っている奥の方を目指して歩いていく。

 そして、ゆっくりと池本が話し出した。


「……さっき、先輩プレゼントを渡したときの私の様子が気になったって仰っていましたね」


「ああ、違ってたらすまん」


「いえ、その通りなんです…………あのとき、私不安だったです」


 不安。

 池本はそう言った。表情はこわばり、苦しそうなその様子から嘘でないのだと感じた。

 では、いったい何が不安なのか。


「そ、その、先輩たちからのプレゼントは純粋に嬉しかったです!」


「お、おう」


 慌てて補足を加えてきた。

 俺たちからのプレゼントが、その歓迎が重いからとか期待がプレッシャーになってみたいな話ではないということか。

 なら、なおさら何に対しての不安だ?


「…………先輩たちがプレゼントを選んでくださっている間、轟先輩たちに聞かれたんです」


 三年生と一年生たちでフードコートにいたときのことか。


「さっきの焼き肉屋での二年生はどうだったか、印象に残った話はあるかって」


「ああ」


「…………私は、どの席のどの先輩も楽しかったですって答えたんです…………でも、真弓ちゃんと金子君も『杉野先輩と夏村先輩のところが印象的だった』って答えたんです」


 …………。

 ああ、その虚ろな表情から想像できてしまった。


 その場の雰囲気。そのときの池本が。

 田島と金子の答えによって、何を感じたのか。


「別に、どうってことないんですよ。だからどうしたって話なんです。二人とも他の先輩がどうのってわけでもなく、あくまで一番を言うなら、って感じではあったんです。ただ、なんですかね。あのときの二人の満足そうな顔が衝撃だったんです…………ああ、何かを手に入れたんだって。勝手にそう思ったんです」


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