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第40話 そのオモイの意味は

「遅いよーチミたち。おかげで一年生たちとの親密度はマックスだよ」


「轟先輩、じゃあ場所を『オセロで取れたら嬉しい場所』って教え方しないでくださいよ」


 樫田の言う通りだ。

 俺たち二年生はフードコートを外周するように回って、ようやく三年生と一年生を見つけた。

 フードコートの角で、八人席テーブルと六人席のテーブルを取ってくれていたようだ。

 ゴールデンウィークとはいえ四時近くということもあり、そこまで人はいなかった。


「だって普通に右角って言ってもつまんないじゃん」


「そうですね。で、この後どうします?」


 おお、樫田が超絶なスルースキルで話を進めている。

 轟先輩相手にすげー。


「コウ! 樫田んがすっごい冷たい!」


「……まぁまぁ、この時間に戻ってこられたってことは相当苦労したんだろうから、ね」


「そうだぞ、樫田が頑張ったせいで、三十分は遅れるに賭けた俺がボロ負けじゃねーか」


 轟先輩は横の木崎先輩に抱き着くが、さすが木崎先輩よくわかってらっしゃる。


 別々に買ったのはいいけど、どうやって渡す? 贈り物用の袋買う? ってなり、そっからはいつも通りの展開で椎名と増倉がどの袋がいいかで揉めて以下略。

 てか、津田先輩は普通に言っていること酷くない?


「……もう、渡す人は決まっているかい?」


「そうですね。時間なかったんで総意ではないですけど、はい」


「じゃあその人たちはそっちの一年生たちのテーブルの方へ、それ以外の人はこっちで」


 すっとした轟先輩が指示を出す。

 情緒が行方不明すぎるだろこの人。


 一年生たちの方を見ると、綺麗に横一列に座っていた。

 六人席にその座り方がおかしいだろと思ったが、たぶん俺たちからの連絡を受けて座り直したんだろう。


 樫田が、渡す役の俺と夏村に確認の視線を送る。

 俺たちは小さく頷く。


「分かりました」


 俺たち三人は一年生のテーブルの方に座った。

 事前に決めていた相手の前に。

 椎名、増倉、大槻、山路は先輩たちのテーブルの方へ座った。


「なんか、緊張しますね」


「なに、焼き肉屋と変わらんよ」


 田島が雰囲気を柔らかくしようとしてか、向かい合っている樫田に話しかける。

 その横の池本と、さらに横の金子も緊張しているようだった。


「大丈夫、取って食ったりはしない」


 珍しく夏村が目の前の金子に、そう言った。

 俺は正面の池本を見る。背筋を伸ばして姿勢よく座っている。


 ああ、ダメだ。完全に雰囲気が固い。

 完全に一年生たちが身構えている。

 どうしたものか。


「あー、先輩たちから何か聞いている?」


「轟先輩が、二年の先輩たちから大切な話があるって聞いています」


 池本の声が、完全に緊張を表していた。

 あの人は! この重い空気はそのせいか!


 ちらっと轟先輩の方を見ると、なぜかサムズアップをしていた。

 イラっとしながらも、俺は話す決断をする。

 こういうのは時間をかけると、余計にダメになる。


「えっと、なんだその。今日は新入部員歓迎会ってことで、俺たち二年生から、あれだプ――っ!」


 瞬間、俺の頭と横腹に痛みが走る。

 両側に座っていた樫田と夏村からそれぞれ一撃が入った。


「杉野、訳が分からんよ」


「長い」


 こいつら、自由か。


「まぁ、今のはないよな」


「ないねー」


「これだったら私が言った方が……」


「じゃんけんは強いのに、なぜここぞってときは弱いのかしら」


 横のテーブルから何か聞こえる。

 あいつら、鬼か。


「お前まで固くなってどうする」


「準備するとダメな男」


 樫田の言う通りだ。俺まで雰囲気に飲まれていた。

 夏村さん? まだ根に持ってらっしゃるのですか?


「だ、大丈夫ですか!?」


 池本が心配してくれた。

 ありがとう。

 これを見習え、同級ども。


 …………まぁ、でも雰囲気が少し軽くなったよ。

 俺は肩の力を抜いた。


「すまんな、一年生たち。桑橋演劇部には、歓迎会のときにする伝統があってな」


「伝統っすか?」


「まぁ、そんな大層なもんじゃないかもしれないが、要は二年生から一年生へのプレゼントだ」


 そう言って俺はプレゼントをテーブルの上に置き、池本に差し出した。

 片手ほどの小さい贈り物だ。


 樫田と夏村も俺に合わせて、それぞれプレゼントを差し出した。


「「「!」」」


「俺たち二年生から一年生へ、歓迎の証だ。よければ受け取ってくれ」


 やべ、ちょっと仰々しくなっちゃったか?


 言ってすぐに言葉のチョイスを間違えたと思った。

 一年生たちが驚きの反応で固まってしまったからだ。

 最初に返事をしたのは田島だった。


「ありがとうございます。今ここで開けてもいいですか?」


「開けちゃえ開けちゃえー!」


 俺たちの答えるより先に、轟先輩が野次を入れる。

 田島は気にせず、真っ直ぐに樫田を見ていた。


「ああ、どうぞ」


 笑顔で樫田は答えると、田島はプレゼントを取り、丁寧に開け始まる。


「あの、ありがとうございます。」

「っす。ありがとうございます。」


 それに続くように、池本と金子もお礼を言ってプレゼントを手に取った。


「ちなみに、中身は同じだから」


 樫田が補足説明をした。

 あ、そういえば言ってなかったな。


「これって」


 中身を確認した田島が声を漏らした。

 どう感じたのだろうか。

 残りの二人も中身を確認したところで、横のテーブルから轟先輩が言う。


「さてさて、一年生たちは何を貰ったのかなー?」


「えっと、ペンとノートと…………これは付箋のセットですか?」


「そう、俺たちがよく使う演劇部セットだな」


 田島は付箋のセットが一瞬分からなかったのだろう、樫田に聞いた。


「はは、なるほど三種の神器ってか、考えたな。樫田それとも杉野か?」


「残念ですね津田先輩。三種類渡す案は椎名ですよー」


「……へぇ、考えたね」


「またまたです」


「どうやって買う担当決めたんだい若人よ」


「じゃんけんで組分けですね。ちなみにあのノートは私の激推しです」


「そりゃ、ノート選ぶのに三十分かかったからな」


 横のテーブルが一気に騒がしくなる。

 先輩たちは、だいぶ気になっていたようだ。


「やっぱすごいっすね」


「こんなの序の口」


「あの時の助言の意味、少し分かった気がします」


「そうか。なによりだな」


 両サイドでそれぞれ何か話していたが俺は池本を見ていた。


 その様子が、どこか脆く壊れそうだったから。

 だが、俺の視線に気が付くと笑顔になってお礼を言った。


「杉野先輩、ありがとうございます。大切にします」


「ああ、どういたしまして」


 俺は少し気になりながらも、触れることはなかった。

 少なくとも笑顔に嘘はなさそうだった。


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