【除霊の家 後編】202✕年4月25日配信
※以下、動画の一部書き起こし。
画面にはロフトから降りようとする2人の姿が、それぞれの手持ちカメラの映像を繋ぎ合わせて映される。
「ええっと、ここからはその、呼び出された霊の気持ちになってね、キッチンまで向かいたいと思います」
「鏡から飛び出して……いや飛び出すかはわかんないけど、とにかく呼び出されて、まずは鏡の後ろの壁にある御札で追いやられるわけだよね」
「はい、それで前に進むと、こう、仏像が部屋の外に向けて立っているので、そっちへ進まざるを得ないと」
「壁や天井は御札で通り抜け出来ない……でも『通り道』の床部分は……あ、そうか、1階の天井に貼ってあるから抜けられないのか……」
「床は仏像の効果もあるかも知れませんね……よいしょ、っと。タクミさん足元気を付けて」
「うん、ありがと……」
「ええと、それで、部屋の外に向かいます」
カメラは二人の言葉に合わせるように、霊が通るであろう道筋を映す。
「扉に御札はないから通り抜け出来るのかな」
「かも知れないし、儀式の時は開け放していたのかも」
「ああ、そうか。そうだね」
「それで……廊下の壁は御札で抜けられず……2階の他の部屋の扉には御札が貼ってあるから入れない……」
画面には今までの映像を継ぎ接ぎして、2階の他の部屋の様子が映される。
「足元の像は階段の方を向いてるね」
「じゃあ1階、降りますか……うわ……改めて、この下に降りる景色、怖いですね。その、物理的にね。倒したらどうしようとかもありますけど。この、見下ろす感じが……」
「わかるわかる」
「えっと……はい、それで1階ですね。玄関は結界になってるから、右手には行けない、と」
画面に今度は1階の他の部屋の映像が浮かんで消える。
「よく見ると玄関周りの仏像もこっち見てるね」
「ホントだね。とにかく家の外には絶対に出さないぞというね、強い思いを、感じますね」
「ね」
「それで、ええ、部屋の扉にはやっぱり御札が貼ってあって、入れないようになっている、と」
「それでキッチンか……」
「行きますか」
一瞬の暗転の後、画面が切り替わりキッチンの扉の前に立つ二人の姿が映される。
「タクミさん、キッチンは入ってなかったですよね?」
「え? うん」
「じゃあちょっと、タクミさんからお願いします」
「あ、うん、了解……」
タクミが静かに扉を開ける。
「──うわっ! あっ、あ、そうか。うわ、びっくりしたあ」
「ですよね! これホント、僕一人で入って見た時、めちゃくちゃびっくりしましたからね」
画面にはキッチンとリビングの境、ブルーシートの前に置かれた巨大な仏像がライトに照らされている様子が映される。
「これは、ちょっと……ビビるね」
「しかも仁王? 仁王像とかだよね、これ。まずシンプルに見た目が怖い」
「いや、これはビビるわ……」
「ね……。じゃあ、えっと、まず一応棚とか。調べ直してみましょう」
「了解」
画面が切り替わり、抽斗などを開けて確かめる二人の姿が映される。
「これさ、カズくん、食器棚の、このガラスの扉とかは開けてみた?」
「あ、いえ。開けなくても中は見れるんで開けてないです。扉に御札も貼ってありますし」
「了解」
「──っと、これで一通り見た感じですかね?」
「そうだね。残りはこのキッチンマット……これさ、これ……キッチンマットにしては幅が広いよね。ほとんど細長いカーペットみたいな……」
「そう。なので前回は捲るところまではしなかったんですよね。でもほら、(ミクラ)さんが言ったように霊をキッチンへ追いやったんだとしたら──」
「この下に、何か隠されてる?」
「可能性は高いですよね。もしかしたら、その儀式の際にはこのマットは敷いてなかったのかも」
「なるほどね」
「よし、じゃあタクミさん手伝って下さい。マットの裏にも何かあるかも知れないので、気を付けて……」
二人はカメラを食器棚や調理台の上に置いて、有名キャラクターがデザインされたキッチンマットを慎重に捲った。カメラに映ったマットの裏には何もなかったが、その下、床には明らかに床下収納のものである正方形の扉があった。
「……あったね」
「開けてみますか」
カズヤは置いてあったカメラを片手に持つと、埋没していた取っ手を半回転させ、現れたリングに手をかけ引いた。扉はほんの少しの抵抗感と籠もった空気が抜ける音を立てて、簡単に開いた。
「本当にあった……」
「『ここにゆうれいはいません、とてもあんぜん』」
画面にはやや黄ばんだA4サイズの紙が1枚、収納の中に折り目もなくそっと置かれている様子が映されていた。そこにはカズヤが読み上げた通り『ここにゆうれいはいません、とてもあんぜん』と筆文字で書かれていた。ライトが収納の中を照らすが、その紙以外は何も入っていないようだ。
「──『とてもあんぜん』って、誰に向けた言葉なんだろう」
沈黙の後、カズヤが口を開いた。
「どういう意味?」
「いや、この紙ってさ、まあ誰かに読まれる前提で書いてあるわけじゃん?」
「ああ、まあそりゃあ、ねえ。ん?」
「……あ、でもそうか。つまり僕達とか、えっと、買い手? ここを片付けなきゃいけなくなった人とかに、向けて、言ってるのかな」
「幽霊屋敷みたいに見えるけど、そうじゃないですよ、って?」
「そう。いや、でもな……何かこう、イヤな感じがするよね」
「イヤな感じ?」
「罠っぽいって言うのかな……こうさ、まんまとおびき寄せられた的な感じというか。誰かの思惑通り、僕らはここへ辿り着いてしまった、というか」
「ああ、それは、うん、何となく」
「舞台装置としてはおびき寄せられたのは幽霊なんだけど、でもこのメッセージは幽霊に向けたものじゃないじゃない? 明らかに」
「そうだね。となるとさ、何ていうのかな……ここから、儀式が二段構えになってるみたいなことだよね? 言いたいのは」
「そう! これさ、今日来る前から考えてたのはね、2階で降霊、呼び出した霊を、何処か、まあここだよね、ここに誘導して、何かの中に封じ込めたんじゃないか、って」
「このサイズ感だと……箱とか……人形とか?」
「そうだね。降ろした霊を人形に閉じ込める……もちろん真相はわからないけど、この家はそういう儀式の為の装置なんじゃないかな、と。まあこのね、床下収納を見て、その考えはちょっと確信に近くなったよね……」
「でも、そこから先があると?」
「そう。それで終わりじゃなくてさ。例えば僕らがこの蓋を開けたことで……でもそれは過去に甥御さん達がやってるのか……」
「それか、『あんぜん』の言葉を鵜呑みにして片付けると何か起きるとか?」
「或いは、僕らがこの話を広めることで……」
「何かが起きる……?」
「……ちょっと蓋、閉めようか」
画面が暗転し、それから映像に切り替わる。時系列的には二人が床下収納の扉を閉めた後、家の中を改めて探索している映像が断片的に映され、それを背景にクラシック音楽とテロップが流れる。【その後、改めて家の中を探索したが特に気になるものは何も見つからなかった】【この家は、我々が探していた『幽霊が全くいない場所』だったのだろうか】【もしこここが『幽霊が全くいない場所』だったとして】【何の為にそうなってしまったのか】【いったいここで何が行われたのか】【この『除霊の家』は売りに出ている】【もし全ての御札や仏像を取り除いたら】【一体何が起きるのだろう?】
再び画面が暗転し、テロップが流れる。
【玄関の結界は消えかけている】
音楽が止まる。
【最後までご視聴いただき】
【ごめんなさい】
【除霊の家】
【黄泉平坂サブch】
(映像終了)