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黄泉平坂サブch【除霊の家 後編】①

【除霊の家 後編】202✕年4月25日配信


※以下、動画の一部書き起こし。

 前編と中編の映像を再編集したものを背景に次々にテロップが流される。【幽霊が視える人達の間で囁かれる噂】【『幽霊が全くいない場所』】【調査を進める中、届いた一通のダイレクトメッセージ】【『除霊の家』】

 壊れたピアノのような音楽が流れる。【そこにはあまりにも異様な光景が広がっていた】【無数の御札】【犇めく仏像】【謎の祭壇】【降霊の儀式】【『御札や仏像の向きを見ると、まるで部屋の外へ霊を追い出すようになってるんですよね。その、お二人が辿った道を通って』】【呼び出された幽霊はどこへ向かったのか?】【誘われるように、我々は再びあの家へと向かった】


 【注意:ご視聴は、自己責任でお願いします】


 クラシック音楽が流れ始め、チャンネルのオープニング動画が流れる。フラッシュのように暗転する中、テロップが映される。【黄泉平坂サブch】【特別編】【除霊の家】【最終章】


 画面が切り替わり『除霊の家』の玄関を開けるカズヤの手が映る。周囲は真っ暗なようで、タクミが手元をライトで照らしている。

「お邪魔します……あ、ほら、タクミさん。玄関のここ、見て」

 カメラが映す先、玄関の三和土を囲むように赤いインクで梵字が書かれているのが見える。他にも何か書かれているようだが、掠れて判別できないものも多い。

「ああ、これ(ミクラ)さんが言ってた……?」

「だね。あとほら、玄関の扉の内側にも」

「御札だ」

「仏像も家の中を向いてるし、玄関の外には、その、霊を、絶対に出さないぞっていう強い思いをね、感じるね」

 タクミが手に持ったライトで玄関の中をぐるりと照らす。

「えっと、このあとは何処から?」

「えっと、この後の流れとしては、初めに2階のね、ロフトに行きます」

「いきなり?」

「そこでね、前回あんまり調べられなかったあの祭壇? 祭壇を調べたいと思います。そこからキッチンまで歩いてみて、何か気付くものがあればな、と」

「了解、了解」


 画面が切り替わり、階段を上る二人の姿がそれぞれのインカメラの映像を繋いで映される。

「やっぱり、2階に上がるにつれて、こう、ゾクゾクする感じっていうの? 寒気みたいなのを感じますね」

「1階とは雰囲気違う?」

「あ、そうか、タクミさんは映像でしか見てないのか」

「うん」

「そうですね。1階は本当に、ただ空っぽって感じでしたけど。2階はね。まああの部屋がね、あるって知っちゃってるから。だから背筋が寒くなるってのはあるかも知れないですけど」

「でもさ(ミクラ)さんの話だと、映像を見る限りはキッチンが怪しいって……怪しいっていうか、2階で呼び出した霊が行き着く場所なんじゃないか、って話だったよね?」

「はい。それで僕、動画を見返してみたんですけど。僕、キッチンの棚とか収納の中とかは、全部調べてるんですよ」

「ああ」

「ただ、一箇所。一箇所だけ確認してないところがあって」

「どこ?」

「調理道具とかそういったものも一切残って無かったんですけど、ひとつだけ、キッチンマットだけが、残ってて」

「あ……もしかして、床下収納?」

「そう! 可能性あるな、と」

「そこに『ここにゆうれいはいません』って書き置きが?」

「あるとしたらそこしかないと思うんですよね」

「なるほどね」


 二人は2階に到着する。

「奥の部屋以外も調べる?」

「いや。奥の部屋、行きましょう」

「わかった」

「これ、言われてみるとって感じですけど、確かに仏像とか全部1階の方というか、階段の方を向いてますね」

「そうだね。こう、階段の方から廊下を見ると、わーっとさ、一斉に? こっちを見ている感じがするね」

 二人は話しながら廊下を歩く。長い廊下ではないので、すぐに奥の部屋の前へと辿り着く。やはり扉に御札は貼られていない。

「それでは、入りますね」

 カズヤがゆっくりと扉を開く。

「うわぁ……やっぱりちょっと……わかってても怖いな」

「異様だよね。異様」

 部屋の中に無数に並べられた仏像や魔除けの像が一斉にこちらを見ている。二人が入ったことで空気が動いたのか、キラキラと埃が舞い、上下四方に貼られた御札が小さくカサカサと鳴った。

「少し部屋の中見てみる?」

「うーん、見てみたいけど、これ、像を倒したり御札を踏んづけたりしないでいけるかなあ」

「ちょっ、と厳しいかもね」

「だよね……リスクを考えて、やめときましょうか。まだね、ここで行われている儀式──まあ儀式なのかも含めて、全容がわからないので。倒したり剥がしちゃったりした場合、何が起こるかね、わからないので」

 話しながらカズヤはロフトに上がる梯子の前まで歩いて行った。後ろからゆっくりとタクミもついて行く。

「じゃあまた小柄な僕の方から登りますんで、タクミさんは後からお願いします」

「了解」

 画面にはハシゴを登るカズヤの後ろ姿と、カズヤの目線カメラの映像とが交互に映される。


 画面が切り替わり、ロフトの上で顔を寄せ合う二人の姿が映される。

「ちょっと、二人だと狭いんですが」

「そうだね」

「前回はね、その、危険を感じて、あまり詳しく調べられないままの撤退となってしまいましたので。今回は出来るだけ詳しく調べてみたいと思います」

 ロフトの上をぐるりと見渡す。よく見ればここも片付けられていて、『祭壇』以外には何も無い。天井や壁には下と同じように御札が貼られ、床も『祭壇』と梯子を結ぶ通り道以外に御札が貼られていない場所はない。

 改めて『祭壇』をよく見てみる。テーブルのサイズはやや細長い学校机という感じだろうか。脚の長さは30センチも無いくらいで短い。テーブルの上の三面鏡は高さ50センチくらいだろうか。三面鏡としては小さいような気がする。鏡は木製の台座に据え付けられており、扉には目立った装飾はないが左右の戸板に御札が1枚ずつ貼られている。鏡の左右には欠けた茶碗がひとつずつ。盛られたご飯は干からびているが、黴びたりはしていないようだ。テーブルの左右の隅には真鍮製と思われる燭台がひとつずつ置かれており、そこには半分ほど溶けた蝋燭が立てられている。

「ほんと、これ、祭壇って感じだね」

「しかも、儀式が行われた形跡がね、残っているという。ここで本当に、それが降霊の儀式だとすれば、幽霊が呼び出された可能性があるわけですよね」

「これさ、床の引っ掻き傷みたいなのって、ひとがつけたものなのかな。それとも幽霊が……?」

「どちらにせよ、何かがあったのは間違いないですよね」

「でも、ここは『除霊の家』なわけじゃん? (K)さんもこの家には霊はいないんじゃないか、って言ってたし」

「そうですね。だからつまり、降霊が成功していたとして、ここで呼び出された霊が何処に行ったのか。何のために降ろされて、そして最終的にね、その、恐らくはキッチンで、何をしたのかという。そこを突き止めたいよね」

「そうだね……。ねえ、これ、開けてみる?」

「……そうですね。タクミさんお願いします」

「うええ、りょ、了解」

 画面にはタクミが三面鏡を開く姿が映される。ゆっくり戸板を引くと、それは音もなく開いた。

「……特に何も無い、よね?」

「そうですね……何かちょっと曇ってるくらいで。儀式の形跡はここには見られないですね」

「──カズくんこれ!」

 画面が切り替わり、タクミが『祭壇』の裏手の床を指差す姿が映される。そこには短冊のような紙が1枚落ちている。それは周囲の御札とは明らかに違う紙だった。タクミが手を伸ばし、それを拾い上げる。

「……何て書いてありますか?」

 カメラが短冊の表を映す。そこには筆文字で『おいでください』とあった。

「これは……まあ、まず間違いなく儀式に使われたものですよね。それ以外考えられない」

「そうだね……」

「ちょっと、一応戻しておきましょうか」


「──この後はどうする?」

「周りに注意しながら、キッチンへ向かいましょう」

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