【除霊の家 前編】202✕年4月23日配信
※以下、動画の一部書き起こし。
画面が切り替わり、再び玄関前に立つカズヤの姿が映される。
「ええと、改めてね、家の中を見ていきたいと思います」
「カズくん、ちょっと待って、これさ」
「はい?」
玄関ポーチの四隅に置かれた盛り塩が映される。盛り塩はそれぞれの角に複数置かれていて、塩の高さも皿の大きさもバラバラだ。
「ああ、盛り塩だね。多いな……」
「でも、さ。これ……ここって20年以上、放置されてるんだよね?」
「そうですね……盛り塩。この盛り塩って、20年以上前のものには見えませんけどね……」
「だよね。何かちょっと変色はしてるけど……」
「……とりあえず、中入りましょうか」
カズヤが玄関の扉を開き、中の様子が映し出される。外はまだ日が暮れきっていないが、家の中は漆黒の闇に満たされている。二人は手にしたライトで玄関とその先の廊下を照らす。
「うわっ、やっぱ、ちょっと……すごいな、これ」
「うわぁ……いや、さっきああいうことがあったってのもあるけど……」
「異様だよね」
「うん、異様。ちょっとここまでのは見たことないよね」
「見て、ほら」
壁には整然と、等間隔に御札が貼られてる。御札の種類は複数あるようだ。御札は天井にも列を成すように貼られている。
「1枚、2枚貼ってあるのはさ、見たことあるけど」
「これさ、こう、綺麗に並べてあるのが怖いよね」
「御札も、このほら、床に並べられた仏像もね。いやほんと怖いな」
廊下の壁際、床にはずらっと仏像などの置物が並べられている。
「ええっと……左手に2階への階段があって……うわ、階段もすごいよ。見て」
画面には上へと続く階段が映し出される。壁には廊下同様、御札が貼られており、一段一段に仏像が置かれている。
「これが……いや、これは確かに『除霊の家』だね」
「いや、ほんとに……えっと、階段の向こうの扉はトイレと、お風呂かな? それで……廊下の突き当りと、右手に部屋があるね」
言いながら、カズヤは手にしたライトで照らす。
「手前、これ、ふすまじゃない?」
「あ、ほんとだね。御札貼ってあるから、壁かと思った」
「何処から行こっか」
「うーん、そんなに広い家じゃないしさ、最初から手分けして行こうか」
「いきなり?」
「うん。まあ、ほら。Kさんもさ、そんなに待たせちゃ……」
「ああ、そうだね」
「じゃあ僕1階見るんで、タクミさん2階でお願いします」
「うう、ええ、2階かあ。了解、わかった」
画面が切り替わり、カズヤの顔のアップと、廊下が交互に映される。
「ええと……では、1階の探索を始めたいと思います。まずは……手前から行くか」
カズヤが足元の置物に気をつけながら襖に手をかける。
「んっ……かたいな、歪んじゃって……よっ」
カメラを置いて両手でスライドさせると、襖はガタガタと大きな音を立てる。ライトに照らされて、ホコリがキラキラと舞った。
「ゴホっ……うわ、ホコリが……すごいな……」
置物を慎重に跨いで、部屋の中へと入る。中は予想通り、6畳ほどの和室だった。細々とした家財道具は見当たらないが、箪笥が一棹だけ残されている。
「ここは……御札とか、置物は……無いのか……」
ライトで四方の壁(一面は窓でカーテンが閉じられている)を照らす。カズヤが言うように、壁に御札は見られず、その他魔除けになりそうなものは何も置かれていなかった。
天井を照らすと疎らに御札が貼られてるが、廊下の異様さと比べると気にならない程度だ。
「タンスは……? 上の段は……んっ、空か……」
カズヤは抽斗を上から順に開けていくが、どれも空っぽだった。
「押し入れは……? あ、ここも空だ……」
しばらく部屋の中を見て回ったが、この部屋はきれいに片付けられており、カズヤの目を引くようなものは何もなかった。
「何か……外も廊下もあんなんだったから……逆に不気味だな……もっとこう、部屋の中も、すごいのかと思ってた」
カズヤは再び廊下に出ると、和室の襖をガタガタと閉じた。
「ええっと……この扉は……トイレか。中は、普通だな……こっちは、あ、やっぱり洗面所とお風呂場だね」
どちらも扉には御札が貼られていたが、中はきれいに片付けられていて、当時の生活をうかがえるようなものは何もなかった。
「何かほんと……御札とか置物以外はすごい片付いてるな。不動産屋さんの話からは、もっと、物で溢れているのを想像してたんで……」
話しながら廊下の突き当りの扉を開ける。
「あ、ここはキッチンか……うわっ!?」
扉から入って右手奥、どうやらキッチンとリビングとを繋ぐ部分のようだが、そこに大きな仏像が置かれていた。
「うわ、ビビったあ……完全に人かと思った……」
ライトで照らすと、仏像の後ろにはビニールシートが扉代わりに垂らされており、シートの一面には御札が貼られていた。
「ちょっ……マジで……勘弁してよ……」
言いながらカズヤはキッチンの中を照らす。残されているのはキッチンマットくらいのもので、調理台の上もその下にある収納の中もきれいに片付けられている。食器棚と冷蔵庫も残されているが、中は空っぽだった。御札は壁や天井にはもちろん、ご丁寧に食器棚や冷蔵庫、収納の扉ひとつひとつにも貼られていた。
「こういう……廃墟というか空き家、曰く付き物件って、僕らもこのチャンネルの中でね、まあボツになったものも入れて、たくさん行ってきましたけど……普通はね、こう、当時の生活を思わせるような物が、まあ大抵の場合は大量に、残されていて。それがね、色々な想像を掻き立てて怖い、ってところがあるんですけど……ここは……御札とか置物とか、そういったもの以外は……あれ? ここの扉には……御札ってなかったっけ……」
話しながらカズヤはキッチンから廊下に戻り、扉を閉めた。カメラが映した扉には御札が貼られていないが、それが元から貼られていなかったのか、それとも今剥がれてしまったのかがわからず慌てている。
「ええ……剥がれたなら……ちょ……いや、でも見当たらんぞ……」
手持ちカメラで撮影した動画を巻き戻し、確認する。
「あ、たぶんこれ、ここ、初めから貼ってないな……良かったあ……でも、何でここだけ……」
一人で実況しながら、今度はリビングの扉を開く。なお、リビングの扉には御札が貼られている。
「……あ、リビングだね。やっぱり。あの、ブルーシートのとこがキッチンか」
ライトで室内を照らす。壁に御札は見当たらないが、天井には等間隔で御札が貼られている。
「何で部屋の中には御札とか像が、あんまり、無いのかな。廊下がヤバい……廊下に何かいるってこと? それとも……逆に部屋から出ていかないようにしてるとか……」
広々としたリビングには棚やソファ、テレビがそのままになっていた。しかし、やはり細々とした物は片付けられていて、棚の中も空っぽだった。
「ああ、やっぱり、ここも片付けられてるな。でも、ソファとかテレビとかある分、多少生活感が……何かちょっと、寒気がしますね」
カズヤが廊下に戻る。部屋の中が片付けられていた分、廊下の異様さが際立つ。
その時、ガタガタっという大きな音と共に、タクミのものと思われる叫び声が聞こえた。
「えっ!? 今の、タクミさん? タクミさん! 大丈夫ですか!?」
カズヤが階段の方へと駆け寄る。
画面には次回予告が流れる。テロップには【タクミは2階で何を見たのか】【無数に貼られた御札の意味】【ここは本当に『幽霊が全くいない場所』なのか】【次回、除霊の家 中編】などの文字。
(映像終了)