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黄泉平坂サブch【除霊の家 前編】①

【除霊の家 前編】202✕年4月23日配信


※以下、動画の一部書き起こし。

 ノイズのような音が流れる中、暗転した背景に次々にテロップが流される。【所謂『視える人』である友人のKさんがこんな話を教えてくれた】【『幽霊が全くいない場所』がある】【Kさん曰く、人が亡くなって肉体と魂に分かれるように、成仏した霊は現世にその残滓を残していくという】【その残滓はまるでホコリのように、いたるところに漂っている】【決して悪いものではなく、当たり前に存在するものだそうだ】【それは聖域や神域と呼ばれるよな場所でも同じであり】【この世界に幽霊とその残滓がない場所はない、という】

 不安になるような音楽が小さく流れ始める。【しかし、視える人達の間で】【『幽霊が全くいない場所がある』という噂が流れているという】

 背景がDMのスクリーンショットに切り替わる。【その話をサブチャンネルの生配信で話したところ、一通のDMが届いた】【『除霊の家』という名前で呼ばれている家がある】【その家は20年以上売りに出されているが買い手がつかないという】

 背景が一軒家を映した画像に切り替わり、音楽の音量が大きくなる。【立地も悪くなく、価格も手頃だが買い手がつかない理由】【それは『家財等の処分は購入者に任せる』という条件】【この家が『除霊の家』と呼ばれる理由】【それは】【家の中に溢れる御札や仏像】【それを気味悪がり、買い手がつかないのだという】

 背景が暗転し、音楽が止まる。【『幽霊が全くいない場所』と『除霊の家』】【我々はこのふたつを結びつけて考える】【その理由は不動産担当者の証言】【あの家の中には】【『ここにゆうれいはいません』という書き置きがある、と】


 クラシック音楽が流れ始め、チャンネルのオープニング動画が流れる。フラッシュのように暗転する中、テロップが映される。【黄泉平坂サブch】【特別編】【除霊の家 前編】


 画面が切り替わり、車内にいるカズヤとタクミ、そして後部座席にいるキバタの姿が映し出される。キバタの顔にはモザイクがかけられている。

「えー、ヨモツヒラサカchのカズヤと」

「タクミです」

「今回はちょっとね、特別編ということで。栃木県まで、プチ遠征をしております」

「思ったより遠かったね」

「ちょっとね、予定より到着が遅くなってしまって。もう外がだいぶ暗くなってきていますが……。今回は『除霊の家』と呼ばれる、空き家、ですね。そこを探索してみようかと」

「はい」

「えー、経緯とか、詳しい事情はね、オープニングの映像でご理解いただいていると思いますので、省略しますが。我々はね、そこが、所謂『視える人』達の中で噂されている『幽霊が全くいない場所』なのではないかと」

「はい」

「それでね、あの、残念ながら僕とタクミさんは『視えない人』なので。今回は、僕らの知人である、『視える人』のKさんに同行していただきました」

「(ピー音と共に『Kです』という字幕)です」

「まずはKさんと一緒にね、軽く家の中を見て回って。ここに、その、幽霊やその残滓がね。全く無いのか。ここがその『幽霊が全くいない場所』なのかをご判断いただきまして。その後、Kさんには車に戻って待機していただいて。改めてね、僕とタクミさんで詳しく回っていきたいと思います」

「えっと、建物は、2階建て?」

「ですね。今回撮影の許可をいただくにあたって、不動産屋さんの担当者さんから色々お話聞かせていただいたんですけど。どうしてその家がそうなっちゃったかは全くわからないらしいんだけど。とにかく家の中は御札とか仏像みたいな、除霊グッズで足の踏み場もないくらいなんですって」

「ええ……」

「で、どこかに『ここにゆうれいはいません』っていう書き置きがあるらしくて。今回ね、その書き置きと、出来ればその家がそうなった理由をね、探れればと思います」

「はい」

「まあね、噂が本当なら、ここには幽霊はいないはずなんでね。それなら安全なはずなんで、怖くないですね」

「だからサブチャンネルという」

「そういうことです。皆さんも安心してね、ご覧いただければと。はい、それでは、早速行ってみたいと思います」


 画面が切り替わり、モザイクで一帯が隠された一軒家が映し出される。三人は家の前に立っている。

「まずは門の鍵を開けますね。ああ……すごい、うわっ、錆が……」

「門柱の上、これは、狛犬じゃなくて、シーサー? あ、こっちのは狛犬か……。魔除けなのかな。なんか、こんな何匹も乗せて良いものなのかね」

「はい、開きました。入りましょう」

 カメラは敷地に入っていく三人を追いかける。

「Kさん、どうですか。敷地内に入りましたけど」

「そうですね……幽霊は見当たらない……感じないですけど、残滓はまあまあ……」

「ちょっとホコリっぽいなあ、みたいな?」

「そんな感じです」

「カズくん、見て、雑草に隠れてるけど、なんかちっちゃいお地蔵さんとかめっちゃあるよ」

「うわ、ちょっとこれ……足元気を付けて下さいね。蹴っ飛ばしたら……良くない」

 門から玄関までの短い距離、雑草に覆われたそこにはいくつもの地蔵や仏像が無造作に置かれている。

「玄関にも……これは、菩薩像かな……お地蔵さんもある……」

 話しながらカズヤは玄関の鍵を開ける。小さく軋みながら、玄関の扉が開く。

「中……うわっ、ちょ、これは……すごいな……」

 カメラが家の中を映す。玄関から真っ直ぐのびる廊下の左右には隙間なく仏像や海外の魔除けの像らしきものがならび、壁には無数の御札が貼られている。よく見ると、御札は天井にも貼られているようだ。

「Kさん……ちょっと、入る前に、中見えますか?」

「はい……えっ? ちょっ……ヒィイっ!」

 玄関から中を覗き込んだキバタが叫び声を上げて仰け反る。

「Kさん!? 大丈夫ですか!?」

「あの……カズヤくん……ごめんなさい……ここ、こんな……」

「とりあえず一旦ここから離れましょう!」


 画面が切り替わり、車の前に並んで立つタクミとカズヤが映される。

「ええっと、先程、一旦車に戻りまして。Kさんもね、ようやく、ええ、落ち着いたというところで」

「体調もね、落ち着いたみたいだね」

「はい。で、あの、それでKさんに、さっき何があったのか。何を視たのかを聞いたんですけど」

「はい」

「ご本人もちょっと、上手く説明できないみたいなんですが。とにかく『わからない』『あんな景色は視たことがない』『今までに感じたことのない恐ろしい感じがする』と、おっしゃってまして」

「僕らにはね、ちょっと……まあ普通……普通ではないか。でも、Kさんがね、ああなるほどのものはあったかな、って」

「そうだね。ちなみに、Kさん曰く『家の中には幽霊もその残滓も視えなかったし感じなかった』と」

「えっ。ってことは……ここがその……噂の場所だった、ってこと……?」

「玄関しか視ていただいていないので、断言は出来ないですけどね。ただ、ちょっともうKさんにはね、無理はさせられませんので。僕ら二人でね、中を詳しく、見て回っていこうかと」

「そうだね。Kさんには、ちょっと車で待機していただいて」

「はい。Kさんには、念の為ね、カメラマンのキクチさんに付き添ってもらって。僕らはね、手持ちのカメラで、いきましょう」

「はい」

「それでは改めて、突撃したいと思います」

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