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[4]夜、再び内見

 ――そして、その夜。

 諫山いさやま岩渕いわぶち古峯こみね田名辺たなべの四人は、ドミール川添かわぞえの駐車場で再び顔を合わせた。


 内見後、岡元おかもとを除く四人は今夜十時に再び此処に集まることにし、いったん解散した。田名辺はやはり気乗りしなかったが、岡元の反応が気になるし、もしもなにかあるとすれば暗くなってからだろうから念の為、と云う岩渕に対し、とうとう断りきれなかった。


 柿沼かきぬまの云っていたとおり、表通りから一本入った住宅街は夜も静かで、車や人の往来はほとんどなかった。通りには飲食店など看板の類も見当たらない。ぽつりぽつりと並ぶ街灯と、マンションの建物と駐車スペースのあいだにある防犯灯のおかげで真っ暗ではないが、見上げると暗青色を切り取るようにマンションが黒く聳え立っていて、少し不気味だった。

「じゃ、行こうか」

 岩渕が云い、三人が後に続く。エントランスも、エレベーターを降りたフロアもしんと静まりかえっていた。まあ鉄筋コンクリート造のマンションなのだから、軽量鉄骨造のアパートのように物音が漏れないのは当然かも知れない。周囲が静かな所為か誰も口を利かず、岩渕もそっと音をたてないよう鍵を開ける。

「お邪魔しまーす……」

 誰に云っているんだと苦笑しつつ、外廊下までと違い、伸ばした手の先も見えない暗さに思わず立ち止まる。しまった、懐中電灯を持ってくればよかったと思った瞬間、誰かがスマートフォンのライトで足許を照らした。

 そうだった、そんな機能があったなと田名辺はポケットからスマートフォンを取りだした。同じように、残るふたりも手許から伸びる白い光で周囲を照らし始める。廊下の奥、リビングへと続くドアに填まったガラスにライトが白く反射し、田名辺は眩しさに顔を逸らした。

「こっち、洋間だったな。寝室にするとしたらここかな?」

「あっ、そうすね」

 諫山が玄関を入ってすぐのところにあるドアを開け、六畳の洋室に入っていく。田名辺はドアから顔だけだしてその様子を見ていた。諫山はライトで部屋の隅々までを照らしながらぐるりと歩き、クローゼットの扉も開けてみている。

「うん、なにもないな。当たり前だが」

 なにか起こるとしたら風呂場とかかな、映画でよくあるし――そんなことを云いながら部屋を出てきた諫山に背中を押され、田名辺は先ずトイレのドアを開け、次に隣にある洗面所に入ってみた。正面の鏡に光が弾け、ライトを持っている自分の姿がぼうっと浮かびあがったが、やはりなにも異常はない。

 ユニットバスじゃない、風呂だけの風呂いいなあ、と独り言を呟きながら、田名辺はリビングに進み、先に入っていた岩渕と古峯に近づいた。

「夜見てもやっぱりいい部屋だわー。なんも問題ないっしょ?」

 地上の光を呑みこんだ夜の青が、大きな窓から忍びこんでいる。そのためリビングは玄関側よりもぼんやりと明るく、岩渕と古峯はもうライトはつけていなかった。生暖かい空気が動くのを感じ、ふと見やるとバルコニーの硝子戸が左端の一枚だけ開けられていた。古峯はうーんと困ったように笑い、岩渕を見た。

「まあ、来たばかりでなにか起こったらびっくりするよね。みんなライト消して、もうしばらく様子を見よう。――ね? 諫山さん」

「ああ、そうしよう」

 そう云って岩渕と諫山がリビングの真ん中に腰を下ろし、足を組むのを見て田名辺は心底うんざりした顔をした。云われたとおりライトを消しながら古峯を睨むが、まあまあとその場に坐らされてしまう。岩渕と諫山はともかく、古峯の機嫌を損ねると金を貸してもらえなくなるのではという懸念があるため、もういいと帰りたくてもそうもできず。

 しょうがない、ともう田名辺は諦めた。最悪、夜明けまでここにいるとしても、あと五、六時間ほどのことだ。アパートに帰っても暑苦しい部屋で扇風機を回して、万年床になっている煎餅布団で眠るだけだ。ここで微かな夜風を感じながら転寝しているほうがましかもしれない。

 そんなことを考えながら、田名辺が壁に凭れてぼうっとバルコニーのほうを眺めていた、そのとき。


 ――ピシッ


「……なんだ?」

 どこからか、奇妙な音が聞こえた。

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