【番外編:視聴者から送られてきた動画】201✕年6月20日配信
画面にはカズヤとタクミの二人が映っている。
「ええ、今回は番外編ということで、今ちょっと緊急で撮影を行っているんですが。実はですね、先日配信した僕らのあの動画」
「静岡のやつ?」
「そう、それを観た視聴者さんからですね、1本の動画が、僕のもとに送られてきまして。それを僕観たんですけど、これは……ちょっとですね、タクミさんにも観てもらわないとマズイなと思いまして」
「え、どういうこと?」
「タクミさん、前回の動画の中で、タクミさんが気にしていた『落書き』があったのって覚えてますか?」
「落書き……って、あの『実家で待つ 〇〇』ってやつ?」
「そう、それです。その落書きを見た時、タクミさん何て言ったか覚えてますか?」
「……『前にも見たことある』?」
「タクミさんあれ見てそう言いましたよね。それで、僕も帰ってから過去の動画見直して……。で、配信した映像の中でも報告しましたけど、確かにね以前行った埼玉の廃校舎の映像にも同じ文面の落書きが映っていたんですよ。まあ百歩譲って『実家で待つ』だけであれば偶然とも思えたんですけど、配信では流せないですけど『〇〇』ってあれ、名前まで書いてあるじゃないですか。そこまで一致するって、偶然とは思えないですよね」
「そうだよね、おんなじ名前だったもんね……」
「で、今回視聴者さんから送られてきた動画なんですが……まあちょっとね、僕の口から説明するより先に一旦観ていただきたいと思います。はい、じゃあちょっと、流しますので、よろしくお願いします──」
暗転した画面に『ここから先は自己責任でご視聴下さい』のテロップが映され、その後カウントダウンが始まる──。
画面にはスマートフォンで撮影されたと思われる映像が映っている。場所は何処かの廃屋のようだ。撮影者は荒い息遣いで建物の中を足早に探索していく。映像で見る限り、それほど広くない家のようだ。撮影者が襖を開けて和室に入ったところで映像が止まる。そして壁に書かれた落書きへとフォーカスされていく──。
「これ、同じですよね。『実家で待つ』と、名前の『〇〇』」
「そう……だね。これって何処で撮影したとか、わかる?」
「ええっと、ちょっと正確な場所は言えないんですが、神奈川県の、西の方ですね」
「カズくんは正確な場所を知ってる……?」
「はい、メールで送られてきた際に住所も教えていただいているので」
「うわあ……マジかあ……。え、ちょっと、ヤバいね、めっちゃ鳥肌立ってきた」
「タクミさん、これって、恐らく同じ人間が書いているんじゃないかと思うんですが……?」
「いや、うん、偶然ってことは無いよね。あ、ほら、筆跡もさ、ね、同じに見えるよね」
「ですよね。しかも同じ太さの油性ペンのようなもので、文字のサイズ感なんかも全く同じに見えますよね」
「え、え、え、じゃあさ、ちょっと待って。誰かがさ、各地の廃墟に行ってさ、壁におんなじ落書きを書いて回っている、ってこと? そんなことする理由って、ある?」
「まあちょっと、文面からは誰に向けたものなのかはわからないですけど、少なくとも『〇〇』さん、『〇〇』さんが書いたものなんだとしたら、どなたかに実家に帰ってきて欲しいんじゃないですかね」
「え、でもさ、それをわざわざ廃墟に書く?」
「廃墟じゃなきゃいけない理由があるんでしょうね」
「……」
「ちなみにタクミさん、まだ今日の話、全然終わりじゃないです」
「え? ウソでしょ?」
「まずひとつ、あのー、僕ね、今回この送られてきた動画を見て、急にこう、ビビビッと、思い出したことがありまして。あの、タクミさん、視聴者の方はもちろん知らない話なんですけど、僕らがこのチャンネルを始めた時、始める前って言った方が良いのかな、一番初めに撮ってお蔵入りになった映像あるじゃないですか」
「ああ……あの、病院のやつ?」
「そう! あそこでタクミさん一人検証したじゃないですか」
「うん、そうそう、したね。え……まさか?」
「僕、けっこうあの撮影が、ずっと心に残っていて。やっぱり、まだ全然駆け出しで、現場でも全然上手く出来なくて、かなり悔しかったんですよね。だから凄く印象に残っていて……。それで、今回改めて見返してみたら、あのタクミさんが一人検証した部屋の壁に、ハッキリとは映っていないんですけど……『実家で待つ』の落書きらしきものが、映ってたんです」
「え、ウソでしょ? 何でそんな……俺達が行くところ行くところに書いてあるなんてこと、ある……?」
「ここまで来ると、ちょっと何かに導かれているというか、運命のようなものを感じてしまいますよね」
「いやあ……」
「それでね、タクミさん、まだあるんですよ」
「これ以上何かあるの? ちょっと俺……怖いよ……」
「これは僕の推測に過ぎないんですが……、タクミさん、僕ら毎回調査に入る前に、こう、その建物に纏わる噂とか曰くを調べて、お話してるじゃないですか」
「うん、うん」
「それでね、ここまで同じ落書きが書かれていた4つの、ええ、建物、視聴者さんから送られてきたものも含めてね、その全てで同じ噂があるんですよね」
「……どんな?」
「女性の霊が出る、って……。いやそれ自体はベタな話なんでね、全然、偶然でもあり得るとは思うんですけど。もしそれが、落書きが、落書きを書いた人がメッセージを伝えたい相手だとしたら……?」
「……え、え、え、カズくんは、その『女性の霊』っていうのが、同一の、女性じゃないかって、思ってるってこと?」
「可能性はあるかな、と」
「いやいやいや、でもさ、だって、ねえ。同じ人間が、そんな、色んな場所で◯ぬなんて、そんなこと、不可能じゃない?」
「もちろん。それはもちろんそうなんですけど、少なくとも落書きを書いた人物、それが女性の家族なのか恋人なのか友人なのかはわかりませんけど、その人物は同じメッセージを残してるわけじゃないですか」
「実家……実家って書いてるからね……家族、家族なのかなあ」
「ああ、子供とか、きょうだいって可能性もありますね……。とにかくその人物は、何らかの理由で、その幽霊が同一の人物だと確信してるんだと思うんですよね」
「……家族がさ、その、複数人が、バラバラの場所で◯されて……とかってことはないかな?」
「うーん、でも『女性の霊』なんでね。まあ、きょうだいに女の子が複数いる可能性もありますけど、すでに四箇所で発見してるわけですから……」
「そっか……」
「まあ何にせよですね、ちょっと、この件については深堀りしていかないといけないな、と」
「そうだね。いやー、そうだね。ほんと、これは……ちょっと言葉が出て来ないね」
「僕らとしてもね、こういったことは初めてですし、まず何処から調べたら良いか、ってところはありますけど。僕らが過去に行った三箇所について再調査するか、視聴者さんから送られてきた動画の場所に実際に行ってみるか、それとも共通点を色々調べてみるか」
「何か、もう、ミステリー小説みたいな展開になってきたね……」
「いやほんとに。まあちょっとね、何か動きがあれば、わかったことがあれば、動画にしてね、皆さんにも進捗を共有していきたいな、と思いますので、皆さんも何か情報がありましたらDM等ね、送っていただければと思います」
「よろしくお願いします」
「それでは、今後の展開に、ご期待ください。ヨモツヒラサカchのカズヤと」
「……あ、タクミでした」
「それでは……」
(映像終了)