【#17静岡最恐の廃ホテルへ 前編】201✕年6月7日配信
静岡県某所
※以下、動画の一部書き起こし。
画面にはカズヤとタクミの二人が映っている。
「ヨモツヒラサカchのカズヤと」
「タクミです」
「今回は初の遠征ということで、静岡県の某所までやってきております」
「まあ遠征と言いつつ、車で2時間くらいだけどね」
「確かに、道も空いてたんで、予定よりだいぶ早く着いちゃいましたね」
画面には食事をする二人の様子。『途中のサービスエリアで食べ過ぎちゃいました』のテロップ。
「ええ、その分ね、気力も体力も十分! ということでね、いつも以上に張り切って行きたいと思います!」
「はい!」
「それで、今回やって来たのが、今、奥の方に見えています、こちらの廃ホテルです」
「いやあ、来たね。ついに」
「そうなんですよ。ここは、廃墟好きの方はもうこの外観見ただけで何処かわかっちゃってると思うんですけど、あの、一応名前は伏せますけど、静岡で最も有名と言って過言でない最凶スポット『ホテル〇〇』です!」
「ここはね、流石の僕もめちゃくちゃ良く知ってます」
「ええ、一応ですね、主な噂というか曰く、確認しておきますと、まずは屋上に自◯した方の霊が、出ると」
「はい」
「で、これは調べればニュースにもなっているんですけど、この飛び降りっていうのが1件や2件じゃないんですね。僕が把握しているだけでも4件の自◯が起きていると。その結果、呪われたホテルとして有名になってしまって、廃業せざるを得なくなってしまった、という経緯があります。それで、その自◯した霊が、屋上や階段、あと駐車場なんかをね、徘徊しているという噂です」
画面にはホテルの外観や駐車場の映像が差し込まれる。駐車場に面した壁には、スプレーで大きく下向きの矢印が描かれていた。
「それって、つまり、まさに飛び降りる直前の姿や、屋上に上る姿、そして飛び降りた後の姿、ってことなのかな……?」
「よく自◯した霊はその瞬間を永遠に繰り返すとか言いますからね。4人の霊が、駐車場から屋上へ、そしてまた駐車場へ、と永遠にループを繰り返している可能性がありますよね。それがまずひとつ。そしてもうひとつが、今度は地下室に、女性の霊が現れるという噂ですね」
「これも何か事件が?」
「いや、これは調べた限り、特に自◯とか◯人とか、何かニュースになったような情報は見つからなかったですね。ただ、地下室で幽霊を見たとか、女の声を聞いたとか、そういう話は、調べるとほんと山ほど出てくるんですよ」
「逆に怖いね」
「ですね。もしかしたら、何かまだニュースになっていない、まだ見つけられていない何かが、その地下室にある可能性もあると考えられますので、その辺もね、僕らで調査出来ればと思います」
「わかりました」
「それでは、さっそく、調査を開始します──」
ヨモツヒラサカchのオープニング動画が流れる。
画面が切り替わり、ロビーと思われる室内を探索する二人の姿が映っている。
「ええと、取り敢えず中に入ってみたんですが、これ物、遺留物っていうんですかね、当時を思わせる物がかなり残っていますね」
「何か、こう、夜逃げしました、みたいな雰囲気だよね」
「ほんとそんな感じですね。これ(受付と思われるカウンターに無造作に置かれたノートを手に取る)とか、ああ、名前とか住所とか……宿泊台帳っていうんですかね。これは、198◯年……もう三十年以上前の日付ですね。たぶん、日付的にここが廃業する直前とかのものなんじゃないかな」
カズヤが手にした台帳をカウンターの上に戻す。その横でタクミが手にした懐中電灯で辺りをぐるりと照らした。
「物は多いけれど、落書きは少ないね」
「落書き少ないところはガチって言いますからね。さすが、静岡最凶スポットということで……」
「あ、ここにフロアマップがあるね」
タクミが壁に貼られた地図を懐中電灯で照らす。
「ええっと、1階には大浴場と、宴会場……地下室は、何処だろう。上に行く階段は描いてありますけど、下に向かうものは描いてないですね」
「地下はスタッフ専用なのかな?」
「ああ、そうかも知れませんね。それはありそう。だとすると、ちょっと歩いて探してみないとわかんないかも知れませんね」
「じゃあ上から先に行く?」
「そうですね。じゃあ真っ直ぐ屋上まで上がってしまって、そこから下に向かって探索していきますか」
「はい」
画面が切り替わり、階段を登る二人の姿が映っている。
「カズくん……聞こえる?」
「え?」
「足音。登ってきてる……」
二人は立ち止まり耳を澄ます。静寂の中、コツコツと、足音のような音が聞こえる。
「聞こえるよね?」
「これ、ヒールかな、硬い感じの足音が聞こえますね……」
(中略)
2階、3階、4階、5階と階段を登り、二人は屋上の扉まで辿り着く。
「これがたぶん屋上の扉ですね」
「開いてる?」
軍手を付けた手でカズヤがドアノブを握る。
「あ、開いてますね」
屋上の扉は『キィ』と小さな音を立てて、汚れた見た目からは想像出来ないほどスムーズに開いた。
画面が切り替わり、今度は屋上に立つ二人が映っている。換気孔や室外機などが並んでいる他には、特に目を引くものは無いようだ。
「けっこう広いですね」
「そうだね……ああ、柵が……」
タクミが懐中電灯で照らす先には背の高い柵が見える。柵は屋上をぐるりと囲っているようだ。
「これ……これじゃ飛び降りれないね」
「何処か途切れているところがあるのか、それか事件の後に設置されたか、ですね……」
二人は屋上をぐるっと回ってみる。しかし柵に途切れたところや壊れた箇所は見られなかった。
「あそこは機械室とかかな」
タクミが少し離れたところに建った小屋を照らした。二人は小屋の方へ歩いて行く。カズヤがドアノブを握ってみたが、どうやら開かないようだ。
「開かない。鍵がかかってますね」
画面が切り替わり、柵越しに下を覗く二人が映っている。
「ここから飛び降りたらひとたまりもないですね」
「だね……」
「ただ、ちょっと今は、見ていただいている通り3メートルくらいですかね、柵が設置されているので、ここから飛び降りるのは難しい状態ですね」
「これ登れないかな?」
「フェンスっていうか金網みたいな、網目があるタイプなら登れるでしょうけど、これ、縦に鉄パイプが刺さっている感じで、うーん、ちょっとこれを掴んで上まで、っていうのはイメージ出来ないですね」
「隙間から……は無理か」
「流石にこの隙間は子供でも無理だと思います。というか、子供が落ちちゃうような柵じゃ、ねえ、意味なくないですか?」
「確かに」
この後、しばらく屋上を探索する二人の姿が映っている。コメント欄には『フェンスの外に人影が見える』『今、人が落ちてくような叫び声聞こえなかった?』などのコメントが見られる。
(中略)
画面が切り替わり、ロビーに戻ってきた二人の姿が映っている。
「ええ、1階に戻って来ました」
「いやあ、もう、ちょっと、正直お腹いっぱいだよね」
画面には先ほど3階で起きた怪奇現象(女性の声らしきもの)がプレイバックされている。
「ですが、今回はね、もうひとつ、目的の場所がありますので。気合を入れ直して行きましょう」
「そうだね。地下室、地下室かあ」
「まずは何処から地下室へ行けるのか、その階段をね、探さないといけませんので、しっかりと1階を探索していきたいと思います」
画面には次回予告が流れる。テロップには『謎の落書き』『地下室に棲むモノとは──?』などの文字。
(映像終了)