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第55話  「寄越せぇぇぇええ」

 いつまで待っても手を取ってくれない星桜を見て、魅涼は黄色の瞳を閉じ手を下ろした。


「こちらに来てくださるつもりは無いようですね。仕方がありません……」


 魅涼は、一瞬で距離を詰め、星桜が手を伸ばせば届く距離まで移動した。

 まだ、魅涼が近くにいると認識できていない星桜は、動けない。


「さぁ、貰いますよ。貴方の精神力の核を──」


 刹那、上から叫ぶような声が聞こえた。


「上に手を伸ばせ!!」


 その言葉に従い、咄嗟に星桜は右腕をあげる。すると、大きな手に捕まれ、体が浮いた。


 いきなり浮遊感に襲われた星桜は、何がなにやら分からず、おそるおそる下を見た。


 大きな水泉家を上から見下ろすことができ、星桜よりだいぶ大きかった碧輝と魅涼が米粒ぐらいに小さくなっていた。


 それを確認した星桜は、やっと何が起きたのか頭で理解出来た。

 そのため、元々青かった顔がもっと真っ青になり、甲高い叫び声をあげた。


「いゃぁぁぁああああああ!!!!!」

「うるさい」

「へっ?! あ、赤鬼君!! こ、これって……」


 上を見ると、弥幸が炎の鷹の足を掴み、空を飛んでいた。


「それって……。新しい式神?」

「炎鷹。空中戦に特化した式神だよ」


 簡単に説明する弥幸を見上げると、炎の鷹は炎の翼を羽ばたかせ自由に空を飛んでいた。


「こんなことも出来るんだ」

「安心しているところ悪いけど、戦闘はまだ終わってないよ」


 弥幸が冷静に言うと、測ったかのように下から水の弓が飛んできて星桜達を襲う。

 それを、炎鷹を操り避ける。だが、何度か当たりそうになり、星桜はその度に小さな悲鳴をあげる。


「君、腕力に自信ある?」

「なんでそんなことを聞いてくるのか分からないけどとりあえずあまり自信はないかな!」


 星桜は泣き叫び、答える。


「そっか。まぁ、どうでもいいけど。死にたくなかったらしっかりと掴んでおいて」

「だから何をっ──へぁ?!?!」


 言い終わる前に、弥幸が星桜を引き上げ腰に腕を回す。


 こんなに異性と接近したことは無かったため、顔を林檎のように赤く染め、口を無意味にパクパクと動かしている。


「ねぇ、どこでもいいから掴んで。死にたいなら掴まなくてもいいけど」

「死にたくない死にたくない!!!」


 星桜は息を飲み、弥幸の肩に腕を回し掴んだ。


「嫌だろうけど、今回だけは許してね」

「──えっ?」


 弥幸は下を見ながらボソリと呟いたが、その後すぐに弓矢が飛んできて聞き返せなかった。


 星桜が落ちないように弥幸は腰に手を回し「動くよ」と伝える。すると、スピードが一気に上がり風が顔に当たり痛みが走った。


 次から次へと飛んでくる弓矢を避けていると、複数飛んできていたうちの一本が炎鷹に当たった。


 炎鷹が暴れてしまい、弥幸が手を滑らせ空中へと投げ出された。


「やばっ」

「うそうそうそうそ!!!!! いやぁぁぁぁあああああああ!!!!」


 港を見渡せるほど高く飛んでいたため、このまま勢いよく落ちてしまうと体が打ち付けられ確実に死ぬ。


 もしかすると落ちている途中、重力で体が引き裂かれてしまうかもしれない。


 星桜は、恐怖のあまり白目を向き弥幸に抱きつき悲鳴をあげた。


 彼は、頭から落ちているが気にせず、上着の内側から御札を取り出し下へと投げた。


「引き裂け【炎狼えんろう】」


 弥幸が投げた御札が地面に落ちる前に炎が燃え上がり、そこから白銀のたてがみを靡かせ、咆哮と共に炎の狼が姿を現れた。


 炎狼が落ちてくる弥幸と星桜を背中で受け止め、魅涼達へと駆け出した。


「こんなに早く式神を切り替えるなど……。貴方は、本当に何者なんですか!!!」


 魅涼は、怒りか焦りか。

 顔を真っ赤にし、怒鳴りつけるように弥幸へと叫び、十本の弓矢を一度に放った。


 同時に、碧輝が走り出し弥幸に殴り込もうと拳を握る。


 上からは弓矢が降り注ぎ、横からは碧輝が襲う。


 弥幸は冷静に二人を見定め、右腕を上へと伸ばし結界を張る。

 碧輝には、炎狼が咆哮を放った。


 炎狼の咆哮は、熱風をぶつけ火傷させる。

 碧輝はただの咆哮だと思い、顔の前で両手をクロスさせ防ごうとした。


 だが、腕に熱風を思いっきり吹きかけられ、唸り声を上げ逃げるように横へと転がった。


「碧輝! 大丈夫ですか?!」

「問題ない」


 口ではそう言っているが、袖は破れ両腕には酷い火傷を負っている。血が流れ、肉が見えている部分もあり、痛々しい。


「はぁ、だから、あまり出したくなかったんだけど……。もうこんなことはやめようよ。話せばわかる時もある。だから──」


 弥幸が二人に訴えようと炎狼を止め、見下ろしながら抑揚の無い口調で言う。

 そんな彼の態度が気に触った魅涼は、怒りが頂点にまで達してしまった。


 肩を震わせ拳を強く握り、歯も食いしばり恨みの籠った黄色の瞳で弥幸を睨みつけた。


「そうですか、わかりました。貴方は私達を傷付けないように手加減をしており、今回も仕方なくその式神を出したと」

「いや、そこまで言っていなっ──」

「つまり、貴方は私達よりも勝っており、精神力、神力共に有利に立っていると。そう言いたいのですね」


 否定しようとした弥幸の言葉を遮り、魅涼は感情が徐々に昂り始めた。


「許さない許さない──許さねぇぞ貴様!!!!」


 喉が避けるほどの声量で、魅涼が急に叫び出した。


「力を持っているにも関わらず、話し合いなどですまそうなど!! その力はなんのためにあるのですか。貴方の力は、精神力はなんのためにあるんだ!!! 要らないのなら。使わないのなら!! 私に寄越せぇぇぇええ!!!!」


 めちゃくちゃな口調で、魅涼は弓を右手に持ち弥幸達へと突っ込む。


 炎狼は弥幸の指示がなくとも魅涼を切り裂こうと前の右足を上げ、鋭く光っている爪向けた。

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