「赤鬼君!!!」
星桜は弥幸が現れたことにより安堵の笑みを浮かべ、駆け寄った。
その様子を弥幸は煙たがり、苦々しい顔を向けた。
「ちょっと、そんな緩んだ顔で勝手に喜ばないでくれる? そもそも僕がここに来たところで何か出来るわけじゃない。事前準備も何もしないで来たから不安で心がいっぱいだよ。どうしてくれるの」
「…………赤鬼君ってブレないよね」
相変わらずの自由人っぷりに、檻を掴みながらため息をつく星桜。
二人の会話を聞いていた魅涼は、恨めしそうに弥幸を見た。
「でしたら、何故ここまで来たのですか。というか、何故ここがわかったのですか?」
「
弥幸は、ポケットからスマホを取りだし画面を見せた。
その画面には、地図アプリが起動されており、中心にマップピンが立てられている。
「これは?」
「いもっ──信頼出来る人にメールを送って場所を特定してもらったの。二つとも同じところを指していたから確実と思って来た」
"妹"と言いかけたかと思うと、弥幸は平然とした顔で言い直し、地下室まで来た理由を説明した。
「なるほど。目に精神力を集め、熱が集まっている跡を追ってきたということですね。貴方の神力は炎。それは可能ということですか。予防線もしっかりと張っているとは、さすがですね」
魅涼は眉間に皺を寄せ、悔しげに口元を歪ませる。だが、直ぐに気を取り直し、冷たい笑みを浮かべ鋭い瞳で弥幸を見た。
その目を見て、星桜は何かを考えながら魅涼を見る。
「可能みたいだね。深く考えず今までやってたけど」
「これが天才というものなのでしょうか。実に、腹ただしいですね」
魅涼の声は震えており、怒りを押さえ込もうと拳に力を込めていた。
星桜はその様子を見ていたが、それより女性の容態が気になり始め、足音に気をつけながら駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「私はいいから、貴方は逃げて。あの人達は自分のためなら手段を選ばない危険な人達よ。何をされるかわからないわ」
「そう、みたいですね」
自身の掴まれていた腕を見てボソリと呟く。
星桜の左腕には、まだ握られていた跡が残っており、そこだけ赤くなっていた。
「でも、貴方をほっとくことはできません!!」
星桜は鎖を何とか外そうとするも、鍵がなければ開かない仕様となっているため外せない。
人間の力だけではどうすることも出来ない。すると、星桜を護るために出された式神、炎狐が彼女へと近寄った。
「炎狐ちゃん?」
「コーーン」
炎狐は鎖に近付き、炎の息を吹きかけた。
鎖は鉄なため、簡単に溶け始める。
「やった!!」
星桜が喜びの声を上げた時、碧輝が女性の鎖が一つ取れたことに気づく。
星桜を殴り大人しくさせようと駆け出し、拳を振りかぶった。
「っ!!!」
後ろからの足音に気づき避けようとしたが、もし避けてしまえば後ろに居る女性に当たってしまう。
避けるわけにはいかないと思い、星桜は衝撃に備え目を閉じた。
────ゴンッ!!
痛みは無い。だが、人が殴られる音は聞こえた。
ゆっくりと目を開けると、驚きの光景に思わず声を荒らげてしまった。
「あっ、赤鬼君!!!」
弥幸が星桜を庇うように立っていた。
口からは血が流れており、左頬は赤く腫れ上がっている。
星桜の代わりに、頬を殴られてしまったのだ。
「邪魔だ、どけ」
「僕からしたら君達の存在の方がよっぽど邪魔なんだけど。というか、邪魔だと思うなら早くここから出させてくれない? この鎖を取ってくれれば後は自分達で帰るからさ」
「帰るのは貴方だけですよ。いや、帰れるかは分かりませんが……」
魅涼は何を思ったのか、水の弓を作り出し弓矢を弥幸に向けていた。
弥幸は星桜を後ろに隠し、炎狐は彼を護るように前に移動。毛を逆立て威嚇しており、何時でも炎を吐けるように準備する。
「知っていますか。私は水、貴方は炎。どちらが優位か……。少し考えればわかるかと思いますよ」
「まぁ、水だろうね。だから戦いたくないんだけど。素直に帰してくれない?」
「それはもう、無理な話ですね」
魅涼は含みのある笑みを浮かべ、構えていた弓矢を放つ。
「赤鬼君!!」
放たれた弓矢は、真っ直ぐ弥幸へと向かう。
炎狐が炎を吐くが水で出来た弓矢なため、炎が消えてしまいスピードが落ちるだけだった。
だが、弥幸は勢いの無くなった弓矢を右手で掴み止めた。
スピードが落ちたとはいえ、掴めるほどの速さではない。掴むのは至難の業。
魅涼は、片眉を上げ、苦々しい顔を浮かべながらも、賞賛の言葉を口にする。
「やはり、貴方は天才だ」
弥幸は、威力の弱まった弓矢を炎が纏われている右手で止め、地面に落とす。
水で出来た弓矢は、地面に落ちた瞬間水飛沫が上がり地面を濡らた。
「式神を操作しながら自身に神力を纏わせる。式神を出すだけでも精神力を使うというのに……」
恨めしそうに弥幸を見る魅涼。
碧輝はその隙に、星桜と女性を引き剥がそうと動き出す。
「いや、こっちに来ないで!!!」
星桜の声に弥幸は碧輝を見た。
意識が逸れてしまい、その隙をつかれる。
魅涼は素早く弓を構え、三本放った。
星桜への攻撃と、自身への攻撃を視界に入れる。
弥幸は、眉間に皺を寄せ面倒くさそうに舌打ちをしつつも、右手を炎狐へ伸ばし叫んだ。
「炎狐!!」
「コーーーン!!!」
炎狐が
その炎は弥幸を包み込むことはせず、逆に渦を巻き始めた。
突き出していた右手で炎を操り、三人を護るように炎の結界を作り出す。
三本の弓矢と水が纏まられている拳は、炎の結界により同時に防ぐことが出来た。
「やっ!! ──っ!」
喜んだのも束の間、振動で炎の結界が波打ち、鈍い音が聞こえる。
壊れてしまうんじゃないかと、不安を掻き立てる。
恐怖で足がすくみ、紛らわせるように弥幸の服を掴む。すると、この場に合わない優しい声で、彼が星桜に問いかけた。
「君、精神力を少しでも操れるようになった?」
「えっ。た、多分。でも、まだ上手くできない」
「そう。でも、今回は君にも手伝ってもらわないと切り抜けられないと思う。僕も一緒にやるから安心して。心を落ち着かせるの。慌てなくて大丈夫」
弥幸は肩越しに星桜を見つめ、安心させるように優しく口にする。
その目も暖かく、星桜の震えていた体は、いつの間にか止まっていた。
「何があっても、僕が何とかするから」
その言葉には決意が込められており、星桜は弥幸信じ頷いた。