外で、魅涼と碧輝は動かなくなってしまった弥幸と妖傀を見上げていた。
「まだか」
碧輝がしびれを切らしかけた時、弥幸が動き出した。
「終わったみたいですよ」
弥幸が左胸に入れていた右手を抜き取り、炎鷹を操作して魅涼達へ降り立つ。瞬間、妖傀は灰になり、風に吹かれ消え去った。
弥幸は一言も話さず、手に持っている光を空の小瓶に入れる。
黒い液体へとなり、小瓶の中でゆらゆらと波打つ。
「これは──」
魅涼は初めて見る液体に目を輝かせ、手を伸ばし問いかけようとした。だが──
「おや?」
「なっ!! おい、お前!! 兄貴に何して──」
弥幸がいきなり魅涼の方へと倒れ込んだ。
魅涼は弥幸を受け止め、碧輝は叫ぶ。だが、それも途中で止まった。
困惑の表情を浮かべ、震える手で弥幸を指差し固まった。
「こいつ、寝てやがる…………」
弥幸は寝息を立て、魅涼の腕の中で眠っていた。
その様子を見て魅涼は微笑みながら見下ろし「仕方がありませんね」と彼を横抱きして屋敷へと戻る。
それを、碧輝は面白くなさそうに、後ろで不貞腐れながら付いて行った。
「倒れ込んでしまうほど精神力を使ってしまうのですね。式神をあそこまで扱える方なので、精神力は少なくないはずなのですが……」
魅涼は今回の弥幸の戦闘を目にして、彼の戦術や柔軟性。あと、精神力の多さを知る。
言葉では心配しているように言っているが、声は重く低いため、心から心配はしていない。
それだけではなく、寝息を立てて眠っている弥幸を見下ろしている瞳の奥には、憎悪や羨望、嫉妬といった感情が見え隠れしていた。
「まったく、何故こうもこの世は理不尽なんですかね……」
「兄貴?」
魅涼の纏う異様な空気に、碧輝は何も言えず付いて行く。
屋敷へ戻った二人は、弥幸を布団へ寝かした。
その後、魅涼と碧輝は精神の核を持っている
※
星桜は、地下室の床で目を覚ました。
地面は氷のように冷たく、風が入ってきているのか寒い。
体を襲う冷風に体を震わせ、星桜は腕を摩る。
凍るような寒さに耐えながら、場所を確認するため体を起こし周りを見回した。
周りを見ると、光源は蝋燭の火しかないため薄暗い。
牢屋に入れられているとわかり、その場から動きたくとも出られない。
「ここって──」
周りを見ているとガシャンと、金属が重なり合う音が隣から聞こえ振り向いた。
そこには、鎖で両手両足を固定され壁に拘束されている、一人の女性がいることに気づく。
「だ、大丈夫ですか?!」
その女性に慌てて近付き、彼女は声をかけ様子を確認する。
顔を俯かせているため、乱雑に切られた長い髪で顔が隠れている。
そのため、気絶しているのか起きているのかわからない。だが、星桜の言葉に返答がないところを見ると、気を失ってしまっている可能性があった。
それでも、星桜は何度も呼びかけていた。すると、やっと女性が気づき少し目を開き、顔を上げた。
「あ、よかっ──」
目を開けたことに安心した星桜だったが、女性の目を見た瞬間声を詰まらせてしまう。
女性の少しだけ開かれた瞳は、言いようのない憎悪で埋め尽くされていた。
「あ。えっと。あの、大丈夫ですか?」
その目を見た星桜はどう声をかければ良いのかわからず、安否の確認だけでもと思い問いかける。だが、返答はない。
「何があったんですか?」
「……」
女性は星桜の言葉に答えず、上げた顔をまた下ろしてしまった。
「あの……」
どうすればいいのか分からない星桜は、また声をかけようとする。だが、後ろから名前を呼ばれ、途中で止まった。
「翡翠さん」
その声は気軽な物では無く、重く低い声だった。
星桜は肩を震わせ、ゆっくりと後ろを振り向く。
そこには、優しい笑みを浮かべた魅涼が立っており、手には鍵束が握られていた。
「起きたのですね。良かったです」
「み、魅涼……さん。なぜ……」
星桜は女性を庇うように前に立つが、震える声を抑えることはできていない。
胸辺りで強く手を握りながら聞いた。
「そんなに怯えないでください。まるで、私が悪者みたいじゃないですか」
「あの、赤鬼君は──」
「赤鬼家次男さんなら、先程眠りにつきましたよ」
「眠りにって……」
その言い方だと、二つの意味が考えられる。
永遠の眠りについたのか、本当にただ寝ただけなのか。
「先程まで妖傀と戦闘を行っていましてね。貴方の言う赤鬼さんは、しっかりと最後まで頑張ってくれましたよ」
「あの、その言い方やめていただけませんか? わざとですよね。不謹慎なのでやめてください」
星桜はキッと鋭い瞳で睨み、その表情を楽しげに魅涼は眺める。
碧輝は魅涼に向けられた目が気に入らないのか、星桜に向かって怒鳴り散らした。
「貴様!! 兄貴にそんな目を向けていいと思ってんのか!!」
「いいんですよ、碧輝。その方が楽しいですから」
魅涼は星桜に睨まれているにもかかわらず、クスクスと笑いながらその目線を受け止めている。
「それより、貴方は精神の核をお持ちのようですが、それは誠ですか?」
「持っているみたいですが、それがなんですか?!」
星桜は怒りのまま言葉を交わしている。
その後ろで、鎖に繋がれていた女性はなぜか目を見開き、驚いた表情を浮かべた。
「なっ。だ、駄目よ!!!」
後ろから急に甲高い声が響き、星桜はそれに驚き咄嗟に後ろを振り向いた。
同時に、牢屋の鍵が開き中に碧輝が足を踏み入れた。