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第50話 「眠りにつきましたよ」

 外で、魅涼と碧輝は動かなくなってしまった弥幸と妖傀を見上げていた。


「まだか」


 碧輝がしびれを切らしかけた時、弥幸が動き出した。


「終わったみたいですよ」


 弥幸が左胸に入れていた右手を抜き取り、炎鷹を操作して魅涼達へ降り立つ。瞬間、妖傀は灰になり、風に吹かれ消え去った。


 弥幸は一言も話さず、手に持っている光を空の小瓶に入れる。

 黒い液体へとなり、小瓶の中でゆらゆらと波打つ。


「これは──」


 魅涼は初めて見る液体に目を輝かせ、手を伸ばし問いかけようとした。だが──


「おや?」

「なっ!! おい、お前!! 兄貴に何して──」


 弥幸がいきなり魅涼の方へと倒れ込んだ。

 魅涼は弥幸を受け止め、碧輝は叫ぶ。だが、それも途中で止まった。

 困惑の表情を浮かべ、震える手で弥幸を指差し固まった。


「こいつ、寝てやがる…………」


 弥幸は寝息を立て、魅涼の腕の中で眠っていた。


 その様子を見て魅涼は微笑みながら見下ろし「仕方がありませんね」と彼を横抱きして屋敷へと戻る。


 それを、碧輝は面白くなさそうに、後ろで不貞腐れながら付いて行った。


「倒れ込んでしまうほど精神力を使ってしまうのですね。式神をあそこまで扱える方なので、精神力は少なくないはずなのですが……」


 魅涼は今回の弥幸の戦闘を目にして、彼の戦術や柔軟性。あと、精神力の多さを知る。


 言葉では心配しているように言っているが、声は重く低いため、心から心配はしていない。

 それだけではなく、寝息を立てて眠っている弥幸を見下ろしている瞳の奥には、憎悪や羨望、嫉妬といった感情が見え隠れしていた。


「まったく、何故こうもこの世は理不尽なんですかね……」

「兄貴?」


 魅涼の纏う異様な空気に、碧輝は何も言えず付いて行く。


 屋敷へ戻った二人は、弥幸を布団へ寝かした。

 その後、魅涼と碧輝は精神の核を持っているに会いに行った。


 ※


 星桜は、地下室の床で目を覚ました。

 地面は氷のように冷たく、風が入ってきているのか寒い。


 体を襲う冷風に体を震わせ、星桜は腕を摩る。

 凍るような寒さに耐えながら、場所を確認するため体を起こし周りを見回した。


 周りを見ると、光源は蝋燭の火しかないため薄暗い。

 牢屋に入れられているとわかり、その場から動きたくとも出られない。


「ここって──」


 周りを見ているとガシャンと、金属が重なり合う音が隣から聞こえ振り向いた。

 そこには、鎖で両手両足を固定され壁に拘束されている、一人の女性がいることに気づく。


「だ、大丈夫ですか?!」


 その女性に慌てて近付き、彼女は声をかけ様子を確認する。


 顔を俯かせているため、乱雑に切られた長い髪で顔が隠れている。

 そのため、気絶しているのか起きているのかわからない。だが、星桜の言葉に返答がないところを見ると、気を失ってしまっている可能性があった。


 それでも、星桜は何度も呼びかけていた。すると、やっと女性が気づき少し目を開き、顔を上げた。


「あ、よかっ──」


 目を開けたことに安心した星桜だったが、女性の目を見た瞬間声を詰まらせてしまう。

 女性の少しだけ開かれた瞳は、言いようのない憎悪で埋め尽くされていた。


「あ。えっと。あの、大丈夫ですか?」


 その目を見た星桜はどう声をかければ良いのかわからず、安否の確認だけでもと思い問いかける。だが、返答はない。


「何があったんですか?」

「……」


 女性は星桜の言葉に答えず、上げた顔をまた下ろしてしまった。


「あの……」


 どうすればいいのか分からない星桜は、また声をかけようとする。だが、後ろから名前を呼ばれ、途中で止まった。


「翡翠さん」


 その声は気軽な物では無く、重く低い声だった。

 星桜は肩を震わせ、ゆっくりと後ろを振り向く。

 そこには、優しい笑みを浮かべた魅涼が立っており、手には鍵束が握られていた。


「起きたのですね。良かったです」

「み、魅涼……さん。なぜ……」


 星桜は女性を庇うように前に立つが、震える声を抑えることはできていない。

 胸辺りで強く手を握りながら聞いた。


「そんなに怯えないでください。まるで、私が悪者みたいじゃないですか」

「あの、赤鬼君は──」

「赤鬼家次男さんなら、先程眠りにつきましたよ」

「眠りにって……」


 その言い方だと、二つの意味が考えられる。

 永遠の眠りについたのか、本当にただ寝ただけなのか。


「先程まで妖傀と戦闘を行っていましてね。貴方の言う赤鬼さんは、しっかりと最後まで頑張ってくれましたよ」

「あの、その言い方やめていただけませんか? わざとですよね。不謹慎なのでやめてください」


 星桜はキッと鋭い瞳で睨み、その表情を楽しげに魅涼は眺める。

 碧輝は魅涼に向けられた目が気に入らないのか、星桜に向かって怒鳴り散らした。


「貴様!! 兄貴にそんな目を向けていいと思ってんのか!!」

「いいんですよ、碧輝。その方が楽しいですから」


 魅涼は星桜に睨まれているにもかかわらず、クスクスと笑いながらその目線を受け止めている。


「それより、貴方は精神の核をお持ちのようですが、それは誠ですか?」

「持っているみたいですが、それがなんですか?!」


 星桜は怒りのまま言葉を交わしている。

 その後ろで、鎖に繋がれていた女性はなぜか目を見開き、驚いた表情を浮かべた。


「なっ。だ、駄目よ!!!」


 後ろから急に甲高い声が響き、星桜はそれに驚き咄嗟に後ろを振り向いた。

 同時に、牢屋の鍵が開き中に碧輝が足を踏み入れた。

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