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第47話 「任せましたよ」

 お店を出た二人は、一度水泉家に戻ることになった。だが、来た道を戻ろうにも、人に聞きながらだったため道がわからない。


 地図を星桜が持ち、弥幸を引っ張りながら屋敷へと戻った。


 ※


 屋敷に戻ると魅涼が出迎えた。

 夜遅くに帰宅したため、情報共有はまた後日ということになった。


 事前にご飯が準備されていたため、大部屋に通される。

 豪勢な食事を目の前に、星桜は目を輝かせた。


 皆でお話を楽しみながら食事を堪能し、次にお風呂を堪能。

 すべてが終わると、自由に行動しても良いという事になり、星桜は満足気に笑いながらタオルを片手に、廊下を歩いていた。


 隣には、ポタポタと銀髪から水を垂らしている弥幸の姿。

 欠伸を零し、眠そう。


 部屋に戻ると、弥幸は準備されていた布団へと真っすぐ向かい、横になった。

 相当眠たかったらしく、すぐに寝息が聞こえ始める。


 隣にも布団は用意されている。

 星桜は、弥幸の隣で横になり寝ようとしたが、さすがにいつもより寝る時間が早いため、寝れない。


「…………少し、廊下でも歩こうかな」


 部屋にいても暇なため、星桜は音を立てないように廊下へと出た。

 左右を見て、星桜は眉を顰めた。


「広すぎ……」


 溜息をつき、星桜はとりあえず右に進み始めた。

 廊下の壁に飾られている景色画を一枚一枚楽しみながら歩いていると、曲がり角から女性の声が聞こえ足を止めた。


「ねぇ、閉じ込められている子にお食事をお持ちしたのだけれど、やはり食べられないらしいわ」

「当たり前よ。あんな酷い傷。それに、体も衰弱しきっているし。もう少しの命かしらね……」

「魅涼様と碧輝様に目をつけられたら終わりよ。あの子ももう数日で……」


 星桜は話の途中で出てきた名前を耳にし、目を見張る。


「それに、衰弱しきっているだけならまだしも、左胸にある複数の穴。あれはなんなのかしら」

「まるで、太い針か何かに沢山刺されてしまっているような痕だったじゃない。可哀想に」


 その言葉を最後に、女性達は奥へ行ってしまった。

 星桜は強ばった体から力を抜き、顔を乗り出し女性たちがいなくなったことを確認し息を吐く。


「…………うそ、でしょ? え、それじゃ。魅涼さんと碧輝さんって──」


 星桜が呟くと、背後に男性の影が現れた。

 気付かなかった彼女は、そのまま口元に布を被せられる。


 その布には睡眠薬が染み込まており、抗えず倒れ込んでしまった。


「あとは、任せましたよ」

「分かったよ、兄貴」


 人影は、星桜を抱え、その場から姿を消した。


 ☆


「────ん」


 弥幸は目を覚まし、ゆっくりと体を起こす。

 寝ぼけ眼で周りを見ると、星桜の姿がないことに気付き眉を顰めた。


「どこに行ったんだろう」


 少し伸びして立ち上がり、襖に手を伸ばしゆっくりと開けた。


「おや?」

「……なんでそこにいるの?」


 襖を開けると、そこには魅涼が薄い笑みを浮かべながら弥幸を見下ろしていた。


「あともう少しでお時間なので」


 それだけで、弥幸は妖傀退治の時間だとすぐに理解し頷いた。


「準備ができましたら玄関へ来てください」


「では」と、魅涼は廊下を歩きいなくなる。

 弥幸は、銀髪をガシガシと掻きながら襖を閉め、魅涼が進んだろうかとは、反対側へと歩き始めた。


 何かを探すように周りを見回し、ポケットの中に入れていたスマホを取りだした。


「…………あいつ……」


 弥幸はスマホで時間を確認すると、画面には23:58と表示されている。

 もう、ほとんどの人は寝ている時間だ。


 弥幸は、時間がない事を悟り、星桜を探すのは諦めた。


 着替えるため、先程まで寝ていた部屋へと戻る。

 スマホを少し操作したかと思えば、テーブルに置き着換え始めた。


 そんなスマホの画面には、【送信しました】という文字が手紙のマークと共に映し出されていた。


 ※


 弥幸は準備を整え屋敷から出た。

 そこには、服装は今までと同じで、腰に刀を差した魅涼と黒い手袋を付けている碧輝が待っていた。


「お待ちしておりましたよ、赤鬼さん」

「そんなに待ってないでしょ」

「そうですね」


 魅涼が言うと碧輝と共に歩き出した。

 弥幸も置いていかれないように後ろを付いて行く。


 歩みを進めながら魅涼は優しい微笑みを向け、弥幸に色んな話をするがどれも聞いているのか分からない適当な相槌で返している。


 碧輝が殴りかかろうとするのを魅涼が止める。

 普通に歩いているはずなのだが、なぜかいつでも喧嘩が始まりそうな雰囲気の三人だった。

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