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第43話 「嘘でしょ」

「え、浄化ですよ? 聞いたことありませんか?」

「残念ながら存じ上げません。申し訳ありませんが、詳細を教えていただいてもよろしいですか?」


 本当に知らないらしく、弥幸に説明を要求する。だが、彼は説明しようとせず口を閉じたままだ。


 星桜が説明したくとも、詳しくは分からないため伝えたくても伝えられない。


 困っていると、魅涼が再度、問いかけた。


「答えたくないのでしょうか?」

「…………なんで知らないの」


 やっと口を開いたかと思えば、何故か弥幸は不機嫌そうにしている。

 魅涼が「と、いうと?」と、首を傾げた。


「赤鬼家では、代々引き継がれてきた話だよ。退治屋の中では常識かと思っていたんだけど……。知識くらいはあるでしょ?」

「残念ながら……」


 肩を落とし、魅涼は首を振る。

 その反応を見るに、ふざけている訳では無いと弥幸もわかり「どういうこと」と、首を傾げた。


 魅涼も、顎に手を当て考え込む。

 そんな時、暗い空気をかき消さんばかりの明るい声が、部屋の中に響いた。


「もしかしたら、赤鬼君家にしか伝わってない秘術なのかもしれないよ!!! それならかっこいいね、赤鬼君!!」


 明るい声の正体は、深く考えずに目を輝かせ弥幸を見る星桜だった。


 輝かしい視線を受けている弥幸は、険しい表情を浮かべる。

 「どうしたの?」と、空気の読めない質問をする星桜を見て、弥幸は深いため息を吐いた。


 これ以上、場を乱されたくない弥幸は星桜を無視。考え込む。


 そんな二人を見ていた碧輝は、横目で魅涼を見た。


「………兄貴」

「しっ。駄目ですよ、碧輝」


 意味深な会話をする二人に、弥幸は目線だけを向けた。だが、すぐに逸らす。


 このままでは話が進まない。

 碧輝が痺れを切らし、弥幸を見た。


「…………早い話。浄化をすれば次の戦闘で終わるということだろ」

「浄化について詳しくわかりませんが、そうかもしれませんね。我々への負担が減るということでよろしいですか?」

「僕の負担は増えるけどね」

「それなら、我々が必ずサポート致します」


 有無言わさない笑みに、弥幸は苦笑いを浮かべつつ、顔を逸らしながら小さく頷いた。


 今回の妖傀は、弥幸が浄化するという話でまとまった。

 星桜は、話が一度切れたと思い、おずおずと手を上げた。


「あの、今回妖傀を放ってしまっている人はどのような方なのかお分かりなのですか? それと、恨まれている人物などは……」


 魅涼達に質問すると、優しく答えてくれた。


「はい、調べ済みですよ。妖傀を放ってしまっている人物の資料をお持ちしますね。その方がわかりやすいかと思いますので」


 魅涼は「碧輝」と弟の名前を呼び、彼はその場から立ち上がり部屋から出て行く。

 それから数分後、戻ってきた彼の手には、一冊のファイルが握られていた。


「ありがとうございます、碧輝」


 魅涼はファイルを受け取り、ペラペラとめくり目的のページを探す。


「見つけました。こちらの方です」


 弥幸に開いたファイルを渡し、星桜も隣から覗き込む。


篠屋紅美歌ささやくみか(18)。染色家で、親の仕事を手伝っている。

 家の染色は有名で代々受け継がれており、一人娘である紅美歌が跡取りとなっている】


「見たところ、そんなに不自然なところは無い気がしますが……」

「そうなんですよね。詳しく調べようとしたわけではありませんので、これしか情報がないだけというのもありますが……」


 魅涼が困ったような笑みを浮かべ、答えた。


「十中八九、それが原因だね。情報がこれだけじゃ意味ない。もっと詳しく調べないと浄化なんて不可能だよ」


 弥幸が資料を見ながら口にする。

 それを魅涼は「でしたら」と、今回妖傀を放っている女性、紅美歌の住所を弥幸に教えた。


「自分で知りたい情報を集めた方がよろしいかと」


 ※


「赤鬼君。ここって来たことあるの?」

「ないよ。だから地図を貰ったんでしょ。案内してくれれば早いのに、なんでこんな見知らぬ土地に君と二人で彷徨い歩かないといけないんだろうね。これじゃ効率が悪すぎる。報酬は弾んでもらわないと」


 今、星桜達は水泉家を出て、水光の港を地図を片手に歩いていた。


 水光の港は、日本離れした港。

 海に囲まれた港に並ぶ建物は、ほとんどが瓦の屋根で、大きい。


 壁画は赤で統一されており、装飾は様々な花の形がかたどられている。金色なため、キラキラと輝いていた。


 瓦屋根からは、赤い提灯が建物の間を飾っている。夜になったら電灯の代わりになる仕様になっていた。


 道すがらに、食べ物や服屋などが並んでいる。

 他にもなぜかお祭りで売っているようなお面や、すごく高そうな骨董品まで置かれたお店があった。


 星桜は、少し口元をムズムズさせながら弥幸の後ろを付いて歩く。

 弥幸は周りに一切目をくれず、一つの場所に向かっていた。


「ね、ねぇ、赤鬼君」

「目的の物が早く終わったらいいよ」

「本当!? わぁい!! それじゃ早く終わらせて観光しよ!!」


 弥幸は、星桜が港を回りたいと訴えようとしていたことを直ぐに察し、応えた。

 喜んでいる星桜を振り返り、弥幸はなぜか手に持っていた地図を渡す。


 目を丸くしていると、バツが悪そうな顔を浮かべた弥幸が口を開いた。


「なら、この目的の場所教えて」

「────ん?」


 予想外な言葉に、星桜は思わず聞き返してしまった。


「え、でも。さっきから赤鬼君進んでるじゃん。今、どこら辺なの?」

「わかんない」

「へ? でも、地図見てたんじゃ……」

「地図見ても分からない。今ここどこを歩いてるの、僕達」


 周りを見回している弥幸は、本当に今どこにいるのか分からないらしい。


 星桜は顔を青くして地図を見る。だが、土地勘のない星桜が地図を見ても、今どこにいるのかすら分からない。


「────えぇ……」


 星桜は弥幸を見て、弥幸も星桜と目を合わせ「あとは任せた」と全てを投げ出してしまった。


「…………嘘でしょ」

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