星桜は、黙ってしまった弥幸を横目に、気まずそうに視線を落とす。
今の説明だけでは、素人の星桜は理解できていない。
質問したいが、考え込んでいる弥幸に声をかけると、なんと言われるのかわからず声をかけられない。
どうしようと思っていると、魅涼が気づき声をかけた。
「貴方はまだ、この社会について詳しくはないのでしょうか?」
「え、この社会?」
「退治屋の話です。あまり詳しくないように見えます」
聞かれて、躊躇しながらも星桜は小さく頷いた。
「なるほど。では、先ほどの会話も、難しかったのではないでしょうか」
「はい、実はあまり詳しく理解出来なくて……。凄く大きな妖傀が現れたというのはわかったのですが」
そこまで話し、魅涼は頷いた。
「では、かみ砕いて説明しますね。二十五メートル級は本当に珍しい妖傀なんです。恨みは、大きければ大きくなるほど、その人自身への負担も膨らむのです。そうなると、本人の精神が持たなくなります」
「精神力が持たない?」
「精神が崩壊し、自我を保てなくなるのです。そうなればもう、我々はどうすることもできません。ですが、まだ妖傀が出てきている状態ならどうにかできます。そのために、今回は応援要請をさせて頂きました。まだ、間に合ううちに」
閉じられていた黄色の瞳が、鋭く光る。
退治屋としての覚悟が見え、星桜は体を振るわせた。
「――――そういえば、貴方は赤鬼家の者では無いのでしょう? 偶然一緒に行動する事になったなんて……。まさかですが、精神の核をお持ちなのでしょうか?」
「え、なんでわかったんですか? 私、よくわかんないんですけど、精神の核っていうもの持っているみたいです」
星桜は驚きつつも素直に言い、魅涼は「そうなんですね」と怪しい笑みを向けた。
弥幸は目を細め、何かを探るような視線を魅涼に向ける。
「でも、それがどうしたんですか?」
「いえ、羨ましいと思いましてね。精神の核は我々みたいな者からしたら、喉から手が出るほど欲しい代物ですから」
「あ、それは赤鬼君も言ってましたよ!! 精神力の量がすごいんですよね!! 私でも役に立てるなんてって嬉しいです」
満面な笑みを浮かべる星桜に、魅涼は意味ありげな笑みを向けた。
何かを企んでいるような笑みに、弥幸は何も言わずジィっと見続ける。
「貴方は、お優しい方なのですね」
「へっ!? い、いえいえ。そんなことはありませんよ」
「そんなに優しいと、付け込まれてしまいますよ? 色んな方に──ね」
「は、はい……。気をつけます?」
星桜は首を傾げながら合間な返事をする。
魅涼は「それならよかった」と、微笑んだ。
「ねぇ、さっさと本題に入ってくれる? 僕は君達みたいに暇じゃないんだけど」
弥幸が不機嫌にそう口にし、その言葉が気に入らなかったらしい碧輝が弥幸を黄色い瞳で睨みつけた。
「申し訳ありません。つい脱線してしまいましたね。話を戻しましょうか」
魅涼が申し訳ないと言うように眉を下げ、弥幸へと向き直す。
「その二十五メートル級か、それ以上の妖傀が今晩現れる可能性があります。それをご一緒に退治していただきたいと思います。貴方の神力はなんですか?」
「炎」
「そうなんですね。私達は水です。残念ながら合わせ技などは難しそうですね。でしたら、個々でダメージを与え、最後は仕留められそうな方が臨機応変に対応しましょうか」
「ま、待ってください!!!」
魅涼の言葉に、星桜は手を上げた。
「どうしたのですか?」
「あの。仕留めるって、退治することですよね」
「そうですよ。三つの石を集めなければなりません。そうしなければ永遠とさまよい歩かれてしまいますからね」
「今回の妖傀は、赤鬼君が浄化します!!」
「────は?」
星桜のいきなりの提案に、弥幸は目を見張る。
魅涼や碧輝もキョトンとしたような顔で、動かなくなった弥幸を見た。
「だから、最後は赤鬼君にお任せ下さい!! そうすれば一回で終わります!! ね、赤鬼君」
星桜は期待の眼差しを弥幸に向け言い放つ。
その目は、キラキラと輝いており、流石の弥幸もすぐには答えられない。
口を結び、嫌そうな顔を浮かべていた。だが、否定できず、眉間に深い皺を寄せ「わかったよ……」と小さく答えた。
「ということなので!! よろしくお願いします!」
星桜は元気いっぱいに魅涼に頭を下げた。だが、思っていた反応ではなかったらしく、彼女は首を傾げながら顔を上げる。
魅涼は何かを碧輝に伝えており、碧輝も難しい顔を浮かべた。
「あ、あの。何か?」
星桜がおそるおそる聞いてみると、魅涼はまた優しい笑みを浮かべた。
「申し訳ありません。貴方達の言う浄化について、教えていただいてもいいですか?」
その言葉に、星桜は驚き、弥幸はなんの反応も見せなかった。