目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第41話 「出来ませんでした」

 馬車に乗って一時間弱。やっと目的の場所に付き、馬車は止まった。

 星桜は、その一時間弱は生きた心地がしなかったらしく、馬車から降り胸を大きく広げ空気を入れ替えた。


「死ぬかと思った……。空気の圧で……」


 胸をなでおろし、顔を青くしながら星桜は降りてきた弥幸の近くに隠れた。


「ねぇ、さっきから何? 鬱陶しんだけど」

「慣れるまでこのままで居させて」

「君って、人見知り激しいタイプなの?」

「そういうわけじゃないけど……。なんか、あの人達はダメ。怖い」

「正直だね。まぁ、僕もいい気分ではないかな」


 そんな会話をしながら魅涼に付いて行くと、空を覆い隠すほどの大きな屋敷が見えてきた。


 弥幸の家と比べると綺麗に整備されており、太陽光でキラキラと輝いている。

 赤色メインの屋敷。人が歩きやすいように石畳が並び、陽光を反射する池もあり、鯉が優雅に泳いでいた。


「うっ。眩しい!!」


 星桜が屋敷の目の前に立つと、輝かしい屋敷の光沢に目を瞑る。

 隣を歩いていた弥幸が急に眉間に皺を寄せた。


「馬鹿にしてるの?」

「え、なんで?」

「君のそういう所本当に嫌い」

「え、ちょ、置いてかないでよ赤鬼君!!」


 星桜と弥幸がそんな会話をしながら付いてきていることに、魅涼は微笑を浮かべ前を向く。

 碧輝は、先程と変わらず怒っているような顔を浮かべていた。


「楽しげな二人ですね。学生さんとはこんな感じでしたかね、碧輝」

「知らない。そもそも、俺達には無縁だったろうが」

「それもそうですね。学校など、行かせて貰えませんでしたから」


 悲しげな声は星桜の耳にも届いたらしく、不思議そうに首を傾げ魅涼を見た。


「では、行きましょうか。足元にお気をつけください」


 星桜の視線に気づいた魅涼は、優しい笑みを浮かべ、一つなお部屋に案内した。


 ※


 綺麗に掃除されており、隙が無い。

 高価そうな壺が何個も廊下の端に置いてあり、壁には景色画も飾られていた。


 海外の貴族が住むお城なのかと思う程、中は外観とは違い和とはかけ離れた構造となっていた。


 綺麗な廊下を進み、一つの部屋の前で止まる。

 後ろを振り向き、魅涼は笑みを浮かべながら「どうぞ」と襖を開けた。


 中は和風テイストで固められており、落ち着く。

 なぜ、廊下だけ海外のお城のようなテイストにしているのか疑問が浮かぶが、二人は気にしないことにした。


 部屋の作りは、弥幸の部屋と似ている。

 中心には大きい四角いテーブル。その回りには赤い座布団。

 床は畳が敷かれ、森林の匂いが鼻をくすぐる。


 魅涼が二人を座布団へと案内する。その際、星桜は落ち着くことなく周りを見回し、頬を染め楽しげに笑みを浮かべていた。


「何してるの。子供じゃないんだから、早く座りなよ」

「あっ。ご、ごめんなさい」


 弥幸に指摘され、星桜は慌てて隣へと移動し座布団へと座る。

 三人が座ったことを確認すると、魅涼は口を開いた。


「では、改めて自己紹介をさせていただきます。私はこの水泉家長男、水泉魅涼。こちらが次男の碧輝です。一応、お二人も自己紹介をお願いできますか?」


 魅涼が二人に目線を送る。

 彼の目線を受け取り、星桜は慌てて自己紹介を始めた。


「あ、はい。えっと。私は翡翠星桜と言います。赤鬼君とは学校が同じで、偶然一緒に行動するようになったと言いますか……。私自身特別な力がある訳ではないのですが、少しでも赤鬼君の力になるために来ました。ご迷惑にならないように気をつけます。よろしくお願いします」


 必死に自己紹介する星桜。そのあと、二人は弥幸に目線を送ったため、彼も嫌々口を開いた。


「赤鬼弥幸。赤鬼家、次男」

「────え、それだけ?」

「それ以外に何か必要? これ以外の説明は不要」


 そう言うと、弥幸は口を閉じてしまった。


「面白い方ですね。名前が分かれば問題ありませんよ」

「なんか、すいません」

「お気になさらずに」


 星桜が申し訳ないと頭を下げ、魅涼は笑みを崩さず頭を上げさせた。


「では、説明に入らせていただきますね。一応、メールでぼかしながらお送りしたのですが、詳しくは口頭でなければいけませんので」


 今の言葉で、先程弥幸が見ていたメールは魅涼からの物だとわかった。

 星桜は「あぁ、あの長文……」と思い出している。


 漏洩防止のため、詳しくは口頭で話すのは理解した星桜だが、詳細を書いていなくてもあんな長文なの? と、頭を抱えた。


「簡単に言うと、二十五メートル級の妖傀が現れたのです。そのため、退治を手伝っていただきたい」


 サイズを聞いて、星桜は先程までの疑問が頭から離れ、驚愕した。


「へぇ。まぁ、そこまで大きくなれば手に負えないだろうね。それは何回目なの?」

「二回目ですね。一回目でも十五メートルはありました。なので、次は三十の可能性があり……。そうなってしまうと、我々は手の出しようがありません」

「二十五メートル級のは倒せなかったの?」

「はい。退治する前に朝が来てしまい、本人が目を覚ましてしまったのです。そのため、抜き取ることが出来ませんでした」


 魅涼は悲しげな表情を浮かべ、ゆっくりと首を左右に振った。

 「ふーん」と、弥幸は顎に手を当て考え込んでしまった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?