次の日の屋上。星桜と凛、翔月と弥幸でいつも通りご飯を食べていた。
弥幸は、今までお昼休みになると机に突っ伏しているか、姿を眩ませるかのどちらだった。だが、今では屋上に行けば会える。
それの理由を弥幸に聞くと「君達はもう知っているから隠す必要ないでしょ。めんどくさいし。君達からこっちに来てくれるから楽」という言葉が返ってきた。
確かにと星桜は頷き、凛と翔月は哀れみの目を星桜に向けていた。
「星桜が洗脳されてる」
「だな。こちら側が良いように使われていると知らずに……」
「え、なんの話?」
凛と翔月は首を振り「なんでもない」と言いながら自身のお弁当やパンを頬張った。
「ところで赤鬼、結局手紙の返事は書いたの?」
「もう送った」
「それはお前一人で行くのか? 俺達は行っていいのか?」
今度は、翔月が弥幸に質問した。
「こいつ以外は自由でいいよ。来たかったら来ればいい。ただし、お金は自己負担だよ」
星桜を指さしながら、弥幸が言う。
「あ、私は確定なの?」
「行きたくないならいいよ」
「行く行く行く!」
弥幸の返答に星桜は慌てて訂正。全力で行く姿勢を示した。
「それで、君達はどうするの? 来るの? 来ないの?」
その問いに二人はすぐに答えられず、考える。
「行きたいけど、私達はまだ精神力すら操れないし――……」
「なら、来ないってことだね、わかった」
弥幸は凛の言葉をさえぎり、勝手に話を進めてしまう。
「ちょっと、まだ行かないなんて言ってないんだけど」
「なら、来るの?」
「いや、でも、行ったところで力になれないし……」
「来ないってことじゃん。僕は来ない理由を聞いているわけじゃない。ただ、行くか行かないか、それだけだよ。それ以外の言葉は求めてないから話さなくていいよ」
そう言いながら弥幸は、片手に持っている飲むヨーグルトを飲み干す。
凛はその態度に苛立ち、飲んでいるヨーグルトを押す。そのため、弥幸は「ングッ!」と変な声を出して咳き込んだ。
「ゴホッゴホッ、殺す気?」
「別に。ちょっと苦しめばいいかなって思ってさ。それに、少ししか押してないんだから問題ないでしょ」
凛は、顔を逸らし言う。そして、最後に残したトマトを口の中に放り込んだ。
「そんなんだから好きな人に振り向いて貰えないんだと思うよ」
「ングッ!!! ゴホッ、ちょっと黙れよクソキツネ!!!」
「今は狐じゃないよ。目はしっかりと見えてる? もしかして、日光に弱いのかな。屋上にいて大丈夫?」
「余計なお世話だよ!!!」
凛と弥幸は口喧嘩をし、その二人に翔月は苦笑い、星桜はニコニコと二人の会話を眺めていた。
「なんで、お前はそんなに笑ってるんだ?」
「え? だって、こんなに仲良くなっているんだよ? 嬉しいじゃん」
星桜の天然発言に翔月は頭を抱え、口喧嘩していた二人は星桜を睨み声を荒らげた。
「「仲良くない!!!」」
「へっ!? ななななんで怒ってるの?!?!」
二人の怒声と星桜の困惑した声が、雲一つない青空の下で響き渡った。
※
弥幸は今まで寝不足が続いていたため、真っすぐ自室に戻り、布団を敷く。
その際、近くに置かれていたテーブルに布団が当たり、置かれていた写真立てがパタンと倒れた。
「あっ」
慌てて弥幸は、倒れてしまった写真立てを元に戻す。
その写真に写っているのは、子供時代に撮ったであろう家族写真。
母親と父親が隣同士で肩を並べ、その手にはまだ小さかった逢花と弥幸が抱き抱えられていた。
父親の足元では、明るい笑顔でブイサインをしている一人の少年。
黒髪に銀髪のメッシュ。髪型などが弥幸と同じで、父親の服を掴みながら満面な笑みを浮かべ、映っていた。
※
ガタン、ガタン
景色が後ろに流れる電車の中では、弥幸がキャリーケースを隣に置き座り、星桜は合わせになっている座席の向かい側で本を読んでいる。
今二人は、応援要請があった水光の港へと向かっていた。
弥幸達の住む町、
しかし、さすがにもう二時間近くずっと読んでいたため、疲れと飽きがではじめていた。
弥幸はずっと俯いたまま動かない。
肩を上下に動かし、眠っていた。
「…………赤鬼君、暇になったんだけど」
星桜が周りの人に迷惑かけないように小さな声で声をかけるが、聞こえておらず反応がない。
彼女は溜息を吐き、弥幸に目線を送り続ける。
今日の弥幸の服装は、いつも制服の時に着ている黒いパーカー。その中には白いTシャツを着ており、下はジーンズにハイカットシューズを履いていた。
フードは深く被り、黒のマスクをつけているため、顔が全く見えない。
星桜は興味本位で手を伸ばし、弥幸のフードを少しだけ上げた。すると、サラサラな銀髪がフードの隙間から覗かせる。
目は閉じてしまっているため真紅色の綺麗な瞳を見れないのは、少し残念だ。
「やっぱり、見た目は良いのよね。なんだか、もったいない……」
星桜がフードから手を離そうとした時、不意に弥幸が目を開け真紅の瞳を彼女に向けた。
驚き、大きな声を上げないように星桜は掴んでいたフードをおもいっきり下へと引っ張り弥幸からの視線を強制的に遮断させた。
「いって!!」
弥幸のマスクとフードによりぐぐもった声など気にせず、飛び跳ねている心臓を落ち着かせようと、星桜は背を向け息を整える。
「い、いきなり目を開けないでよ。驚くじゃん」
顔を赤くして弥幸に文句を言う星桜だったが、今回弥幸は悪くない。
フードを少し上げ、眉間に皺を寄せ弥幸は星桜を睨む。
「君は、一体何がしたかったの」
その声には怒りが含まれており、星桜は冷や汗を流しながら言い訳をタラタラと伝えた。
「ひ、暇だったから……。赤鬼君は本当に寝ているのかなぁ〜っと、気になったというか……なんと、言いますか……」
「へぇ、興味本位だけで君は、僕の貴重な睡眠時間を削ろうとしたわけだ。君は、人がいないと生きていけないめんどくさい奴なのか?」
「人は皆、一人じゃ生きていけないもん……」
「そうだね。よく知らない僕を追いかけまわすくらいに人に飢えていたみたいだからね」
「そういう意味で追いかけていたんじゃないもん!」
そんな会話をしていても、電車は徐々に目的にまで移動する。
予定の時刻まで、残り三十分となっていた。
「…………しりとり」
「リアス式海岸」
「めっちゃ終わらせに来たじゃん。リモコンとかリボンとかは想像してたけど、まさかのリアス式海岸」
星桜は残り三十分をしりとりで潰そうとしたらしいが、弥幸が乗る訳もなく最初で終わらされてしまった。
「せめて、リンゴまではやってほしい……」
星桜がそう言うと、弥幸が「しりとり」と静かに口にした。
そのことに喜び、顔を上げ「リンゴ!!」と意気揚々と返す。
「ゴリラ」
「定番だね。ラッパ!」
「それこそ定番じゃん。なら、パイナップル」
「る? るるるる……ルンバ!!」
「…………バルク」
「くくくくく………
「……………わざと?」
「え、何が?」
その後、弥幸が無理やりしりとりを終わらせてしまった。そのため、星桜はまたしても暇になる。だが、あと二十分くらいで着くため、残りの時間は窓の外を眺めて待つことにした。
窓の外に目を向けると青く輝く海が見え、星桜は口元に笑みを浮かべ目を輝かせながら窓に食らいつく。
「赤鬼君赤鬼君。外、見てる? 海がすごく綺麗だよ」
海から目を離さずに、弥幸に声をかけるが返答がない。
星桜は頬を膨らませながら横に顔を向けた。
「もぅ、だから赤鬼君てばっ──」
先程まで座っていたはずの弥幸の姿がない。
どこに行ったのかと周りを見ると、まだあと十分近くはあるのだが、弥幸はもうドア付近に立って開くのを待っていた。
その姿を星桜は苦笑いを浮かべた。
「赤鬼君って、難しい性格してるね……」
ボソッと呟いた星桜は、溜息をついたあと自身の荷物を持ち、弥幸の隣へと移動した。