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第33話 「どんなことになろうとね」

 星桜の質問に驚き、翔月と凛は何も言えない。

 弥幸は、星桜の目を見て、ニヤリと笑った。


「今日、わかるよ」

「「「ん?」」」


 三人は、言葉の真意がわからず顔を見合わせるだけだった。


 ※


 放課後、弥幸に家に集まり、翔月、星桜、凛、弥幸、逢花が円になり部屋の一室で話している。


 なんの事情も知らない逢花は、翔月から屋上の時の話を聞き相槌を打っていた。

 腕を組み、「うーん」と天井を仰ぐ。


「なるほどねぇ。私も、利害が一致しているのなら私達と共に行動するのがいいと思うよ。星桜さんを一人にするのは危険だし、力に慣れるまでは弥幸お兄ちゃんに守ってもらったほうがいいよ」


 お茶を飲みながら、逢花は言った。

 弥幸は、自分に関係ないというように丸テーブルに突っ伏し、寝ている。


「弥幸お兄ちゃん、寝てるの?」

「寝てる」

「おはよう。三人にどこまで説明していて、どこまで説明していいか教えてほしいなぁ」

「もう、なに話していいよ。今更隠しても、今後めんどくさいことが待っているだけだし」


 顔を上げず、弥幸は伝えた。

 弥幸の態度に慣れている逢花は頷き、笑顔で星桜達根と顔を向けた。


「まず前提として星桜さんは、妖傀を相手にする人達からすれば、喉から手が出るほど欲しい、精神の核というもの持っているの」


 聞き覚えのない単語に、凛が手を上げ問いかけた。


「精神の核を持っていると、何が違うの?」

「精神の核は、持っている人の精神力を莫大にするの。ゲームで言う所の、MPみたいな感じかな」

「なるほど」


 凛は納得したが、次に手を上げたのは翔月だった。


「精神の核が凄いものなんだと言うのはわかった。だからって、なんで一人だと危険なんだ?」

「私達、赤鬼家は特に気にしないんだけど、他の退治屋は強さを求めて精神の核を持っている人を探しているの。見つかったら、一人で対処なんて今の星桜さんには難しい。だから、弥幸お兄ちゃんと一緒に行動した方が安全ってわけ」


 今の説明で納得はした。だが、まだ気がかりな事があり、翔月は眉を顰める。


「あー、もしかして。男女と言うのが気になるのかな」


 逢花の言葉に、翔月の肩がピクリと動く。


「やっぱりね。でも、大丈夫だよ、相手が弥幸お兄ちゃんだし」


 笑顔で言い切った逢花に、翔月はまだ納得していない部分もあるが、ひとまず頷いた。


 だが、星桜は何か言いたげに手を組み、もじもじとしている。

 翔月は星桜の不自然な動きに眉を顰め、彼女にしか聞こえないように問いかけた。


「どうした? やっぱり、不安があるのか?」

「……不安がないと言えば、ないよ。だって、赤鬼君は強いし、他人を見捨てるようなことは多分しないと思うし。でも、その……。普段の言動が……ね。これからずっと一緒ってことは、私は一日、何度あの毒舌を聞かないといけないんだろうって考えちゃって…………」

「あぁ……、それは確かに、ある意味不安だな。安全は確保されているけど、安心は確保されていない」

「うん」


 二人がため息を吐くと、弥幸がやっと顔を上げ欠伸をこぼし、伸びをしながら起きた。涙を拭きながら星桜を見て、掠れた声で声をかけた。


「ずっと一緒にいるわけないじゃん。それは僕にとっても罰ゲームだよ。夜の妖傀退治の時のみ、一緒にいてくれるだけでいい。私生活には踏み込んでほしくないし、踏み込まないから安心して。君に構っている時間があるのなら寝る時間に使いたい」


 今の言葉に納得はするも、腑に落ちず頷くことができない星桜と翔月。

 凜も呆れ、何も言えない。


 逢花はいつものことなため笑顔のまま「ねっ!!」と三人に同意を求めた。


「それじゃ、今後は妖傀退治の時だけ、よろしくね」

「なんか。色々引っかかるけど。まぁ、よろしくね、赤鬼くん!!」


 弥幸が遠回しに、退治以外はよろしくしないよと言う。彼の言葉に苦笑を浮かべるが、星桜は気を取り直し手を差し出した。


 弥幸は差し出された手に一瞬戸惑い、顔と手を交互に見る。

 数回瞬きすると、戸惑いがちに手を差し出した。


 ゆっくりな動きだったためじれったいというように、近づかれた手を星桜は強引に繋ぎ「はい、握手!」と笑顔を向けた。


「君って、ほんとうに馬鹿だね」

「なんでよ!!」


 怒った拍子に緩んだ手を払う。

 払われた手を悲しげに見降ろした星桜は、口をへの字にした。


「…………星桜」

「っ、へ? は、はい」


 いきなり初めて名前を呼ばれ、咄嗟に返事をする。

 他の二人もさすがに驚き弥幸を見た。


 困惑している三人の反応を気にせず、弥幸は立ち上がり襖に手を添え、伝えた。


「君のことは、出来る限り守るよ。僕が、命を懸けて。どんなことになろうとね」


 決意の込められた、迷いのない言葉に、動揺が広がる。

 そんな時、彼が何かを忘れていたかのように、「あっ」と声を漏らした。


「何をすればいいかわからないんだっけ、それなら逢花に聞いて」


「それじゃ」と、今度こそ部屋を出る。


 残された四人は、顔を見合わせキョトンとする。そして、もう一度襖を見ると、星桜は顔を赤面させ、勢いよくその場にうずくまった。


「~~~~~~~~~もう!! こういう時だけかっこいいの、本当によくない!!」

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