目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第24話 「必要だ」

 放課後、星桜は鞄に教科書などを詰め帰る準備をしていた。

 当たり前だが、弥幸はもう教室内にいない。


 星桜は、自身の怪我に気をつけながらゆっくりと準備をしていると、翔月が手伝うように鞄を広げた。


「あ、翔月。ありがとう」

「別に。一応チャンスはものにしたいからな」

「チャンス? ────あっ」


 星桜はチャンスと言う言葉に首を傾げたが、すぐになんのことかわかり赤面。もごもごと何かを言っている。


 目を細め、翔月は薄く笑い「ほれ」と帰る準備を手伝った。

 話しながら帰る準備をしていると、突然ポケットの中に入っていたスマホが震えだす。


「あれ?」


 ポケットからスマホを取り出し画面を開くと、手紙のアイコンに数字のマーク。メールが届いたことを知らせるものだった。


 開くと、メールの差出人は不明。件名もなし。

 本文には”屋上に来い”の一言。


 翔月は怪訝そうな顔を浮かべ「イタズラじゃね?」と言葉をこぼしていたが、星桜は清い笑みを浮かべながら天井を仰ぎ、その後大きなため息を吐いた。


「イタズラの方が何倍もマシだったかなぁ。だって、無視すればいいんだもん。でもこれ、無視したら私、燃やされるね。多分、おそらく、きっと、絶対」

「……ん? 燃やされる? どういうことだ?」

「来ればわかるよ」


 死んだような笑みを浮かべた星桜に、翔月は「お、おう」と苦笑いを浮かべながら頷いた。


 ※


 二人が屋上に行くとドアは開けられており、パーカーのフードを深々と被り、空を見上げている弥幸を見つけた。


「赤鬼君、いきなり呼び出すのはやめて。あと、どうやって私のメールアドレス──」

「今日も君は妖傀に襲われる。だから、呼び出したんだよ。今回の妖傀はその男より恨みが膨らんでいるから、相当危険だろうね」


 駆け寄りながら文句をぶつけようとした星桜の言葉を途中で遮り、弥幸は用件だけを早口で伝えた。


「えっと、私、色んな人から恨まれすぎじゃない?」

「大丈夫だよ、安心して。人間は憎み憎まれの間柄で成り立っている。君ばかり悪い訳では無い」

「馬鹿にしてる? あと、哀れみの目を向けるのやめて」


 弥幸は振り向き、星桜へと近づき肩に手を置く。彼女に向けられる瞳は哀れみの目、同情するような口調だった。


 青空が広がり、心地のよい風が吹く中、星桜は苦笑を浮かべ弥幸を忌々しい瞳で見返した。肩に置かれた手を離させ、ため息を吐いた。


「んで、今回君を呼んだのは他でもない」


 弥幸は柵に寄りかかり、腕を組みながら本題に入る。

 二人も耳を傾け、聞く体勢を作った。


「今晩、おそらく今までより強い妖傀が現れる。今回は一発目で何とかしたい。そのためには、君の精神の核が必要だ」


 弥幸は真剣な表情で星桜を見ながら言い放つ。


 今までも星桜にとっては、恐ろしい戦闘だった。

 体は固く、腕は複数伸びて見た目も不気味。それに加え、巨大な体に地を這うような声。


 戦闘を行っていたのは弥幸で星桜は見ていただけだが、それでも思い出すだけで体が震えてしまう程怖かった。なのに、それ以上の恐怖がこれから待ち受けていると知り、体が震えた。


「私……。何をすればいいの?」

「君にはこの後、僕の家に来てもらい、逢花と共に精神のコントロールを身につけてもらいたい」

「精神のコントロール?」

「そうだよ、それくらいなら一晩でなんとかなる。元々君の精神力は弱くないように見えるからね。すぐに挫折することは無いと思ってるよ」


 言い切る弥幸には迷いがない。それだけ信じているのか、他に理由があるのか。


 星桜の頭の中では、これから何をされるか分からないという不安が駆け回り、げんなりとした表情を浮かべた。

 それは翔月も同じで、恐る恐る手を上げ、腕を組んでいる弥幸に問いかけた。


「えっと、具体的にはどんなことをするんだ?」

「簡単だ。星桜にとってのトラウマとなっている過去を映像化し、何度も何度も見せて精神力を強くする。まぁ、何度かは心が折れてしまうかもしれないけれど、仕方がないね」

「「待って?!?!!」」


 星桜と翔月は同時に制止した。顔は青く、焦っている。


「なに?」

「怖いよそれ!!! というか、そんなことするなんて……」

「一晩でやるにはこれが一番効率的なんだけど。他の方法となると──」

「なにっ?!」


 救いの言葉に縋るように、身を乗り出した星桜は弥幸の次の言葉を待つ。


「そうだねぇ……。精神的負荷を与えないといけないけど、トラウマ系が嫌なのなら物理しかないね。例えば、君の体に切り込みを沢山入れ、治し、そしてまた切り込みを入れて痛みから心の強さを引きだっ──」

「却下!!!!」


 星桜は弥幸の説明を最後まで聞かずに即却下。面倒くさそうに「ワガママすぎじゃないの」と弥幸はげんなりとした。


「それはおかしいでしょ!!! あ、そうだ。逢花ちゃんなら赤鬼君よりいい案を出してくれるかもしれない!! 逢花ちゃんに聞いてから決める!!」


 星桜は必死に頭をフル回転させ言い、弥幸は「仕方がないな」と頭を掻き屋上を出る。

 星桜は息を切らし、翔月はポンッと肩を叩き、小さな声で「ドンマイ」と口にした。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?