星桜は、愛嬌のある逢花を困惑しながら見続ける。
頑張って思い出そうとするが、わからない。
そのうち痺れを切らし、逢花は笑顔を消し頬を膨らませてしまった。
「二回も貴方を崖の上に送ったのに忘れるなんて、酷くないかな」
今の言葉がヒントになり「あっ!」と思い出すことが出来た。
「二回送って貰ったって、もしかして逢花ちゃんって……」
「うん、正解。私の仮の名前は、アイ。覚えてくれていたみたいでよかったー!」
こんな天真爛漫な子が、あそこまでの無表情で人と接する事が出来るなんてと、星桜は驚きで言葉を失った。
「星桜さん!! これからもよろしくね!」
天使のような笑みを浮かべる逢花を見て、星桜は思わず顔を綻ばせる。
「よろしくね、逢花ちゃん。あと、今まで助けてくれてありがとう。本当に助かったよ」
「えへへっ。お兄ちゃんは後片付け何もしないから、私の仕事になってるの。酷いよね!!」
「うん。確かにそれは酷いよ、赤鬼君」
二人は鳥居の前で偉そうに見下ろしている弥幸に目を向けた。
いきなり視線を送られた弥幸は顔を引き攣らせ、そっぽを向く。ポケットに手を入れ、時計を確認するためスマホを取り出した。
「逢花、部活は良いの?」
「え、あ、やばい!! それじゃ星桜さん、今度一緒にお茶会でもしよう? 色々お話したい!!」
逢花は星桜の手を掴み握手した。そして、そのまま屋敷の中へと戻っていく。
そんな後ろ姿を、星桜は手を振りながら見送った。
「可愛い子だね」
「うるさいだけだよ」
そうして、また屋敷から現れた逢花はセーラー服を身にまとい、そのまま走って鳥居を抜け「行ってきます」と口にし去っていった。
「行ってらっしゃ────セーラー服?!?! え、もしかして中学生?!」
「そうだけど、それがどうしたの」
星桜の驚きように、弥幸は首を傾げる。
「いや、だって。中学生にどんだけ危険なことを……」
「後始末だけだよ」
弥幸は星桜に向かって歩き、勘違いしないように教えた。
「え、そうなの?」
「うん。基本、戦闘は僕、後始末は逢花。あいつに戦闘はさせないつもりだよ、危険が多いからね。いつ、命を落としてもおかしくないわけだし」
話を締めくくり、弥幸はスポドリを片手に星桜の横を通り抜け、道路に出る。そんな彼の背中が、今は少し小さく見える。
星桜は今の説明にほんの少し引っ掛かりを覚えたが、質問させる気がない弥幸に声をかけられない。
スタスタと歩いてしまう彼の後ろ姿を見て、気を取り直し置いていかれまいと走り出した。
「そ、それで。なんで私は呼ばれたの?」
「今日で、今までの妖傀に終止符を打ちに行くから」
弥幸は前を向きながら、答える。
今までの妖傀と言うことは、崖の下で二回も星桜を襲った化け物についてだと
すぐに分かった。
「終止符を打つって、なに?」
「もうそろそろ妖傀を出している本人の精神が持たないような気がしてね。三回目である今回の戦闘は、時間をかけてはいけないと思うから、前もって色々知っておこうと今から会いに行く。君に関係のある事だから呼んだ」
弥幸は言い切るが、星桜はよくわからず質問を続けた。
「三回……必ず出てくるの?」
「基本妖傀は、恨みを晴らされなければ毎晩地上に出てきて対象者を襲う。だけど、それは何もしなかったらの話だよ。僕が戦闘終わりにいつも抜き取っている想いのカケラ。それを三回抜き取ることが出来れば、恨みの具現化である妖傀は存在できなくなり、消滅する」
「消滅したあとは、どうなるの?」
「どうもならない。ただ、その場しのぎが出来るだけ。妖傀を生み出した本人の心には恨みが残っていると思うけど、そればっかりは僕にもどうすることも出来ない。自分で対処する他、完璧に恨みを消去する方法はないんだ」
弥幸の説明を、星桜は考えるように聞いていた。
「消滅した妖傀は、再度出てきてしまうことはあるの?」
「ないとは言いきれない。今はまだ発見されていないけど、それはただ僕達が見つけていないだけに過ぎないからね。もしかしたらどこかで見つけられているのかもしれないし、再度出てきていないのかもしれない」
まだ分からないことがあるらしく、弥幸自身も考えながら質問に答えている。
「今は、まだわからないこともあるんだね」
「当たり前。調べるまでは時間が足りないよ」
そのまま歩き進める。そんな弥幸の後ろ姿がやっぱり小さいなと思う星桜。
それでも、これ以上質問することなく、付いて行った。