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第16話 「あからさますぎ」

 星桜は今、自身の家に帰り、部屋にあるベットの上で横になっていた。



 妖傀を灰にしたあと、弥幸は刀や炎狐を御札に戻しながら星桜に告げる。


「明日が最後のチャンスだよ」と――……


 言うと、星桜の返答を待たずにその場から姿を消した。

 残された星桜は言葉の意味も理解出来ず、ただただ困惑するばかり。それだけではなく、この後どうやって家に帰ればいいのかもわからない。


「え、ちょ。赤鬼君!?」


 やっと気を取り直した星桜は、誰もいない空間で名前を呼ぶ。だが、返ってくるのは虚しい風の音のみ。


 崖を見上げ絶望の顔を浮かべていると、木の影から前回も送ってくれたアイが「送って行くわ」と出てきてくれた。


 崖を登る際、またしてもひとっ飛びだったため、星桜が叫んだのは言うまでもない。



 そんな事がありながらも、無事に帰宅できた星桜は、ベットの上で妖傀の流していた涙について考えていた。


 弥幸によって頭部を斬り飛ばされ、偶然にも視線が合った時に流していた涙。

 気になるのはそれだけではなく、戦闘中に放っていた言葉も、星桜は気がかりだった。


「なんで、妖傀は私を呼んでいたんだろう。しかも、すごく悲しげで、苦しそうだった……」


 妖傀は人の恨みが具現化した姿。恨みが内側だけでは抑える事が出来ず、生霊のような姿になり、対象を殺す。


 恨みの化身である妖傀が悲し気に涙をこぼし、縋るような声を出すだろうか。

 初めての事が多すぎる星桜は、考えれば考えるだけ疑問が浮上し、不安を拭いとる事が出来ない。


「妖傀の正体って本当に──なのかな……」


 いくら考えても意味はないと、最終的に諦め、星桜は暗い顔のまま仰向けになり、目を閉じた。


 ※


 次の日の朝、目覚ましの代わりにスマホの着信音が鳴り響いた。

 まだ眠っていた星桜は目を擦りながら、誰からの着信か確認する。だが、なぜか非通知からかかってきており眉を顰めた。


 最初は出なくてもいいかと考えたが、ずっと鳴り響き止まらない。

 意を決して、スマホに写っている電話のマークを横へとスライドし、おそるおそる耳に当てた。


「も、もしも──」

『遅い。僕を待たせるなんて君はなんて偉い人なんだ。命の恩人である僕をもっと称えなよ』

「……………………僕僕詐欺ならお断り──」


 一瞬にして誰かわかった星桜は、呆れと怒りで強制的に電話を切ろうとした。だが、次に聞こえた言葉に慌てて立ち上がることとなった。


『今すぐ準備して僕の家に来るように。遅かったら、僕が繰り出す炎でお前の家を燃やし尽く──』

「わかったわかった!! 今行くから待っててよ!!」


 星桜が叫ぶと、なんの返事もせず電話はプツンと切れる。

 暗い画面になったスマホを見ながら星桜は、わなわな震える手でスマホをベットに叩きつけた。


「〜〜〜〜赤鬼君のアホォォォォオオオオオオ!!!」


 ※


「遅い」


 星桜が全速力で走り、十三時過ぎに紅城神社に辿り着いた。


 ピンク色の短パンと白いシャツ、ピンク色のパーカーを身に纏っていた。

 急いでいかなければならなかった為、髪を整えられなかった星桜は、苦肉の策でポニーテールに結んでいた。


「こ、これでも……急いんだん、だけど……はぁ」


 息を切らし、鳥居に寄りかかっている弥幸を睨みながら文句を言う。

 それでも彼は、星桜の様子を気にせず、ただただ見下ろしているだけだった。


 今の弥幸は、昨日と同じ服を着ていた。

 腰には狐の面がつけられており、偉そうに腕を組む。


「くそっ。赤鬼君って本当に性格がわるい」

「なら、これはいらないかな」


 弥幸は言いながら、手に持っていたであろう未開封のスポドリを星桜に見せつけた。


「え、くれるの?」

「君は、性格悪い人からスポドリなんて貰いたくないでしょ? 仕方がないから僕が飲むね」


 意地の悪い言葉を言い放ちながら、未開封のペットボトルを開け飲もうとする。


「ま、待って待って!!! 赤鬼君って本当に優しくて紳士的な出来る人だよね!!! 人の事をしっかり見ていて、本当に尊敬しちゃうなぁ!!」


 星桜は必死に笑顔を作り、弥幸を褒め称える。

 それを見ている弥幸は、ペットボトルを下ろし口角を上げ、星桜を見下ろした。


「君、あからさますぎ、却下」

「あぁ!!! 私のスポドリ!!!!」


 弥幸は遠慮なくスポドリを飲んでしまった。

 それを目の当たりにし、星桜は叫んだと同時に肩を落とし、膝をついた。


「くそっ。この悪魔……」


 項垂れる星桜に弥幸は冷たい目を向ける。すると、屋敷の方から元気で明るい声が聞こえた。


「弥幸お兄ちゃん、あまり虐めないであげなよ。せっかくできた唯一の友達なんだからさ」

「へ、お兄ちゃん?」


 星桜はいきなり聞こえた女性の声に顔を上げた。

 そこには、黒髪に銀色のメッシュ。目は弥幸と同じく真紅に染まっており、綺麗に赤く輝いていた。


 ぱっちり二重、可愛い顔立ちをしている女性が弥幸の背中に手を添え笑顔で話しかけている。

 どこかで見た事があるような容姿に、星桜は思わず凝視してしまった。


「あ」

「あっ」


 女性は項垂れている星桜と目があい、軽やかに近づき目の前でしゃがむ。 

 右手には、未開封のスポドリが握られていた。


「初めましてではないんだけど分かるかな。私は赤鬼逢花あかぎあいか。弥幸お兄ちゃんの妹だよ。はい、これ、星桜さんのスポドリ」


 逢花は笑顔で自己紹介をし、スポドリを渡す。

 星桜は釣られるように「ありがとう」と言い、差し出されたスポドリを素直に受け取った。


「──って、赤鬼君、妹さんいたの!?」

「うん」

「うんって、聞いてない!!」

「言う必要性、今まであったかな?」

「……ない」


 星桜は弥幸に完全に負け、肩を落としながらも立ち上がり、スポドリを開ける。

 相当喉が渇いており、一気に半分くらいまで飲み喉を潤した。


「ぷはぁ!! 運動の後は、やっぱりスポドリだよ!!」

「ジジィ」

「おだまり!!」


 星桜と弥幸の会話をくすくすと笑いながら見ている逢花。

 その様子に気付き、星桜は慌ててペットボトルの蓋を閉める。


「えっと、初めまして。私は──って、さっき私の名前言ってた?」

「うん、言ったよ。翡翠星桜さん。私と貴方は初めましてじゃないんだけど、やっぱりわからないかな」


 ニコニコ笑いながら問いかける逢花に、星桜は記憶を遡るが思い出す事が出来ない。首を傾げながら、眉を下げ彼女を見返した。

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