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第11話 「見失うよ」

 弥幸と星桜は、放課後校舎裏で待ち合わせすることにした。

 理由としては、弥幸が教室で人と話しているのを他人に聞かれたくないから。


 屋上から教室に戻ってからは、凛と星桜は一切言葉を交わすことなく授業が始まる。

 弥幸は、周りからの視線を毛ほども気にせず、窓側の席につき寝始めた。授業はいいのかと、星桜はため息を吐き教科書を出す。




 いつも通りの授業が終わり、放課後になった。

 星桜は鞄に教科書などを詰め込み、横目で弥幸の机を見る。だが、そこにはもう誰もいなかった。


「はやっ!!」


 咄嗟に口に出してしまった星桜だったが、直ぐに口を閉じ急いで帰る準備をして教室を出た。


 その様子を凛は目を細め、小さく舌打ちをする。


「今度こそ……」


 ※


 校舎裏は草が生い茂っており、手入れがされていない。

 そんな雑草の中心が円形に刈られている事に星桜は気づく。近付くと、横になって寝ている弥幸の姿を確認出来た。


 星桜は足音をあまり立てずに弥幸へと近付き、隣にしゃがむ。

 フードの隙間から見えるのは深紅の瞳ではなく、閉じられた瞼。


「…………」


 弥幸を起こそうと星桜は右手を伸ばすが、いきなり手首を彼に掴まれ「ヒュッ」っと声にならない小さな悲鳴が飛び出した。


「…………寝込みを襲うなんて。僕がイケメンだからってそういうのは良くないと思うよ」

「た、確かに赤鬼君はかっこいいし儚く美しい顔してるけど、別に襲おうとしたわけじゃ……。ただ、起こそうとしただけ」

「はぁ、君には冗談も通じないのか」


 呆れ気味に弥幸は手を離し、欠伸を零しながら体を起こす。


「冗談を言う人だと思ってないもん」


 弥幸から吐き捨てられた言葉に、星桜は頬を膨らませ言い返す。


「ところで、これって何? なんで、円状に赤鬼君の周りだけ刈り取られてるの?」

「刈り取ったから、というか。燃やした」

「なんだ、燃やしたのか────どうやって?!」


 星桜は慌てた様子で、自身が座っている草に手を触れてみる。

 よく見ると葉先が少し焦げているため、弥幸の言葉が本当と分かった。だが、綺麗に円形になっているため、どのようにしたのかまでは分からない。


「これ」


 弥幸が出したのは、以前アイという女性が星桜の傷を治してくれた時に取り出した長方形の紙だった。


「これって、前に見たものだ」

「これはアニメとかでよくある、御札だよ。これには、僕が使役している式神が入っている」

「式神? 式神って陰陽師とかがよく使うやつ?」

「そうだよ。これには炎狐えんこという子狐が入ってる」


 式神の説明をしてくれた弥幸だったが、直ぐにその場から立ち上がり、ポケットに御札を入れ歩き出す。


「え、ちょ。まだまだ聞きたいことが──」

「歩きながら話すよ。今は付いてきて。お目当てを見失うよ」


 弥幸は言いながら、なぜかまた校舎へと戻る。


「あれ、また戻るの?」


 疑問に思った星桜だったが、その質問に答える声はなく弥幸はどんどん進んでしまう。

 何を言ってももう答えてくれないと悟った星桜は、仕方なく弥幸の後ろを付いて行くことにした。


 ※


 校舎内に戻り、弥幸は自身の教室である『2ーB』に辿り着く。


「なんで教室に──」

「静かにして」


 星桜が口を開くと、バッサリと切り捨てた弥幸。

 文句を言おうとしたが、なぜか弥幸は教室に入らず、気付かれないようにドアの横に立つ。


 それを見て、星桜も文句を言いかけた口を閉ざし足音に気をつけながら弥幸の隣に立った。


 教室内には男子生徒がまだ残っており、その中には星桜の幼馴染である翔月の姿もあった。窓側でなにか、神妙な面落ちで話している。


「なぁ、今日のなんだったんだ?」

「あぁ、朝の一悶着な。翡翠が武永を──いや、逆か?」

「武永が翡翠をあんだけ怒らせるのが不思議なんだよな。だってよ、翡翠ってそんなに怒るイメージねぇじゃん?」

「確かにそうなんだよ。クラスのアイドル的存在だろ? いつも笑っててさ。俺はあの笑顔が見れるだけで幸せになれるわぁ〜」

「言ってろよ」


 そんな会話している男子高校生達。

 星桜は少し頬を染め、弥幸は面倒くさそうにその場にしゃがみこむ。


「そんで、そんなアイドルと幼馴染である翔月君。なんであんなに翡翠が怒ってたかわかるか?」

「しらね。つーか、最近話してねぇし」


 話しかけられた翔月は、冷たく突き放すような言い方で返す。その言葉に、星桜は少し胸を痛め俯いてしまった。

 弥幸はそんな星桜を見上げ、何か考えるように視線を教室内に向けた。


「なんだよぉ、喧嘩したのか?」

「喧嘩してんのは星桜と武永だろ」

「たしかになぁ。まぁ、この二人が喧嘩しているのも珍しいけど、一番珍しかったのってさ……」

「あぁ、赤鬼だろ?」


 弥幸の苗字を会話に出され、星桜はハッとしたように隣でしゃがんでいる彼を見た。


「赤鬼がまさか、あんな行動をとるなんてな」

「驚きだよな。他人に全く興味無いと思ってたんだけど……。もしかして、密かに翡翠の事狙ってたとかか?!」

「いやいやそれは──」


 男子生徒が話していると、なぜかガタッという音が響く。

 それに驚いた星桜は中を確認しようと乗り出すが、直ぐに弥幸によって止められてしまった。


「なにやってんだお前」

「うるせぇわ」


 先程の音は、翔月が一人の生徒の言葉に驚き、座っていた机からバランスを崩して倒れてしまった物だった。


 その後は「なにやってんだよー」と笑い声と共に関係ない話へと移った。

 もう用はないというように弥幸はその場から立ち上がり、教室から離れる。星桜も少し戸惑いながらも彼の後ろを付いて行った。


「今夜の退治に向けての、完了だ」

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