星桜は次の日も、また次の日も。諦めずに何度も何度も弥幸を見失わないように後を付いていく。その行動は、一歩間違えればストーカー。
彼女といつも一緒に居た
ストーカーもどきをされている弥幸は、毎度星桜の隙を突き、姿を眩ませる。
黙って姿を晦ませるくらい嫌なのなら、文句の一つでも言えばいいのにと、翔月は思っていた。
今も、教室で窓側の席に座っている弥幸を横目でちらちらと見ている。
そんな彼女の姿を翔月は隣で見ており、微かに顔を俯かせた。顔に影が差し、下唇を強く噛む。
ふつふつと湧き上がる黒い感情、怒りなのか憎しみなのか。それとも悲しみなのか分からない感情を押し殺すことが出来ず、翔月は思わずに鬱憤が口から出てしまった。
「そんなに好きなら、あいつといればいいだろ」
思いもよらない言葉が自然と零れ、彼はハッとなりかぶりを振る。だが、その声は星桜に届いてしまい、驚きで目を開き彼を見ていた。
星桜からの目線に気づき、翔月は慌てて誤魔化すように顔を逸らした。
「い、いや。なんでもない」
「え、でも。今……」
「そんなことより、次の授業が始まるぞ。先行っているからな」
翔月は口早に言い放ち、その場を後にする。
不思議に思いながらも、星桜はなにも追及する事はせず、次の授業の準備を始めた。
※
星桜と別れ、翔月が廊下を歩いていると偶然弥幸と見合わせた。
彼はフードを深く被り、黒いマスクで口元を隠している。それだけでも話しかけにくいのだが、纏っている雰囲気が異質で、翔月は一瞬息を飲んだ。
気を取り直し、何事も無かったかのように弥幸の隣を険しい顔で通り抜けようと進む。その時、突然右手を掴まれた。
驚き、彼は振り向き弥幸を見た。
「な、んだよ……」
「想いを外に出せ。取り返しがつかなくなるぞ」
翔月の質問に被せるように弥幸が張りのない、気だるげな単調な声で伝える。
適当な事をと、翔月は言い返そうとしたがすぐに口を閉ざした。
フードから覗き見える深紅の瞳に見つめられ、体に悪寒が走り言い返す事が出来ない。
弥幸は彼の反応などお構い無しに掴んでいた手を離し、逆側へと歩き去ってしまった。
「なんだ、今の?」
唖然としてしまい、その場から動くことが出来ない。
去って行く弥幸の背中が見えなくなるのと同時に、その場に力なくしゃがみ頭を抱えた。
「つーか。なんなんだよいきなり」
頭をガシガシと掻き、文句が口から零れ落ちる。
今まで一切関わりがなかったはずの弥幸から声を掛けられた事に驚く翔月だが、それより言われた言葉の方が頭に残っていた。
『想いを外に出せ。取り返しのつかないことになるぞ』
彼の言葉が意味する答えとは何か。なぜ、翔月にわざわざ言ったのか。
頭を抱えながら答えを導こうとするが、結局わからずため息だけが静かな廊下に響いた。