学校の教室内。壁掛け時計の時間は、十三時の少し前を指している。
昼休みなため、各々が自由に過ごしていた。
賑やかな教室内に、机に突っ伏して寝ている男子生徒が一人、窓側の一番後ろの席に座っていた。その男子生徒の名前は
ワイシャツの上に黒いパーカーを羽織り、フードを深く被っている。
窓が開いているため、フードから見え隠れしている銀髪が微かに揺れていた。
人と関わるのが嫌いで、普段からずっと一人で行動している。そのため、周りからも遠巻きにされており誰とも話さない。
謎が多い人物だと、周りからは思われていた。
そんな彼を見ている、一人の女子生徒。
黒髪を肩まで伸ばし、目はぱっちり二重。肌白で背筋がまっすぐスタイル抜群。見た目も可愛く、人当たりの良い性格なため、男女共に人気の高い人物。
名前は
そんな彼女に、一人の女子生徒が肩をポンッと叩き話しかけた。
「星桜、何を見てるの?」
「ん? んとね。今、赤鬼君の観察してたの」
星桜に声をかけた女子生徒は、
明るい茶色の髪を後ろでポニーテールにし、ワイシャツの袖をまくっている。
スカートは、膝より少し上まで上げていた。
彼女の問いに
凛々しい表情の星桜に、凛は引きつった笑みを浮かべた。
「あぁ、赤鬼君ねぇ……」
凛は気を取り直し弥幸に目を向け、苦笑いを浮かべながら曖昧に呟く。
その反応が星桜にとっては不思議なものに思え、目を丸くし見上げた。
「どうしたの?」
「うーん。赤鬼君ってさ、あまり……というか、全く人と話さないでしょ? 話しかけてもすごく嫌な顔をするし。だから、誰も話しかけようとしない」
「あぁ、確かに。一度日直の仕事で一緒になった時あったけど、話しかけても無視されたんだよね。沢山話しかけると嫌かなぁって思って、その後は何も話さなかったんだけど」
「あんたに対してもそうなんだ」
「まぁ……」
曖昧に星桜は返答し、凛を見る。
その時、凛は何かを思い出したかのように、笑みを浮かべ口を開いた。
「そういえば、最近噂になってる狐に少し似てない?」
「噂? あぁ、闇夜を駆け回る狐──だっけ?」
「そうそう。夜、外を出歩くと人間とは思えない化け物──
怖い話をするように、ゆっくりな口調で語る凛。対し彼女は真剣に聞き、うんうんと頷いていた。
その際、特徴を確認するため、横目でもう一度弥幸に目を向ける。だが、窓側にはもう誰もいなかった。白いカーテンが風に煽られ、ひらひらと揺れているのみ。
「あれ、いなくなってる……」
「あ、本当だ。どこに行ったのかな」
教室内を見回す二人だが、見つけることが出来ない。すると、一人の男性が星桜へと声をかけた。
「星桜」
「あ、
声をかけたのは、
髪の色は焦げ茶。ワイシャツは三つぐらいボタンを開け、中には黒いTシャツを着用していた。
翔月と星桜は幼馴染で、今でも仲がいい。
よく、二人で登下校をしたり、お昼を共にしていた。
星桜はうっかりしている時が多々ある為、その度翔月が声をかけ助けていた。
「星桜、次移動教室だぞ。急いだ方がいい。武永も」
「あ、そうだった。ありがとう、翔月。凛、準備して行こ?」
星桜の机に手を置き、やれやれと言うように伝える。
すぐに彼の言葉通り彼女は立ち上がり、凛に向けて手を出し、当たり前のように一緒に行こうと笑顔を向けた。
だが、笑顔を向けられた凛は手を差し出す事はせず、翔月を見続ける。
不思議に思った星桜がもう一度彼女の名前を呼ぶと、やっと凛は口を開いた。
「…………うん。あ、でも少しやることがあるから先行ってて」
一瞬、表情が消えた凛だったが、すぐに口角を上げ星桜を見た。
その様子に疑問を抱く星桜だったが、何も問いかける事はせずに「わかったよ」と言って、翔月と共に教室を後にした。
二人が教室から出たことを確認すると、凛は浮かべていた笑顔を消す。
「最初は、やっぱり星桜に話しかけるんだ……」
沈痛な面持ちで呟いた凛は、舌打ちを零し、そのまま自身の机に戻る。
時間を確認しながら、次の授業の準備を始めた。