ひとまず今日はフローズ抜きの二人でリンクネットの捜索を行い、追って彼女も参加する運びとなった。
『明日からの進捗には是非ともご期待下さい』
学生寮へと帰宅する直前、苦虫を噛み潰した表情で告げるフローズは納得しているかどうかで言えば間違いなく否。むしろ今からでも転身して一緒に捜索しないかと、誘われることを期待しているのは明白だった。
当然、ヴィルヘルム達は腕を振るだけに留め、彼女が帰路につくことを肯定する。
そして二手に分かれて情報収集を開始。
「あ、おーいフレン!」
未だに校舎内で時間を潰していたプラチナブロンドの少年を発見し、ヴィルヘルムは声をかける。
「ヴィルじゃん。どうしたんだよ、サボり」
応じるフレンは冗談交じりに教室を訪れなかった少年へと手を振る。
フローズを校舎裏へ連れてから相応に時間が経過したためか。生徒の数は疎らで、教室を彩った多くが帰宅ないし街へ赴いたことが伺える。
大袈裟に肩を竦めつつヴィルヘルムはフレンと相対し、軽口を叩いた。
「教室よりも学べるものを求めて、ちょっとですね」
「なんだよ、それ」
「リンクネット、と言えば分かりますかね?」
「……」
自慢気に告げた名に、フレンは先程までと一変した怪訝な表情を浮かべる。引きつった笑みは少年の態度に対してのものであり、火遊びにしても度を越していると顔に表す。
フレンの態度が変質したことにピントのズレた合点を得、ヴィルヘルムは口を開く。
「どうやらその反応。何か心当たりが?」
「心当たりっつうか、なんつうか……どこで聞いたよ、それ?」
「どこって、理事長の口からですけど?」
芳しくない顔色に、伸ばした髪を弄るヴィルヘルム。
情報源からして不審な要素があるとは考え難かったが、先のヅヨイといい認識を改める必要があるかもしれない。
少年の主張を前にして顎に手を当て、フレンは思案する。逆立った髪といい耳のイヤリングといい、不良然とした風貌に似つかわしくない姿だと考えていると、やっぱりと彼は口を開いた。
「……やっぱり、警告として言ったんじゃねぇのか。それ。リンクネットっていったら隣国じゃ禁止されてるヤツだぞ」
「……は?」
「新聞とか取ってねぇのか。リンクネットを乱用した魔法使が回路の炎症を引き起こして何人も死んだって、一時期話題になってたろ」
書籍ならば沢山漁りはしたが、新聞には父親の切り抜き越しにしか目を通していなかったヴィルヘルムには初耳であった。大口を開けて驚愕を示す少年を他所に、フレンは言葉を続ける。
「結果、今じゃ製造も流通も重罪だ。当然、乱用もな」
「……」
乱用という表現といい、前世に於ける薬物の如き扱いに開いた口が塞がらない。
確かに闇市場を中心とした流通などと、引っかかる要素は幾つか該当した。だが、まさか理事長が直々に薬物乱用を推奨する調子で口にするとは思わず、思慮さえ置き去りにしていた。
というよりも。
「い、いやいやいやッ……あそこにはグズルトさんもいたんですよ。父親が娘に薬物の存在を明かしますか普通?!」
「楽な道はねぇから地道にやっていけって話じゃねぇのか。最近、ずっと放課後に付き合ってんだろ?
それが正道だと、そう言いたかったんじゃ?」
フレンの推測に、しかしと内心でヴィルヘルムは否定する。
グンタラの言葉遣いは利用を推奨したものに違いなく、そも非推奨ならばフローズとの盛り上がりに冷や水をかけて然るべきである。教育者にして人格者である理事長という前評判とも結びつかず、哄笑など以っての他。
更に言えば、学園内に利用者がいるなど由々しき事態といえよう。保険医にすら情報が共有できていないなど、笑い話にすらなりはしない。
「……ん?」
脳内で一つの仮定が組み上がり、ヴィルヘルムは何度か首を上下させる。
娘に存在を仄めかし、だが副作用が存在しないかのように主張する。非才な少女の前に奇跡をぶら下げ、しかしてすぐに手を伸ばせる環境下ではない。そして学園内で蔓延しつつある薬物。
父親がそれを黙認する理由に、少年は口端を吊り上げる。
「なるほど、なるほど……悪い人ですね、グンタラ理事長」
小さく呟かれた言葉に悪意を覗かせ、ヴィルヘルムは喉を鳴らした。