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第4話:猫

〜愁水サイド〜



「神の因子を、知っているか?」




愁水「……はぁ?」


思わず変な声を出してしまう

それもそうだろう、神の因子?

それがなんなのか存じ上げないし、正直何を言ってるのか分からない。


???「……"何でも屋"なら、そういう単語を聞いていてもおかしくない、と思ったんだがね」

愁水「残念ながら、情報の在庫切れみたい、また今度にしてもらっても?」

???「そうみたいだ、これに関しては、また今度だな」


殺気の威圧によって、体を動かせることができない。動け動けと何度も心で叫ぶが、それも竹頭木屑、体は鎖によって縛られているような感覚に陥っていた。


愁水「……もういいでしょ、早くどっか行って」

???「そんなに俺の事が嫌いか?」

愁水「嫌いってか苦手」

???「……っはは、そうか」


その言葉を皮切りに、屋上は茹だるような暑さと

夜特有の静寂に包まれる。足は依然として動かすことが出来ず、俺はただ、時が過ぎていくのを待つ事しかできなかった


???「………しかし」


コツン


愁水「ッ!」


殺気の中心が移動した

それはコイツが、足を動かし移動したという事

しかもそれは横に逸れるなんてモノじゃなく

確実に俺へと近づく殺気の動き方だ


???「喫茶店ユウゲン、変な喫茶店だ」


コツン


???「全員カルマを持ち。それが人を殺したからか、それともカルマ持ちの心臓を食らったからか、定かではないが」









コツン










???「とても、興味深いとは思わないか?」





居る







すぐ後ろにヤツが









その瞬間、体を縛り上げていた鎖が解けるような感覚に襲われ、それとほぼ同時に、俺はナイフを懐から取り出し、振り返りザマにナイフを振り下ろす






だか、俺のナイフは空を切った




愁水「……居ない」


一瞬にして姿を消した

それは転移異能か、はたまた最初から居らず

俺の妄想、幻聴だったか

今では先程の会話すらも幻のように一瞬にして断片的なモノへと変貌する

先程の茹だる暑さから一変

俺の肌からは鳥肌が浮かび、早く帰ろうと決意した後、俺の足は屋上玄関へと向いた


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

〜翠郎サイド〜


夜の10時15分

私は暇に暇を重ねたくらいには今現在暇なので

夜の散歩に出かけていた。いつもなら白兎の薬を割っている時間であり、今日も白兎の薬を割るつもりで策を練ったが、有也に「白兎の薬割るなよ、割って爆発したら修理費とかが増えるんだからな!!!」と薬を割る前に釘を刺された。私は仕方なく事のほとぼりが冷めるまで、別のことをすることにする


今回はそれが散歩ってことである


だが、想像していたようなサラサラした夜風ではなく、ベタつくような、粘っこい暑さが皮膚を覆う


さて、それよりも何をするか

私はそんなことを考えながら足を動かし続けた


???「あ、翠郎じゃん」

翠郎「ん?」


すると、後ろから聞き馴染みのある声が聞こえる

反射的に後ろへと振り返り、私は顔を見るや否や

「なんだお前か」と声を吐き出す。


???「なんだとはなんだよ」

翠郎「いや、黒夜クロヤが散歩してるなんてなって思っただけだ」


稲荷イナリ 黒夜クロヤ

私と同じユウゲンの店員であり、九尾のカルマを持っている。


翠郎「いつもなら、九尾のブラッシングとかしてる時間帯だろ?珍しいじゃないか」

黒夜「まぁ、そう言われれば?」


私の言い分に謎に納得した黒夜は、「確かに」と言うふうに頷く。


翠郎「……それで、黒夜も散歩なんだよな?」

黒夜「そうだな、まぁ気分転換ってところで」


私は黒夜の返事を聞くと、「じゃあ、私と一緒に散歩するか?」と散歩のお誘いをする。黒夜は直ぐに「お、じゃあ駄べりながら歩くか」と言葉を紡ぎ、私と黒夜は月明かりと街頭に照らされた街を歩いていく


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〜有也サイド〜


書類が終わらないな〜

修理費高いな〜

はぁ……


書類の山により、もうそろそろ精神が狂いそうなくらいには疲れが溜まっていくのがわかり、それでも後に回してまた面倒臭い思いをするのが嫌なので必死こいて書類を纏めていく。だが、やっぱり最近徹夜続きのせいで目眩やらなんやらがする

あー眠い……そんな事が俺の頭を支配する

やばクソ眠い……どうすりゃいいんだ……

ペンの軌道がぐにゃぐにゃと歪み

俺の疲労は限界を突破していた。この書類を終えたら今日はもう寝よう。そう決意した俺は、最後の気力を振り絞ってペンを手に持つ






「無理をするな」





その時、俺の部屋の中から声が聞こえる

誰かが勝手に入ってきたのか?そういや晩御飯とか食べてなかったから、星螺とかが届けてきてくれたのかな。だとしたら有難いけど、今は生憎お腹は減ってない。適当に俺は「はいはい、わかってるよ……」と返そうと口を動かす









だが、口を動かす前に、俺の思考が回った

こんな声、聞いたことがない。少なくとも喫茶店の中にこんな声のやつは居ない。


おもむろに口に出す













有也「……お前、誰だ?」


俺はゆっくりと顔を上げ、そして目の前を見る

強盗か?幽霊か?それとも別の何か?

ビビりな俺は、ビクビクしながらも目の前に居るであろう誰かを認識しようとする


だが、そこに居たのは、俺の考えていたモノとは全く違う。小さな黒猫が部屋の中心にある、机の上に佇んでいた


アラト「……黒猫?」


だが、何故こんなところに黒猫が?

机にペンを落とすように置き、少し困惑する

気付かぬうちに迷い込んだのだろうか?そうなれば早く外に帰さなきゃな、さっきの声のことは分かんないが、とにかく俺は目の前に佇む猫を外に出そうと立ち上がる


猫「なんじゃ、立てるのではないか」

有也「……へ?」

猫「なんじゃ?」


ピタっ、と俺の足の動きが止まり、そして驚きのあまり体が硬直する

猫が、喋った?

俺の脳はその事実を理解できず

数秒フリーズしてしまう

だが、直ぐに猫の「そんなに驚かんでもいいだろうに」という声で、俺の脳の思考は現実へと戻り

それと同時に、驚きも襲ってきた


有也「えぇ!!??なんで猫が!!??」

猫「そう驚くな、猫が喋るなんてこともあるじゃろ」

アラト「いや珍しいわ!」


ドタバタと猫の前で1人騒ぎ、それを横目に猫は「コヤツは騒がしいのう……」と、呆れのような声を出していた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

一旦落ち着こう

フー……フー……と深呼吸しながら、猫を持ち上げると、俺はおもむろに膝の上に座らせ、とりあえず撫でながら話を聞くことに決める


猫「何故撫でるのじゃ」

有也「うーん……ノリ?」

猫「……よく分からない」


困惑の声色を浮かべる猫を横目に、俺は頭を重点的に撫でていく、やっぱり猫は癒されるぜ

なんて癒されながらも、猫に対して色々と質問を開始する


有也「まぁ、それで、なんで俺ん所に来た?あとどうやってここに来たんだ?」


俺は猫に取り敢えず気になることを聞いていき、それ故に質問攻めみたいな形になってしまう。猫は「そんなに問わなくても答える」と俺を諭すように言うと、「まず、ここに来れた理由はこれじゃ」と言いながら何かを見せつけてくる

それは、白い首飾りのようなもので、首飾りの中心には、何かの宝石?のようなものがはめられており、俺は思わず首飾りを少し手に取り見てしまう


有也「これがなんだ?」

猫「これは、この異能宝珠は、転移異能が使える」

有也「転移異能使える異宝?結構凄くね?」

猫「1ヶ月に2回しか使えないD級異宝じゃがな」

アラト「転移異能使える異宝ってだけで相当レアだと思うけどな……?」


"異宝"

稀に現れる、異能と近しい性質を持った能力を

内蔵させている物品

E級〜S級まであり、Sに近づけば近づくほど

異宝は利便的に、そして能力自体も強い物になっていく


それにしても転移異能持ちの異宝って……

俺見た事ないぞ、闇市場とかでもそんなの滅多にないし……まぁ異宝自体珍しいし、闇市場でもE級異宝とかしか売られてないんだけど……


猫「そして、ここに来た理由は」


猫が膝から俺の机へ飛び移り、体の向きを俺の方に向ける、そして、お辞儀のような体制をとり

スゥーと言う呼吸音を鳴かせる






「依頼をしたいんじゃ」






有也「……依頼?」

猫「ここは何でも屋も兼ねているんじゃろ?」

有也「いやまぁそうだけど……」


確かにここは何でも屋で、色んな依頼は来るけど

まさか猫から依頼が来るとは思わなかったな……

まぁでも依頼ということなら、話を聞くしかないだろう


有也「……それで、依頼って?」

猫「あぁ、そうじゃそうじゃ」

猫「まずは自己紹介からさせてもらおう」


そう言うと猫は机から降り、部屋の中心の机に再び乗り佇むと、自己紹介をし始める


デウス「わしの名前はデウス・リベル」











「神の因子を持つものじゃ」











「やぁ、こんにちは」

「「!!??」」




その時、デウスの後ろに男が現れ、その気配を瞬時に察知したデウスは、転移異宝を使い俺の机上に現れる


???「そんな驚かないでよ〜、ショックじゃんか〜」

デウス「……誰じゃ?わしを狙うアホ共の仲間か」

???「それはどうかなー?まぁ、俺達は君のこと、狙ってはいるけどさ!」


デウスがギリッと鋭い目付きに変えた事を察する

そしてコイツ……何者だ?いつの間に現れたんだ?

デウスと男は、俺を差し置いて、話を続けていく


デウス「"カオス・エンペラー"か……」

???「お!ご明察!よくわかったね〜!」


すると男は






コツン





と革靴特有の音を出し、俺たちに近付いてくる

俺はそれにより目を見開くが、デウスは変わらぬトーンでヤツとの会話を続ける


デウス「ここに来れた理由はなんじゃ、転移異能か?それとも転移異宝か?」

???「うーん、まぁ、ほぼ転移異能かな?」

デウス「気色の悪い異能じゃ」

???「ひっでぇなぁー」


男はニヤニヤとしながら、俺たちにジリジリと近付いてくる。それは獣が、獲物を仕留める前振りのような挙動をしながら


有也「……」

デウス「……おい、店長、お主の名前は?」


すると、デウスから名を聞かれる

俺はオドオドとしながら、それでも聞こえるように「有也」と答えると、真剣な眼差しを俺に向ける


デウス「有也、ポケットを触れ」


デウスにポケットを触れと命令され、俺はそれに従いズボンのポケットを触る。

ポケットにはいつも通り護身用の拳銃があり、それと同時にそれがなんだ、という思考になる






「わしの依頼、承ってくれるか?」







だが、直ぐにデウスの言葉により、意味が理解出来た


デウス「……さて、カオス・エンペラーの一員」

???「なんだい?」

デウス「お前はわしの事を狙っているのじゃな」

???「そうそう!話が早くて助かるよ!」


コツンと革靴が大きく響き渡る


???「さぁ、僕達と一緒に来ましょう?」


デウスと男の顔が眼前と近くなる

顔を俯かせスゥ〜と、デウスは深呼吸をし

そして再度、男の目と合わせ









デウス「行く気は一切ない」







と、一蹴し






有也「契約成立だ」





それと同時に、俺の部屋には拳銃の発砲音が鳴り響く



???「ッ!?」



俺はデウスを抱え、発砲音で驚いた男の横をそのまま通り過ぎ部屋のドアを開けると、そのまま男のいる部屋を後にした


???「……クハっ、まさか俺に不意打ち仕掛けてくるとはねー」


???「標的を本格的に追加しよう……」


???「……神の因子を持つ者、そして」











???「喫茶店ユウゲン……」

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