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第13話 魔物たちの楽園(アイランド)

 リチュは、「ふぅ。」とため息をついて、木にもたれ掛かる。

 先程まで苦しんでた、ブリザードウルフとブラックドラゴンは既に息絶え、リチュの周りには3つの死体があった。

 リチュが休憩していると、クローバーの胸元から、着信音を鳴らして、機械が滑り落ちる。


「なんですか?これ?」


 リチュが、その丸い機械を手に取る。

 機械は折りたたみ式で、それを広げると『スペード』と上の画面に書かれていた。

 リチュが、適当にボタンを押すと、画面が切り替わり、青髪で長身の、白塗りの男、スペードが画面に写る。


「ああ、クローバー。やっと出たか…。」


 最後の1文字が言い終わる途中で、スペードは驚いたように目を開き、言葉を止める。


「ああ。クローバーさんですか?」


 驚いて何も言えなくなったスペードに向けて返すように、リチュは機械の画面をクローバーの死体の方に向ける。


「うっ…。」


 絶句するスペードに、リチュが説明する。


「クローバーさんは、死んでますよ?私が殺しました。」


「なんでこんなことを…。」


 スペードの問いに、リチュが答える。


「お仕置きです。彼女のせいで私達の村は襲われ、スライム達が殺されました。」


 リチュの言葉に、スペードは驚く。


「まさか、お前は!人間に化けたスライム!!」


「おぉ〜?私の事知っているんですか?」


「当然だ。僕が、お前を殺すよう、依頼されたからな。」


「依頼ですか。つまり、貴方達以外にも、私の村を襲う原因になった方がいるんですね。誰ですか?」


「お、教える訳ないだろ!」


 スペードの答えに、リチュはため息を着く。


「そうですか。であれば…。」


 リチュが機械を落とす。


「とにかく、怪しい物を殺すまでです。」


 機械が地面に落ち、通信が切れる。

 ──────────

 黒髪の女性が、ものすごい勢いでパソコン型の機械を操作する。


「さすがに、 ここがバレる事はないだろうが、一応連絡をせねば。」


 女性が機械のスイッチを押す。

 すると『クラウンタウン』中の建物にかけられた画面に、青髪の男が写る。

 女性は魔法の光を目の前に出し、話し始める。


「「『クラウンタウン』にお越しの皆様!スペードだ!現在、この街に暴走した魔物が襲いに来る可能性が出た!直ちに避難をしてもらいたい!!」」


 女性の言葉は、画面を通じて、男が話すように放送された。

 女性、スペードは放送を停止し、機械の電源を切る。


「ふぅ。ひとまず、客への注意喚起は終わりか。」


 スペードが椅子にもたれ掛かる。

 彼女が上を見上げ、遠くを見るような目をする。


「ダイヤ…、クローバー…。」


 スペードが呟いた。


「(ダイヤとは未だ連絡が取れない、クローバーからは反応がなかった。気絶しているのか?それとも本当に…。)」


 スペードが目を瞑る。

 スペードの頭には、過去の光景が写る。

 ──────────


「おい!♠♠♠!もう少し飯の量を増やせよ!痩せちまうだろ!」


 太ったピエロ男が文句を言う、それに、青いピエロの化粧をした女性がため息を着く。


「♦♦♦。お前、少し痩せたらどうだ。」


 女性の指摘に、彼が胸の前で腕を組む。


「だから、いつも言ってるだろ?俺はあえて太ってんだ。ガキは丸いものが好きだって言うしな。俺は口が悪いから、格好だけでも親しみやすくしねぇとなのよ。」


 ──────────


「♠♠♠!また、いもなの?たまには他のもの食べた〜い。」


 緑色のピエロ化粧をした少女が、青ピエロに文句を言う。

 それに、青ピエロが言う。


「仕方ないだろ♣️♣️♣️。うちは売れないサーカス団なんだ。この村は芋がものすごく安いんだよ。」


 それから日をまたいでしばらく、緑ピエロがキッチンから走ってくる。


「ねぇねぇ!焼いたいも、に飽きたから、いもをスライスして揚げてみたんだけどさ。これめっちゃ美味いの!食べてみ食べてみ!」


 青ピエロは、緑ピエロが持ってきた、皿に入った薄くスライスされた芋を手に取り食べる。


「ふむ。たしかに美味いな。」


 青ピエロの答えに、緑ピエロはジャンプして喜ぶ。


「でしょ!でしょ!これさ、ショーを見る客が食べるのに出したら、売れそうじゃない?」


「ふむ。まぁ、考えてもいいかもな。」


 その答えに、緑ピエロが食料庫へ走る。


「やった〜!やっぱり美味しいものは布教しなきゃね!」


 ──────────


「♠♠♠。私は子供達に笑顔を届けたい。その一心でこのサーカス団を作った。本当にそれだけで。」


 赤いピエロ男が失笑する。


「いつも迷惑かけて済まないな!経営ができない馬鹿なリーダーの私に呆れたら、見捨ててくれて構わないからな。」


 青ピエロがそれに答える。


「アンタが馬鹿なのを知っててここまで付いてきてるんだ。いつまでも付き合うよ。」


 ──────────


 スペードの頭に、黄色ピエロ、緑ピエロ、赤ピエロの顔が浮かぶ。


 そして───


「すまなかった。リチュ…。」


 ダイヤも死に際に思い出した彼女・・の顔が思い出される。


「今更、謝られても遅いですよ。」


 突然の話し声に、スペードの意識が現実に戻る。

 黒く染まった画面にリチュの姿が映る。

 スペードが振り向く。


「お前は!? 人間に化けたスライム!! なぜここが分かった…?」


 スペードの質問に、リチュは1枚の紙を取り出す。


「クローバーさんの胸から、青い男の方と話した物と、この紙が落ちてきました。この紙にはここの地図が書いてありました。もしかしたら彼はここに居るのかなと思いまして、こちらへ来ました。」


 リチュの持っている地図を見て、スペードは「ふぅ。」と深呼吸をする。


「なるほど。いい考えだ。その男は、僕だ。」


 スペードの言葉に、首を傾げるリチュ。


「あの人とは、かけ離れて見えますが?」


「ああ、あれは映像。絵だ。それを僕の動きに合わせて動くようにしているだけ。」


「おぉ〜?そういう技術があるんですねぇ。」


「ああ。」


 スペードは、リチュに目を合わせる。


「それで、なにか?」


「私を襲うよう。依頼した人は誰ですか?」


「それは言えん。」


「そうですか。ならば…。」


 リチュが斧を振り上げる。


「貴方にもう、用はありませんね。」


 スペードが、リチュから目を離さずに言う。


「2つ。質問していいか?」


「なんでしょう?」


「1つ。ダイヤとクローバーは本当に死んだのか?」


「はい。ピクリとも動きませんから。」


「そうか。」


「それで、もう1つはなんですか?」


「君の名前を教えてくれ。」


 スペードの言葉に、リチュは2回まばたきをする。


「おや?おかしいですね。先程呼んでいたではありませんか。」


 スペードはその答えに困惑する。


「どういうことだ?」


 リチュは笑顔で答える。


「私の名前は、リチュです。」


 それを聞いて、スペードが小さく笑う。


「へへっ。そうか、リチュか。へへへっ。」


 リチュが首を傾げる。


「何が面白いんですか?」


 スペードは首を振る。


「いや。気にしないでくれ。へへへっ。これも因果かね。」


 スペードが天井を見る。


「ああ、リチュ。君に殺されるなら本望・・だ。」


 スペードの首が宙を舞った。

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