リチュは、「ふぅ。」とため息をついて、木にもたれ掛かる。
先程まで苦しんでた、ブリザードウルフとブラックドラゴンは既に息絶え、リチュの周りには3つの死体があった。
リチュが休憩していると、クローバーの胸元から、着信音を鳴らして、機械が滑り落ちる。
「なんですか?これ?」
リチュが、その丸い機械を手に取る。
機械は折りたたみ式で、それを広げると『スペード』と上の画面に書かれていた。
リチュが、適当にボタンを押すと、画面が切り替わり、青髪で長身の、白塗りの男、スペードが画面に写る。
「ああ、クローバー。やっと出たか…。」
最後の1文字が言い終わる途中で、スペードは驚いたように目を開き、言葉を止める。
「ああ。クローバーさんですか?」
驚いて何も言えなくなったスペードに向けて返すように、リチュは機械の画面をクローバーの死体の方に向ける。
「うっ…。」
絶句するスペードに、リチュが説明する。
「クローバーさんは、死んでますよ?私が殺しました。」
「なんでこんなことを…。」
スペードの問いに、リチュが答える。
「お仕置きです。彼女のせいで私達の村は襲われ、スライム達が殺されました。」
リチュの言葉に、スペードは驚く。
「まさか、お前は!人間に化けたスライム!!」
「おぉ〜?私の事知っているんですか?」
「当然だ。僕が、お前を殺すよう、依頼されたからな。」
「依頼ですか。つまり、貴方達以外にも、私の村を襲う原因になった方がいるんですね。誰ですか?」
「お、教える訳ないだろ!」
スペードの答えに、リチュはため息を着く。
「そうですか。であれば…。」
リチュが機械を落とす。
「とにかく、怪しい物を殺すまでです。」
機械が地面に落ち、通信が切れる。
──────────
黒髪の女性が、ものすごい勢いでパソコン型の機械を操作する。
「さすがに、 ここがバレる事はないだろうが、一応連絡をせねば。」
女性が機械のスイッチを押す。
すると『クラウンタウン』中の建物にかけられた画面に、青髪の男が写る。
女性は魔法の光を目の前に出し、話し始める。
「「『クラウンタウン』にお越しの皆様!スペードだ!現在、この街に暴走した魔物が襲いに来る可能性が出た!直ちに避難をしてもらいたい!!」」
女性の言葉は、画面を通じて、男が話すように放送された。
女性、スペードは放送を停止し、機械の電源を切る。
「ふぅ。ひとまず、客への注意喚起は終わりか。」
スペードが椅子にもたれ掛かる。
彼女が上を見上げ、遠くを見るような目をする。
「ダイヤ…、クローバー…。」
スペードが呟いた。
「(ダイヤとは未だ連絡が取れない、クローバーからは反応がなかった。気絶しているのか?それとも本当に…。)」
スペードが目を瞑る。
スペードの頭には、過去の光景が写る。
──────────
「おい!♠♠♠!もう少し飯の量を増やせよ!痩せちまうだろ!」
太ったピエロ男が文句を言う、それに、青いピエロの化粧をした女性がため息を着く。
「♦♦♦。お前、少し痩せたらどうだ。」
女性の指摘に、彼が胸の前で腕を組む。
「だから、いつも言ってるだろ?俺はあえて太ってんだ。ガキは丸いものが好きだって言うしな。俺は口が悪いから、格好だけでも親しみやすくしねぇとなのよ。」
──────────
「♠♠♠!また、いもなの?たまには他のもの食べた〜い。」
緑色のピエロ化粧をした少女が、青ピエロに文句を言う。
それに、青ピエロが言う。
「仕方ないだろ♣️♣️♣️。うちは売れないサーカス団なんだ。この村は芋がものすごく安いんだよ。」
それから日をまたいでしばらく、緑ピエロがキッチンから走ってくる。
「ねぇねぇ!焼いたいも、に飽きたから、いもをスライスして揚げてみたんだけどさ。これめっちゃ美味いの!食べてみ食べてみ!」
青ピエロは、緑ピエロが持ってきた、皿に入った薄くスライスされた芋を手に取り食べる。
「ふむ。たしかに美味いな。」
青ピエロの答えに、緑ピエロはジャンプして喜ぶ。
「でしょ!でしょ!これさ、ショーを見る客が食べるのに出したら、売れそうじゃない?」
「ふむ。まぁ、考えてもいいかもな。」
その答えに、緑ピエロが食料庫へ走る。
「やった〜!やっぱり美味しいものは布教しなきゃね!」
──────────
「♠♠♠。私は子供達に笑顔を届けたい。その一心でこのサーカス団を作った。本当にそれだけで。」
赤いピエロ男が失笑する。
「いつも迷惑かけて済まないな!経営ができない馬鹿なリーダーの私に呆れたら、見捨ててくれて構わないからな。」
青ピエロがそれに答える。
「アンタが馬鹿なのを知っててここまで付いてきてるんだ。いつまでも付き合うよ。」
──────────
スペードの頭に、黄色ピエロ、緑ピエロ、赤ピエロの顔が浮かぶ。
そして───
「すまなかった。リチュ…。」
ダイヤも死に際に思い出した
「今更、謝られても遅いですよ。」
突然の話し声に、スペードの意識が現実に戻る。
黒く染まった画面にリチュの姿が映る。
スペードが振り向く。
「お前は!? 人間に化けたスライム!! なぜここが分かった…?」
スペードの質問に、リチュは1枚の紙を取り出す。
「クローバーさんの胸から、青い男の方と話した物と、この紙が落ちてきました。この紙にはここの地図が書いてありました。もしかしたら彼はここに居るのかなと思いまして、こちらへ来ました。」
リチュの持っている地図を見て、スペードは「ふぅ。」と深呼吸をする。
「なるほど。いい考えだ。その男は、僕だ。」
スペードの言葉に、首を傾げるリチュ。
「あの人とは、かけ離れて見えますが?」
「ああ、あれは映像。絵だ。それを僕の動きに合わせて動くようにしているだけ。」
「おぉ〜?そういう技術があるんですねぇ。」
「ああ。」
スペードは、リチュに目を合わせる。
「それで、なにか?」
「私を襲うよう。依頼した人は誰ですか?」
「それは言えん。」
「そうですか。ならば…。」
リチュが斧を振り上げる。
「貴方にもう、用はありませんね。」
スペードが、リチュから目を離さずに言う。
「2つ。質問していいか?」
「なんでしょう?」
「1つ。ダイヤとクローバーは本当に死んだのか?」
「はい。ピクリとも動きませんから。」
「そうか。」
「それで、もう1つはなんですか?」
「君の名前を教えてくれ。」
スペードの言葉に、リチュは2回まばたきをする。
「おや?おかしいですね。先程呼んでいたではありませんか。」
スペードはその答えに困惑する。
「どういうことだ?」
リチュは笑顔で答える。
「私の名前は、リチュです。」
それを聞いて、スペードが小さく笑う。
「へへっ。そうか、リチュか。へへへっ。」
リチュが首を傾げる。
「何が面白いんですか?」
スペードは首を振る。
「いや。気にしないでくれ。へへへっ。これも因果かね。」
スペードが天井を見る。
「ああ、リチュ。君に殺されるなら
スペードの首が宙を舞った。