森の中に、ラッパの音が響く。
リチュは、地団駄を踏んでいるクローバーを見て、言う。
「なんですか?そんなに、ノワトルさんを、ノワトルさんと呼ぶことが嫌ですか。」
リチュの言葉を聞いて、クローバーは舌打ちをする。
「だーかーらー…。略すな!
やっちまえ、お前ら!」
クローバーが、リチュを指さす。
すると、茂みから巨大な氷柱が、左右と後ろの3方向から、リチュを囲むように放たれる。
リチュはそれを、ジャンプして避ける。
完全に同時に放たれた氷柱は、リチュがいた位置でぶつかり、砕ける。
「くっそー、外れたか。」
クローバーが地団駄を踏む。
リチュが、周りをキョロキョロと見る。
「誰です?」
リチュのその問いに答えるように、リチュの左右と後ろの茂みから、3つの影が現れる。
それは、青白い体毛に、赤い目を光らせた、成人女性程の大きさの狼だった。
「ブリザードウルフ…ですか。」
「そうよ。アタイは、こんな猛獣でも操れるのよ。やっちまえ!」
クローバーの掛け声とともに、2匹のブリザードウルフは咆哮を上げ、巨大な氷柱を作り、次々と、リチュに向けて飛ばす。
リチュそれを避け続ける。
しばらくして、クローバーが笑った。
「ぷふ〜。狙い通り。」
「おぉ〜。これは…。」
リチュが周りを見る。
気がつくとリチュの周りは、巨大な氷柱の壁で囲まれていた。
「囲まれてしまいましたね。」
クローバーが、指を、パチンと鳴らす。
「今だ!! ブロンシュ・ブリザード・パーフェクトラムダ!!」
クローバーの合図で、残り1匹のブリザードウルフが、水のマナを集め、両前足に3本ずつの氷の爪と、2つの氷の牙を作り出す。
そのブリザードウルフは、地面に刺さった氷柱を飛び越え、リチュを切り裂こうと襲いかかる。
「なるほど。素晴らしい作戦です。」
リチュの髪と目が、黄色に染まる。
「『
リチュがそう唱えると、無数の棘が付いた土の盾が、リチュの前に現れる。
ブリザードウルフは、その盾に腹部からぶつかる。
「ブロンシュ・ブリザード・パーフェクトラムダ…! 」
慌てて声を漏らすクローバーを横目に、リチュは盾を消滅させる。
地面に倒れたブリザードウルフは、体に着いた無数の傷に、もがき苦しむ。
その光景を見て、他の2匹は茂みの中へと逃げる。
「なんてむごいことを…。」
そしてクローバーは、リチュを恐怖の目で見て、己の口を、手で押さえる。
しかし、それは一瞬で終わり、すぐに怒りの表情をして叫ぶ。
「ダイヤだけじゃ飽き足らず、アタイの可愛いブロンシュ・ブリザード・パーフェクトラムダまで、傷つけやがって!もう、ただじゃ置かないわ!心臓から遠い所からすこーしずつ引きちぎってやる!」
クローバーの言葉に、リチュが不思議そうに聞く。
「何故、わざわざ時間をかける殺し方を?私達スライムを殺すのであれば、
リチュはそう言って、自分の胸に手を置く。
クローバーが、鞭で地面を叩き、怒り声をあげる。
「時間かけてゆーっくり殺せば、その分苦しい思いをさせてやれるだろ?これは
「そうですか。」
リチュは持っている斧で、目の前の氷柱を破壊し、左の手のひらをクローバーに向ける。
「勉強になりました。『
3つの氷柱が、クローバーに向かって飛んでいく。
「同じ技が、アタイに通じるわけないでしょ。それどころか…、」
クローバーは、目を閉じ、胸の前で両手を合わせる。
「逆に利用してあげるんだから!」
クローバーを中心に、風が吹き上げる。
それは、台風と言うには弱く、木枯らしと言うには強い。その間ぐらいの風。
3つの氷柱はその風に巻き取られ、クローバーの周りをクルクル回る。
「しつこい汚れにはこれ!小汚いベトベトスライムも、これを3発撃てば、たちまち固まって燃えないゴミの出来上がり!『
クローバーが、リチュを睨む。
「Bang!Bang!Bang!」
クローバーが、右手を伸ばすと、回転していた氷柱が1つ1つ、順番に発射される。
リチュは最初の2つは避けることが出来たが、最後の1つを太ももに食らう。
リチュの太ももから、透けた水色の液体が溢れ出す。
「つっ…。」
リチュが、自分の太ももの傷口を押さえる。
「ふっふーん。あったりー。」
クローバーは、ニヤリと笑った後、ブラックドラゴンの背に乗る。
そして、彼女は持っている鞭を、ブンブンと振り回し、ドラゴンの手網を引く。
「『
クローバーが唱えると、彼女とドラゴンの前面に、風のバリアが作られる。
「ぷふー、これでアタイらは素敵に無敵!やっちまえ!ノワール・トルネード・グレーティストオメガ!」
ドラゴンは咆哮を上げ、リチュに向かって、飛ぶ。
その速さは、まるで風のよう。
リチュは左手をドラゴンに向け、髪と目を赤く染める。
「『
炎の槍が、ドラゴンに向かって放たれる。
しかしそれは、風のバリアによって消滅する。
「おぉ〜!!」
リチュは驚きつつ、ドラゴンの噛みつきを避ける。
「ちっ、外したわね。」
ドラゴンが旋回して反対を向く。
リチュは、その一瞬の間に、背中に風のバリアが無いことに気がつく。
「何度攻撃しても無駄よ。アタイのバリアは完璧に鉄壁だから!」
ドラゴンが再び、リチュに向かって突っ込む。
リチュは、髪と目を緑色に染め、ドラゴンの突進を避ける。
「『
リチュは、無防備になったクローバーの背中に、小さな電撃を飛ばす。
それは、一瞬でクローバーの背中を貫く。
「痛い!!」
攻撃を受けたクローバーは、ドラゴンから落下する。
ドラゴンは、落下したクローバー心配して、彼女の方を見る。
しかし、そのせいで、前にあった木に衝突する。
クローバーが攻撃を受けたせいで、風のバリアは消えたものの、風に乗って得たスピードは落ちておらず、ぶつかった痛みで倒れるドラゴン。
リチュは髪と目を赤く染め、ゆっくりとドラゴンに近寄る。
「『
炎の槍が、ドラゴンの体を焼く。
耐熱に優れた鱗を持ったドラゴンは、すぐに灰になることはなく、じわじわと肉が焦げ始め、苦しみの声を上げる。
「あら?やはりドラゴンは丈夫ですね。」
リチュは「さて。」と、クローバーの方を見る。
「いっつ…。」
クローバーはゆっくりと立ち上がり、苦しむドラゴンの方を見る。
「!ノワール・トルネード・グレーティストオメガ!!」
クローバーは鞭を握りしめ、リチュを睨む。
「貴様ぁ!」
「『
リチュは氷柱を3つ出して、クローバーの体を木に固定する。
リチュがゆっくりと、クローバーに近づいた。
「何する気よ!」
強気に言うクローバーに、笑顔で静かに告げるリチュ。
「
リチュは、クローバーの足先を、斧で切り落とす。
「ぎゃあああ!!」
あまりの痛みで、叫び出すクローバー。
しかしリチュは、足先からじわじわと、クローバーを切り始める。
「や゛め゛て゛!く゛る゛し゛い゛!い゛た゛い゛い゛た゛い゛い゛た゛い゛!!」
血を吐きながら叫ぶクローバー。
リチュは笑顔のまま、言葉を返す。
「辞めませんよ。これはお仕置きです。
貴方のせいで、私の仲間は殺されました。せっかく出来た友人も、敵になってしまいました。その行い、償ってくれますよね?」
リチュが、クローバーの両手を切り落とす。
「ぎゃあああ!! せ、せ゛めて…。ひどおもいに…。」
「ダメです。長く苦しませるのが、貴方流のお仕置きなんでしょう?」
リチュは、クローバーの腕を切る。
四肢を失ったクローバーは、木から落ちる。
クローバーは泣きながら叫ぶ。
「ダイヤ!スペード!
リチュは、斧を振り上げる。
「ここにはもう、誰もいませんよ。貴方は、
「───!!」
クローバーは目を限界まで開いて、1粒の涙をこぼす。
リチュは、彼女の首を目掛けて、斧を振り下ろした。