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第9話 作ろうか最終曲芸(デスゲーム)

「出てよ!『巨大な道化師ギガントクラウン』!!」


 ダイヤが、両手の平を前に突き出し、そこから土のマナを大量に出す。


「何です!?」


 リチュが、斧を握りしめ、身構える。

 土のマナは、ダイヤの目の前で、巨人の形に集まっていく。

 そして、球体が繋がって出来た巨人が作り出される。

 脚と手は白く、腹は明るい黄色。腕は白に黄色の1本線が入っており、顔はダイヤと同じ化粧をしている。


「おお~。」


 リチュは、その巨大な泥人形に、圧倒される。


「こっからが、本番だ。俺の最高のショーを精々楽しみやがれ!くそスライム!!」


 ダイヤは、地面を蹴り、人形の膝、腹、肩へと、飛び移る。


「食らいな!」


 ダイヤは、『炸裂玉ファンシー・ボム』をお手玉をしながら、5つ作り出す。

 そして、それをリチュを囲むように投げ、逃げ場所を無くす。

 さらに、人形が右腕を振り上げる。


「言っておきますが。スライムに打撃は効きませんよ。」


「なら食らってみろよ!!」


 ダイヤの言葉に、違和感を覚えたリチュは、人形の拳を避ける。

 地面に当たった、人形の拳は爆発を起こし、リチュを吹き飛ばす。


「何⁉」


 爆発を食らいリチュは、姿を保てなくなり、どろどろとした姿になる。

 ダイヤはその姿を見て、笑い出す。


「ヒーヒッヒ。『巨大な道化師ギガントクラウン』の手は『炸裂玉ファンシー・ボム』と『炸裂大玉ファンシー・ボール』で出来ている。真正面から受けたら、流石のお前も無事じゃ済まねぇだろうな!」


 ダイヤが指を鳴らし、爆発した右手のひらを再び作り直す。

 そして、ダイヤがリチュを指さし、人形がリチュに向かって走る。

 人形は、リチュの目の前に来ると、左手を肩の位置までもっていき、地面を滑るように、手の甲で平手打ちをする。

 リチュは、どろどろになりながらも、ジャンプをしてそれを避ける。

 そして、落下したリチュは地面によってつぶれる。


「くっ… 形を保つことすら一苦労です。」


 リチュは、自分の姿を意識しなおし、形を作り直す。

 しかし、その姿は以前の大人びた20歳ほどの女性だったが、今は13の少女のような姿になる。

 その姿を見て、ダイヤが一瞬ひるむ。


「つっ。その姿は。頭が…」


 頭を押さえるダイヤに向かって、走り出すリチュ。

 ダイヤが、リチュを睨みつけ、人形が両手を振り上げる。

 右、左と手のひらを地面に叩きつけようとする人形。

 リチュは左手を、人形に向けて『氷の槍アイススピア』を放つ。

 3つの氷柱は、1つが人形の右手、1つが人形の左手、1つが人形の頭に刺さる。

 両手は爆発し、腕だけを地面に当てる形になる。

 リチュはその腕に乗り、ダイヤに向かって、その上を走る。


「ちっ、こっちに来るな!」


 人形が腕を振り、リチュを落とす。

 両手が再生した人形は、落ちたリチュをはさむように、両腕を広げる。

 人形が両手でリチュを押しつぶす。

 その直前で人形は動きを止める。


「くっ。何をやってるんだ俺は。このくそスライムを殺さねば、ガキどもが皆殺しにされるってのに!それに、あいつはもう死んだ!あのスライムの姿があいつに似ているからって…」


 ダイヤの脳内に、今のリチュによく似た少女が思い出される。

 お手玉をする自分に、拍手する彼女。ボールの上から落ちた自分を見て、笑う彼女。そして、壊れた壁に倒れ、潰れた彼女。

 そこまで、思い出し、ダイヤは頭を振り、その記憶を遠ざける。

 そして、今、自分が乗っている人形が倒れかけていることに気付く。

 ダイヤが昔の記憶を思い出している間に、地面に落ちたリチュは、人形の脚を切り崩していた。


「まずい!!」


 ダイヤは、人形を蹴って、ジャンプする。

 倒れた人形は、大爆発を起こし、その姿を消す。


「ちっ。」


 ダイヤが両手に『炸裂玉ファンシー・ボム』を作り、リチュを睨む。

 リチュは斧を振り、ダイヤに向かって走り出す。

 ダイヤが『炸裂玉ファンシー・ボム』を次々と投げるが、リチュには当たらない。

 リチュがダイヤに向かって左手を向ける。

 リチュの目と髪が、緑色に染まる。


雷の槍サンダージャベリン!!」


 ダイヤの腹を、光速の槍が貫く。


「くっ!」


 ダイヤが腹を押さえる隙に、彼の首をはねるリチュ。


「ぐは!」


 ダイヤの体は床に倒れ、彼の首はまだ息をしていた。


「まだ生きているんですか?貴方は何の種族なんでしょう?」


 ダイヤの目には、彼に興味を示すリチュの目が映る。

 その目を見て、彼は思う。


「(ああ、やっぱり。お前はその目をしているときが一番綺麗だ。いや。ガキどもの輝いた目は、どれも素晴らしいものだ。久しぶりだな。この感覚も。どうしてだったか。)」


 彼はそこまで思って、嫌な記憶を呼び起こす。


「(そうだ!今まで、あいつらから輝いた目を奪っていたのは俺じゃないか。どうして… 何故俺は…)」


 そこでダイヤは考えるのをやめ、再びリチュに意識を向ける。


「まぁ、いいでしょう。貴方が何族でも、私にはどうでもいいことです。」


 リチュは既に、ダイヤへの興味を失っていた。

 その虚ろな目は、今の彼にとって最も見たくないものだった。


「(やめろ!そんな目をするな!お前にそんな顔をされたら。俺達の生きがいはどうなる!)」


 ダイヤの心の叫びなど知りもせず、リチュは左手を彼に向け、自身の髪と目を赤くする。

 彼は最期に思う。


「(お願いだ、リチュ!また、笑ってくれよ…)」

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