まず向かったのは女の子が好きそうな雑貨屋の並ぶ階。
パステルカラーに彩られ、天気の良い休日の午後は男子2人が入り込むには場違いな上に、買い物を楽しむ女の子でそこそこ込み合う店内には入りづらいことこの上ない。
「ここに入って、お尻に手が当たっちゃたら人混みのせいに出来ると思う?」
「無理だと思うぞ。
ってか、そんなの満員電車の痴漢の言い訳じゃねぇか。やめとけ」
店内を睨(にら)んで真剣に言葉にするジュニアを横目に、通行人の邪魔にならないように通路の壁に張り付いたイチは次の行動に頭を切り替えた。
「どうすっかな。
ぬいぐるみって歳でもないだろ?
アクセサリーなんてつけてるのはみたこともないし、髪ゴムじゃ誕プレって感じじゃないしな」
あれこれと考えを口にしてまとめてみても、結局こところ〈これ〉という物には行きつかない。
やっぱりリカコさんに相談しておくべきだったか?
「とりあえずうろうろしようよ。
なんか良い物があるかも知れないし」
活気溢れる店内からは、若い店員の割引を呼びかける声や、買い物袋を提(さ)げたの客の楽しげな笑い声が聞こえてくる。
「あ。こういうのはどう?」
アクセサリーショップの前で、プレゼント包装された小さな箱に目を向けたジュニアがイチを振り返った。
「リボンでぐるぐる巻きにしたイチを箱詰めしてプレゼントにしてみる」
「何のためにだよ」
ジト目のイチに向かって、あくまで真剣な表情でジュニアが続ける。
「好きに使ってくださいって。
僕が責任もって葵ちゃんちの玄関前に、転がしておいてっあげるからっっ」
最後の方は笑いが堪(こら)えきれずに肩が震える。
「絶対(ぜっったい)にやめろっ
そもそもの目的が代わってんじゃねぇか」
このままでは今日中にプレゼントを見つけられるかどうかも怪しいもの。
2階の通路から、吹き抜けになっている中央部分は下の階の様子がよく見える。
視線を1階に移したイチの目に、黒いスーツを着た数人の大人が足早に走り去って行く様子が入ってきた。
「ジュニア、あれ」
トーンが変わったイチの一言に、ジュニアが視線を向ける。
「警察みたいだ。何かあったのかな」
制服の警官に先導されたその一群は、手近な|staff only(スタッフオンリー)と書かれたドアに消えていった。
「万引き犯にしては物々しいね」
興味はそそられるが、首を突っ込むほどではないか。
何よりも
「とりあえず誕プレが優先だ」
今日の目的を果たさずに帰るわけにはいかない。
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どうにかこうにか、いくつかの候補を絞った2人は通路途中のソファにドンと腰を下ろした。
「じゃあ、ナックルダスターか角指(かくし)でいい?」
「よくないって。
どっちも凶器だし、ちょっと喜んで受け取りそうなところが普通に怖いから」
慣れない売り場と、喜んで貰いたいとは思いつつも神経を使う買い物に、すでにイチの疲労の色は濃い。
「さてと。で、最終決定は……」
『店内でお買い物中の、全てのお客様にお伝え致します』
イチの言葉を遮(さえぎ)るように流れ出した館内放送は、緊張に上擦(うわず)った女性の声で始まった。