何だかんだと言ったところで、ジュニアとリカコさんのサイバー組が何をしているのかはよくわからない。
やり取りは基本個別LINEだし、特に声がかかることもないし。
まぁ、任せるって言った以上は待つしかないし、ジュニアとリカコさんなら大丈夫だろうけど。
イチに怒られたのもあるけど、あれから休み時間の度にLINEが気になってしょうがない。
「香絵、最近LINEの返信早くなったよね」
「そうだね。前は既読にならない、返信遅いは当たり前。生きてんの? って思ってたもん」
ゆったり流れる授業の合間の休み時間に、スマホを片手に持ったまま机に突っ伏していた顔を上げると、深雪と夏美が言いたい放題。
「LINE気になるの? 最近考え事してること多いみたいだし……。悩みあるなら話し聞くよ」
机の正面からひょこっと顔を出した愛梨は心配そうにしてくれる。
まぁ、悩みと言うか心配事。残念ながら、みんなに相談出来る内容じゃない。
「んー。ありがとう、大丈夫。もうちょい落ち着いたらね」
適当に言葉を濁すと、ググッと両手を握った愛梨に応援された。
「頑張ってねっ。香絵」
「? お、おう」
何を?
###
ホームルームも終わり、帰り支度にざわつく教室の中でLINEの着信にスマホを見る。
6月17日金曜日
リカコ:誰か本庁の捜一にパイプある?
榎本課長の事知りたいんだけど。
15:05
カエ:あるよ! たむたむが捜一にいる。
榎本課長って気の弱そうなおっさんでしょ?
15:05
リカコ:じゃあ、寮で。
15:05
ジュニア:わぁお。カエがまともにLINE見てる。
15:06
悪かったね。
###
「カエ」
寮への道すがら、背後から掛かる声に振り返ると、自転車に乗るイチが近づいて来る。
「あれ。イチ1人?」
場所は朝深雪と待ち合わせてる橋に近く、寮にも近い。
ブレーキをかけてあたしの横に止まったイチは、いつものように荷台にジュニアを乗せていない。
「ジュニアは抜糸するからドクターの所寄ってから来るって」
「わぁ。黒スーツとやり合ってからもう1週間かぁ。なんかここんところ、立て続けにいろいろ起こり過ぎ」
脳裏を横切る記憶に軽くため息が出る。
「カエこのまま寮に行くだろ? 後ろ。乗ってくか?」
イチが自転車の荷台を軽く叩いた。
いつもはジュニアが座っている席が、今日は空いている。
「うん。乗ってく!」
スポバを前カゴに押し込んで荷台に横座りをした。
「わわっ。何気にバランスとりにくいね」
「乗り慣れないからだろ。危ないから掴まっとけよ」
掴まっとけって言われても、どこに掴まんのよ。
夏服の、薄いワイシャツの背中を右手でそっと握る。
「行くぞ」
イチの足が地面を蹴って、自転車は大きく揺れて走り出した。
うわっ。
反射的に空いていた左手が、身体をかばおうとイチの腰に掴まる。
ワイシャツ越しに鍛えた背筋の硬さを感じた。
乗るんじゃなかった。
なんとも言えない気恥ずかしさにちょっと後悔。
「ジュ、ジュニアは簡単そうに乗ってるのに」
「慣れだろ。まぁ、後ろ向きにあぐらかいてられるのはジュニアくらいだろうけど。あのバランス感覚は最強だよ」
寮までの道のりは今までにないくらい短くてあっという間。
自転車の前カゴから出したカバンを渡される。
「チャリ片してくるから持ってて」
イチが離れた隙に大きく深呼吸。
きっと乗り慣れない自転車の荷台になんか乗ったから、呼吸が乱れたんだ。