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第23話 反撃開始っ

 警察にも種類がある。

 赤い上着を着た泥棒を追いかけているとっつぁんがいるのは埼玉県警。


 科捜研で頑張っているお姉様は京都府警。


 県警と呼ばれるそことは一線を画しているのがコンビを組んで動いているおじ様たちのいる、ここ警視庁。


 組織が大きいってだけで、〈東京都警〉ではなくて警視庁って呼ばれてる。

 まぁ、大きいのだけが理由じゃないけど。


 巽さんのいる森稜署なんかは所轄と呼ばれる部類になるかな。

 まあ、公安とかはまた別に動いてたりするんだけど、ややこしくなるから置いといて。


 そことはまた別に、〈警察庁〉という組織がある。

 ここは完全キャリア組みのエリート集団で、全国の警察全体の防犯対策や刑法の運用なんかをしている。


 逮捕権や捜査権は無くて、言わば警察を管理している警察って感じかな。

 ここのトップは警察庁長官。

 警視庁のトップ〈おじいさま〉こと警視総監と同格の権限がある。


 日本の警察の頂点。



 今日は水曜日なのに、深雪か急に部活になったから先に帰ってって言ってくれたので猛ダッシュ。

 ジュニアとリカコさんが寮に戻ったって連絡も入ってたし、面と向かって話したいことがありすぎる。


 寮前の道路には、見慣れた黒い作業バンが停まっていて、その後部スライドドアに頭を突っ込んでるのは見間違えようのないジュニアの姿。


「ジュニア! 警察庁にあたし達のことがバレたって。本当なの?」

 走りよって、我慢できずに疑問を口にしたあたしに、車から顔を出したジュニアの目はいつもよりもきびしさを感じさせる。その空気感に、あたしの胸は走ってきた息苦しさとはまた別の苦しさに襲われた。


「カエ。みんな来てるから上で話そう」

 肩で息をするあたしにそう言うと、彼はもう一度車内に顔を向けた。

「真影さん、積み込み終わったよ。ありがとう」

 声を掛けて後部のスライドドアを閉めると、黒バンはゆっくりと走り去っていく。


「この前の捕縛機。寮に置いておくより積んどいたほうがいいと思ってさ。リカコと送ってもらったついでに載せてもらったんだ」

 にこっといつもの笑顔を向けてくれると、あたしの手を引いて歩き出す。

 あ。あたしが不安な顔したから、気を使ってくれたのかな。

 ジュニアのあたたかい手に少しだけ不安が溶けた気がした。


 ###


「そろったわね」

 あたしとジュニアが座るのを待って、リカコさんが口を開く。

 いつもよりだいぶ重い雰囲気のリビングは、リカコさんの報告を聞き漏らさないように、空気が張り詰めているみたい。


「とりあえず現状説明から。コトの始まりは13日月曜の夕方。どうやら警察庁に、警視総監が子供を現場に派遣して秘密裏に捜査させているらしいって、リークのメールが届いたらしいの。

 結果、〈おじいさま〉は昨日のうちに警察庁の方に呼ばれてて説明を求められたそうなんだけど、まさか認めるわけにもいかないし、突っぱねては来たそうよ」

 チラリとジュニアに目をむける。


「今朝から〈おじいさま〉とカフェでこんなやり取りよ。せっかくのブルマンも楽しめなかったし、ホント気が滅入る。

 午後からはジュニアに合流してもらって、今後のことや対策、いろいろ検討したんだけど」

 リカコさんの真っ直ぐな瞳が、ぐるりとあたし達を見回した。

「この件、私とジュニアに一任して欲しいの」


「俺は構わない。リカコのやりたいようにやればいい」

 即答するカイリにあたしとイチも無言で頷く。


「ありがとう。もちろん質問は受け付けるし、気になることは溜め込まないで。報告は都度つど上げるし、手伝って欲しい時は声掛けるから」

 にっこりと笑ってあたしの方を見る。


「カエちゃんはすぐに顔に出るもんね」

 うぐぅ。

 気になること。いっぱいあるよ。

「もし、もしもだよ。失敗して全ておおやけになったらどうなるのかな?」


「間違いなく〈おじいさま〉は失脚。ここもタダじゃ済まないでしょうね。ここの家賃や私たちの学費、〈おじいさま〉のあやしい引き出しから出てるのは間違いないから。寮は引き払わなくちゃならないだろうし、学校も退学、施設に預けられればいい方で、就職せよ。と路頭に迷う可能性も充分ね。

 何より、マスコミの格好のネタになる」


「そしたら僕、中東辺りで爆弾製造請け負って生活しよー」

「ホントにやめて。ジュニアのテロはシャレにならない」

 リカコさんがジュニアをにらみつけた。


 むぅ。

「表立って言える仕事じゃないし、いつか解散する時が来るんだろうけど、こんなに急にみんなバラバラかもなんてやっぱりイヤだよ。あたしもどうにかしたい」

 キッと面をあげる。


「最悪でもみんなが高校を卒業する3年後までは、何が何でも守り抜くわよ。ね。ジュニア?」

 あたしに優しく微笑んでくれたリカコさんが、ニコリとふくみを持たせた笑顔をジュニアに向けた。


「リカコは僕のイヤなところを突いてくるよね。性格悪ぅ。わかったよ。リークしたヤツを突き止めて狂言だったって言わせればいいんでしょ? 僕達を敵に回したこと。後悔させてやるよ」


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