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第22話 動き出すっ! 壮大勘違い

 ざわざわと落ち着かないお昼休みの教室で、入口に正面を向けていた愛梨は教室の中を見回す人物に気がついた。

「あれ。鳥羽くんだ」

 明らかに愛梨たちの方を見たのに、そのままふぃっと教室を離れて行く。


「何? 今の」

「だれかを探してたふう」

「ここにいないのは?」

『香絵』

 その不可解な動きに深雪、夏美、愛梨は顔を見合わせた。


「香絵どこ?」

「うろうろ」

 夏美の問いに深雪が天井を指す。

 彼女香絵が廊下の徘徊はいかいをするのは、今に始まったことでもないし、それは周知の事実だ。

「行ってみようか?」

 面白そうな匂いをかぎつけた夏美が、イタズラっぽく笑った。



 ###


 今日は15日水曜日。なんかあたし、先週の水曜日もここをうろうろしてた気がするな。


 今日の廊下も、階下の喧騒けんそうが不快でない程度に遠くに聞こえる。いつもの通路、いつもの空気。ここ、最上階の5階の窓からは、近くに感じる空と、遠くに霞むビルの影。

 誰もいない廊下に1歩踏み出して、大きく吸い込んだ息を、あたしはゆっくりと吐き出した。


 日曜日にリカコさんと本庁へ行った後、リカコさんとジュニアが何かを調べ始めているのは気が付いたんだけど、月曜日の定例会もその後も、これといった説明はない。


 リカコさんは鑑識室、ジュニアは捜一のデータベースで何かを知ったんだろうなぁ。


 長い廊下を折り返し、階段の手前で誰かが登って来る足音に、あたしは足を止めた。


「カエっ」

 飛び出してきたイチがあたしを睨みつける。

「また、LINE見てないな? 不携帯の癖、どうにかしろ」


「ゴメン。随分慌ただしいね。どうしたの?」

 声からピリピリしてるのが伝わってくる。イチは登りきった階段から廊下に移動すると、面する空き教室の扉に背中を預けた。


「さっきカイリから聞いたんだけど、リカコさんが朝から呼び出されてたらしくって。警察庁の方で何かの動きがあったらしいんだ。ジュニアもさっきリカコさんに呼ばれて行った」

「警察庁? 何があったの?」

 授業中に召集がかかるなんて。



 ###


 階段では、イチの後からゆっくりと上ってきた深雪達3人が息をひそめて聞き耳を立てていた。

「……。

 何があったの?」

 やっと聞き取れたのは、カエのけげんな声。


「俺たちのことがバレたらしい」

 イチの声に3人が顔を見合わせる。

「えっ。それって……。あたしたちどうなるんだろう」

 カエの不安そうな声。


「そんな顔するな。どうにかなるように動いてるんだから」

 いつも無愛想なイチの声に心做こころなしかカエを思いやる優しさが見える。


 3人からは見えないが、スマホの振動にイチが通話ボタンをスライドした。

「カエ。とりあえず放課後寄っていけよ。もしもし?」

 先頭で話を聞いていた夏美が後ろを振り返り、深雪と愛梨に下りるように手で合図を出すと、音を立てないように一行は動き出す。


 階段を下までおりた3人娘は、教室とは反対側の廊下の隅に固まると、夏美が興奮気味に口を開いた。

「何々? どういう事?」

「あの2人付き合ってるんじゃないの? で、それを反対されてる。とか。深雪知ってた?」

 愛梨が視線を移す。


「知らないよ。香絵、自分からあんまりそういう話ししないし」

「香絵のこと呼び捨てだったし、放課後寄っていけって。家に寄って行けってことだよねっ」

 胸の前で手を組んだ夏美は、どっぷりと収まらない妄想に浸っている。


「香絵。不安そうだったね。鳥羽くんのこと、きっとすごく好きなんだね」

 愛梨の悲しそうな声におかしな団結力が芽生え始めたらしい。


「くぅぅー。盗み聞きだったからはっきり言ってあげられないけど、断然応援するっっ!」

 ぐぐっと力を込めて夏美が断言をする。

 全く人の想像力とはなんたることか。

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