「追ってっ!」
走り出した黒スーツを指してあたしが叫ぶ。
カイリとイチが走り出し、あたしはジュニアを振り返った。押さえた右の腕から出血しているのが見える。
「靴先にナイフ仕込んでる。大丈夫っ。行って」
意識もしっかりしているし、毒物に
うなづいてあたしも走り出す。
トドメの蹴りが甘かったか?
もう、黒スーツはリカコさんの目前。
どうしよう。誰も間に合わないっ!
その瞬間、リカコさんが胸元に抱えていたショルダーバッグを投げ捨てた。
しっかりと構えたその右手には小型の拳銃|(もどき)。
黒スーツが目を見張り、地面を蹴って進路を変えた。
パジュンッッ!
拳銃よりだいぶ軽い音と共に、銃口から銀糸が2本伸びる。
1本は黒スーツに擦り、もう1本は空を行く。
外れた。
黒スーツもそう思っただろう。
迷いなく右手から拳銃|(もどき)を手放したリカコさんにリトライしてくる。
『私、左利きなの』
インカムから聞こえるリカコさんの声。
当然左手にも同じ獲物。
パジュンッッ!
狙い
手の届く距離まで詰まって来ていた黒スーツを、今度こそ2本の銀糸が捉えた。
バチンッ! と電気の
あれはテイザー
飛ぶスタンガンって言ったらわかりやすいかな?
難点は連射が出来ない事、金属の糸が届く範囲2メートルでしか使えない事、糸の先の針が2本とも対象に触れていないと威力を発揮しない事。
でも殺傷能力は無い。
『ああ。怖かった』
さして気にも留めていない様なリカコさんの口調に、男子組の顔が凍る。
(銃2丁でフェイントかけておいて、サラリとその言葉が出るリカコが一番怖い)
口には出さないが、目が意思の疎通を確認した。
「ジュニア」
黒スーツの方は大丈夫だと踏んで、あたしはジュニアの元に駆け寄った。
グレーのロンTの二の腕あたりに血が染み出ている。
「リカコさん。止血帯持ってる?」
インカムに話しかけながらリカコさんを振り返ると、小走りに近づいて来たイチがびっくりした顔で立ち止まり、手で目元を覆う。
「カエ。胸元」
え?
視線を落とすとTシャツの胸元がパックリ割れて、鎖骨の下あたりから一筋血が滲んでいる。
黒スーツの最後の一閃だぁっ。
バッッ! と裂けたシャツを引き寄せ、裂け目から覗いていた胸の膨らみを覆う。
「ジュニアァァッッ! 気づいてたでしょうっ!」
カアァァッ。と赤面するのがわかり、怒鳴りながら振り返るっ!
「うん。いい眺めだなぁって思ってた」
悪びれしないいつもの調子に続けざまに上段蹴りを放つけど、ことごとく避けられる。
「もっと巨乳ちゃんだったら傷も深くて大変だったねー。って僕負傷者なんだけど」
腹立つぅっ! そして蹴りが当たらぁぁんっ。
「落ち着け」
ぽふぽふとイチに頭を叩かれた。
「何やってるの? ほら止血帯」
リカコさんがジュニアの腕に触れる。
「結構ザックリいってるわね。ここじゃ応急処置しかできないわ。こっちはカイリと処理しておくから、3人はドクターのところに行って来なさい。イチ……。ちゃんと連れて行ってね」
「ええぇっ。ドクター?」
あからさまにイヤそうな声が出ちゃった。
「こんな傷、何も聞かずに処理してくれるのはあそこだけよ」
問答無用なリカコさんの一言。
まあね。
ドクターはせりかさんの知り合いの開業医。はっきり言って闇医者感半端ない。
「カエ」
カイリの横を通り様に声を掛けてられ、革ジャンが飛んでくる。
「着ていけ」
「ありがとう。って、この革ジャン無駄にデカいし」
そもそも180㎝あるカイリと148㎝しか無いあたしとじゃ差がありすぎる。
「革ジャンじゃない、ライダースジャケットだ」
「……ごめん。違いがまっったくわからない。しかもライダースって。バイクの免許なんて持ってないじゃん」
「ふ。これからだ」
気取って前髪をかきあげるカイリに冷たい視線が刺さる。
いつになる事やら。
「服に着られてる」
「ジュニアだってそんなんで歩いてたら職質物だよ」
袖をまくって、前のファスナーを閉める。
確かにお父さんの背広を着た子供感は
「ああっ! 僕の捕縛機。使わずに終わった」
「まぁいいじゃない。テイザー
1日中背負ってたカイリの甲斐は無駄になったけどね。
なんかカイリって、本当に