残ったナイフを右手に構え直し、
ですよねぇっ。
ベルト通しに下げてある特殊警棒を引き抜くと一振りして伸ばしきった。
残像を残しながら振り下ろされる、反り返ったサバイバルナイフの一撃を受けきったけど。
重いっ。
警棒を傾け、振りぬくようにナイフを滑らせる。
そりゃあ16そこそこの小娘が成人男性の力にはかないませんっよっと。
後方に飛びずさりぎわに黒スーツの脇腹に一撃を振るったけど、腰を引いた黒スーツの手前を警棒は行き過ぎていった。
二撃目、三撃目と黒スーツの攻撃をかわし、ナイフがTシャツの胸元を浅く過ぎる。
腕力は無いけど、スピードと動体視力は自信あるもん。
「ふっ」
気合の息を吐き、両サイドからイチとジュニアが飛びかかるっ。
右手側から飛び込んだイチの警棒を黒スーツのナイフが受け、左手側のジュニアの警棒はその腕が受け止めた。
いけるっ。
ナイフの動きが止まった瞬間、あたしは警棒を投げ捨てるとバク転の勢いを利用して黒スーツの右腕を蹴り上げる。
「ぐっ」
黒スーツの
ザッッ!
音を立てて地面を蹴ると再び黒スーツにダッシュを掛けた。
「このままじゃ決定打にかけるよねぇ。イチ飛ばして」
インカムを通して声をかけると、黒スーツと結び合っていたイチがチラリとこちらを向いた。
インカム便利だなぁ。
ジュニアが前に出て、イチが一歩引く。
あたしを振り返り差し出した、イチの掌に乗り打ち上げられる。
黒スーツからはイチの陰から飛び出してきた様に見えたはず。
「よっっ」
ジュニアと格闘中の黒スーツに向かい、あたしはそのまま身をひねると側転をするように黒スーツの額と肩に掌を乗せ、体重移動をしながら押し倒しにかかる。
一瞬抵抗を感じるも、ジュニアが足払いをかけ黒スーツの体制が一気に崩れたっ!
「ガァッ!」
背中を打ちつけた黒スーツの呻き声聞く。
あたしは頭の前に着地すると、物凄い目で睨みつけてくる黒スーツのこめかみを靴の先で軽く突いた。
こういう戦い方してるから、相手の逆鱗に触れるんだよね。
黒スーツの目がグルッと白目を
脳の揺れからくる脳しんとうに、意識が落ちたんだ。
あたしの武道の師範は、当時から小柄で(チビでは無い)腕力も無かったあたしに人の急所、ツボなんかを徹底的に仕込んでくれた。
でも、手足が届かなかったら相手に低くなってもらわなくちゃならないわけで。
やっぱりカイリやイチみたいに正面から攻められる様になりたいなぁ。
「お疲れ様ぁ」
拳を掲げるジュニアにあたしとイチが拳を合わせた。
「むきむきカエにならなきゃダメかな?」
その拳をにぎにぎしながら、ポツリと漏らす。
「なにそれ? カエは今のままでいいんじゃないの?」
「んー。もっと打撃が強くなりたいなぁって思って」
ジュニアに返事を返す。
「お疲れ様」
「何だよ。今回高みの見物じゃん」
案外近くからかかったカイリの声にイチが突っかかる。
あたし達が戦いながら移動したというよりは、カイリが徐々に近づいていたみたい。
「4人もいたら返って邪魔だろうし。リカコにも付いててやんないと」
チラリと見ると、ショルダーバッグを胸に抱えたリカコさんがこちらに歩いてくる。
「ねぇ。どうすんの。巽さん? 〈おじいさま〉?」
ジュニアが黒スーツを見下ろして、彼の行き先を聞いてきた。
「巽さん……。かな? カエ。連絡して」
「ええぇっ。まぁ、どっちにしろ説教は回避出来ないよね」
カイリの投げかけにポケットの中のスマホを
「っ痛ってぇ!」
突然聞こえたジュニアの声に振り向くと、目の前に黒スーツっ!
撃たれる!
瞬間的に身体が反応して、尻餅をつく様に
シャッ!
空気を割く音がして一閃したナイフに、胸元に痛みが走った。
二撃目が来るっ!
尻餅をついた体勢から反撃に出ようとしたあたしを全く無視して、黒スーツの見つめる視線の先は。
リカコさんっ!
今更初志貫徹とか、要らないんですけどっっ!