ぴこぴこっ。
お部屋のベッドでくつろぎタイムを満喫中のあたしは、LINEの着信音にスマホを引き寄せた。
深雪の護衛についてから今日で3日が終了、結局問題は何もおこらなかった。
鼻骨骨折でもしたかな?
かなりハデに顔面ダイブした黒スーツの姿を思い出し、クッションを抱えたままニンマリしちゃう。
だって、あの無駄に神経質そうな顔に白い鼻ガーゼとか、ジワる。
イチが逃した3人目の男も、翌日確保されたと巽さんから報告があったし。
やっぱり黒スーツとの繋がりはなく、金を握らされてやっただけのようだとの事。
ぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこっっ。
「えぇっ」
急に着信しまくるLINEに慌ててアイコンを開くと、怒ったスタンプがズラリ。
何があったんだろ。
6月10日金曜日
リカコ:緊急招集。
〈おじいさま〉からお呼びがかかったので、明日は全員本庁に出向。
20:18
ジュニア:えー。明日は土曜日だよー。週休2日制!
20:21
イチ:超過労働。
20:21
ジュニア:捕縛機仕上げたかったのにぃ。
20:21
カイリ:出向了解。
20:21
リカコ:いいから来なさい。9時改札よ。
20:22
この後怒涛の怒りスタンプがイチ、ジュニア、リカコさん入り乱れ。
リカコ:来ない者は次の内偵から生きて帰れると思わないことねっ。
20:25
あ。キレた。そして乗り遅れた。
いつもはクールなリカコさんが怒りスタンプを連打している様子を思い浮かべ、同時に寮のリビングでは「職権濫用だよぉっ」と叫ぶジュニアの姿が想像できる。
しっかし、イチとジュニアはホントにリカコさんを怒らせることに全力を注いでいるとしか考えられないなぁ。
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「おはよっ」
やっと太陽に暖められてきた空気が肌に触れていく。
寮の前でたむろしている3人に合流して、みんなで駅へ向かって歩き始めた。朝が弱いイチが眠そうなのはいつもの事だけど、なんだかジュニアもフラフラしてるみたい。
「で。カイリのその荷物は何なの?」
肩から下げる大きなドラムバッグに視線を送る。
「ジュニアの作った捕縛機」
「今日はみんな揃って外に出るし、いつまでもつけ狙われるのもイヤだからね。確保出来るチャンスがあるなら
言って大あくび。
「あふっ。僕徹夜苦手。電車乗ったらお昼寝するから着いたら起こして」
お昼寝。の言葉にちょっと過剰反応……。
不覚にも生徒会室で寝落ちしてしまい、目が覚めたらジュニアに目の前で寝顔見学されていたうえに、ブラウスの袖のラインがほっぺにバッチリ付いていたのはほんの数日前。
1人で恥ずかしさに暴れ出したくなっちゃう。
「さっ。出発、出発」
気をとりなおして駅へ!
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「リカコさぁん」
改札の中でスマホを傾けていたリカコさんに小走りに近づき改札を抜けると、顔を上げたリカコさんが微笑みながら挨拶してくれる。
「あ〜。このまま遠足に行きたい」
「いいね。ここからだとどこが近いかなぁ?」
あたしのつぶやきに、普通にスマホで検索を始めるジュニアの後ろからカイリが頭をガシッと掴んだ。
「今日は警視庁の社会科見学」
ジュニアはどうしても行きたくないのね。まぁ、あの独特の雰囲気。あたしも苦手だけどね。
大きな音とともにホームに入って来た準急列車は、そんなあたし達の気分なんて知らん顔で自動ドアを開けてくれる。
「そもそも何で招集かかったの? この前の内偵、仕事としてはミスは無かったと思うんだけど」
電車に乗り込みながら発したイチの言い分は最も。あれだけの情報量でよく地下室までたどり着けたもんだ。と自画自賛だよ。
「そうね。仕事に関しては何も無かったんだけど、この前巽さんにアコニチンのDNA鑑定依頼したでしょ?」
「製薬会社のトリカブトとのヤツね」
口を挟んだあたしにリカコさんがにこっと微笑む。
「カエちゃんのにらみ通り一致したんだけど、なんか〈おじいさま〉の耳に入っちゃったらしいのよねー」
「うわぁぁ」
〈おじいさま〉は仕事の領分にすごくこだわる。
って言うか、あたし達が表の仕事に関わるのをイヤがる。
「
比較的空いている車内で、向かいの席に座ったイチが、本庁勤務の鑑識官、葵ちゃんの名前に渋い顔をする。
「あ。葵ちゃん?」
その隣でカイリにもたれて居眠りしていたジュニアが、葵ちゃんの名前に反応して目を開けた。
「月曜に爆弾の残骸見せてもらった時に、成分表のコピーと引き換えにイチとデートさせろって言われてたの忘れてた」
「あーもう。勝手に約束してくんなっ」
イチが頭を抱える。
「デートの日取りは?」
ジュニアってば、絶対にワザと言わなかったな。
あたしの質問に眠そうな目をしょぼしょぼさせて、考えてる。
「土曜日。だったかな」
「今日じゃん。葵ちゃんてなんかあたしに冷たいんだよねぇ。面白いから仲良くなりたいんだけどな」
長身細身で長めのショートカット。中性的な雰囲気の葵ちゃんはリカコさんとは特に気が合うみたいで、よく連絡を取り合っている。
そんなあたしとジュニアのやり取りを聞いていたリカコさんが隣で小さく笑った。
「葵ちゃんて情報のセンスがいいのよね。1回くらいデートしてあげたら? イチが18になるまでは色々待つって言ってたわよ」
「後2年か」
ジュニアがにまりと笑う。
「なんだ、レディが誘ってくれているのに断るなんて、年下とは言え男のする事じゃないだろう?」
『……』
カイリの一言に一同顔を見合わせた。
「そっか。カイリってあんまり鑑識に顔出さないもんね。葵ちゃんはね、ホントは葵くん。なの」
あたしの一言にカイリの頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
「レディでは無いってことだね」
それだけ言うとジュニアはまた眠りについた。
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それはそうと、わざわざ電車に乗って本庁まで出向いたのに、〈おじいさま〉の用件は案の定、これ以上この件に首を突っ込むな。のお説教だった。
だって向こうから来たんだもんっ。しょうがないじゃぁんっっ!