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第11話 ナイフの鑑定結果

 さぁてと。どうしようかなぁ。


 朝から深雪を先に帰宅させるのに、都合の良い言い訳を考えているんだけど、全然思い浮かばない。

 ちょっとした事じゃ、待ってるよ。って言われちゃうし。うなっている間にもう昼休みだ。


「香絵ちゃぁん」

 クラスメイトに呼ばれて顔を上げると、教室のドアの前にリカコさんの姿が見えて、とととっと近づいていくと声をかけられる。


「間宮さん? お昼持って、ちょっと生徒会室にいいかしら」

「はい」

 深雪達にその事を伝えて、お弁当を持つとリカコさんの後を追う。


 階を上がるとすぐに、特別教室の並ぶ静かな廊下を見渡せる。その角にある一室の前に立つと、リカコさんはドアをノックしたのに、特に返事も待たずに開けてしまう。


 窓から入る昼間の明るさの中にカイリ、イチ、ジュニアがイスにふんぞり返っていた。

「うわー。なんかガラ悪ぅ」

「本当よ。ネクタイくらいきちんと締めなさい」


 あたしの入った後で、リカコさんがドアを閉め施錠をした。

 初めて入る生徒会室は普通の教室の半分くらいの大きさ。長机が4つとそれぞれにパイプイスが置いてある。

 空いているイスにあたしが座るのを確認して、リカコさんも引いたイスに腰を下ろして話し始めた。


「さてと、報告は昨夜カイリから聞いたわ。巽さんからもキッツいお説教を頂いたんだろうから、本題に入りましょうか」

 お説教に関してはせりかさんにだいぶ救われたけどね。


「黒スーツが仕掛けて来るなら、朝の登校時より人がバラける帰宅時を狙って来ると思う。夕方になればなおさらね。カエちゃん。深雪ちゃんとはしばらく別で帰るつもりでしょ? 何かいい言い訳は見つかった?」


「全く思いつかない」

 なんでもお見通しのリカコさんは、ふくれっ面で答えたあたしに にこっと微笑んだ。


「じゃあ生徒会のお手伝いしてもらおうかな。毎日単発で断るより、この件に片がつくまで長期で束縛される方がいいでしょ?」

「えええっ。めんどくさそう」

 思ってもいなかった提案に机に突っ伏しちゃう。


「今日もその条件で鍵借りたんだから」

 リカコさんの利き手がカチャカチャと鍵を振る。


「あれ。それ僕達関係なくない?」

 はいっ。とばかりにジュニアが手を上げてる。

「ジュニアとカイリは私達のおりがあるんでしょう? 同じ時間に下校出来れば一番いいじゃない。しばらくは寮にも立ち寄れないだろうし。それに、このメンバーが外で話していてもおかしくない状況を作っておきたいわ」


 ぐるりと一同を見回し。

「このメンバーの共通点ってなんだろうって思ったら、遅刻の常習犯くらいしか思いつかなかったんだけど……。カエちゃん先月のスポーツテスト、3学年合わせた中でも女子総合1位だったわ」

「やったっ。あざーっす!」

 唐突な発表に、喜びの両手を上げる。


「男子の1位はカイリ」

「まじで⁉︎」

 不満の声は身を乗り出したイチから。


「ふふん。まだまだ2人には負けられない。兄と呼んでもいいぞ。ブラザー」

『無理』

 ドヤ顔のカイリは、イチとジュニアの即答にちょっぴり寂しそうな顔をする。


僅差きんさで2位がイチ。カイリは懸垂、遠投、背筋とか、筋肉を使うことはダントツね。

 ジュニアは短距離、ジャンプ、反復横跳び、瞬発力が強かった。

 イチは万遍まんべんなくいいんだけど、一歩及ばず」

 どこで手に入れたのか、資料をパラパラとめくっていたリカコさんが面を上げる。


「で、運動能力の高い2人と、成績優秀者のジュニア、生徒会から私、なんか適当に企画をでっち上げて放課後はしばらく生徒会室を占拠するから。よろしくね」

 にこりと笑うリカコさんも何気に神経が太い。


「おっと、深雪ちゃんの護衛にメドがついたらイチも引きずり込んであげるから、泣いちゃダメよ」

「さみしんぼー」

「さみしんぼー」

 笑いながらジュニアと身を乗り出す。

「はいはい」

 薄く笑うイチにはさらりと流されたけど。



 お弁当を広げながら、話は昨夜の公園の事に。

「黒スーツを見てないのは私とカイリだけか。やっぱり相当強かった?」

 リカコさんの質問にイチが苦い顔をする。


「昨日はカエがほとんど機能して無かったから、連携不足だよ。俺もジュニアも手ぶらだったし」

「カエ調子悪かったのか?」

 心配そうにカイリは聞いてくれるけど。

「だって制服のままだからスカートだったんだもん」

 むぅっと頬を膨らます。


「じゃあしょうがないわね。守ってくれない方が悪い」

 リカコさんもキッパリとあたしに加勢してくれた。


「キノウはキノウしなかったけど、今日はキノウする?」

「ジュニア、イントネーションがおかしい。って言うか意味不」

 楽しそうに話してくれてるけど理解不能。


「そうだ、昨日の夜ちょっとネットでポチっておいた荷物が届くんだけど、捕縛用に改造して使おうと思って。月曜日には間に合うように作るから、それまではとりあえず黒スーツとの接触には気を付けてね」

 何を改造するつもりなのか、にこにこと笑うジュニアも目が笑っていない。やっぱり完敗は腹に据えかねたかなぁ。


 聞き覚えのある着信音に机の上のスマホが光る。

「ん。巽さんだ。もしもし?」

『香絵、今昼休みか?』

 少し焦ったような声。学校に掛けてくるなんて初めてだ。


「うん」

『昨日預かったナイフなんだが、鑑識の結果が出た』

「早いね。みんな居るからマイクにするよ」

 箸を置き、マイク機能をオンにする。


『今うちは、たいしたヤマを抱えてないからな。まず、指紋は採取されなかった。で、ナイフに付着していた液体だけど、アルカロイド系のアコニチンという毒だった』

「アルカロイド系のアコニチン?」

 ピンとこない毒の名前に首をかしげる。


「トリカブト?」

『正解。さすが剣士けんし。この毒は青酸カリに匹敵する上に、解毒剤が無い。しかも経皮けいひ吸収されるから、絶対に素手で触るな』

 猛毒の危険性に、巽さんの声も硬い。

 トリカブト! 最近会ったぞ。


 イチを見ると、同じことを考えていたようで、あたしにうなづきかけてくる。


「巽さん。月曜未明の製薬会社の爆発現場から、地下室と、そこで栽培されてたトリカブトが出てきてるはずだから、本庁に掛け合ってナイフに付いてた毒とDNA鑑定してもらって。絶対に合致するよ」


『お前達っ、あんな所に居たのか? まぁ、説教は後だ、とりあえず本庁に連絡を取ってみる。

 お前達もくれぐれもおかしな行動はおこすなよ』

 通話が慌ただしく切れ、一瞬の静けさが襲う。


「説教入りましたぁ」

 空を打ち消したのは、ジュニアの明るい声。

 イヤイヤ、オーダー受けたみたいに言われてもね。


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