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第10話 間宮家最強の

「全くお前達は、どうしてこう毎度毎度警察の手をわずらわせる様な不祥事を引き起こすんだっっ!

 道を歩いているだけで、何で喧嘩に巻き込まれるんだ!

 学校から帰って来るだけで、なんで制服が真っ黒になるんだ!」

 ごもっともです。


 開口一番、怒涛どとうごとく。なおもお小言は続いているけど、あたし達は頭上から降り注ぐお小言がただ流れ過ぎるのを待つばかりなのです。

「あらあら、お帰りなさぁい」

 そんな中リビングからパタパタと場違いな程ほがらかなせりかさんがやって来る。


「まぁ、香絵ちゃん汚れちゃってるじゃない。お部屋で着替えていらっしゃい。

 さぁ、みんなの分もお夕飯用意しておいたから上がって上がって」

 おおっ。救世主。


「ありがとうございまぁす」

 ぴょこんと抜けようとしたジュニアの襟首が巽さんにつままれる。

剣士けんしっ! まだ話は終わってない!」

 ジュニアの名前、久しぶりに聞いたなぁ。

「巽くん。ご飯冷めちゃうよ。

 巽くんがお夕飯の時間にうちにいるなんて滅多にないんだし、せっかくみんなが来てくれたんだからご飯にしよ。

 お腹空いてると、イライラしゃうものよ」

 うんうん。とうなづくせりかさん。


「せりかさん。ちゃんと反省させないと、いつまでたっても同じことを繰り返すんだから」

 あたし達に対してとはまるで口調が違うよー。巽さん。

「ご飯。冷めちゃうよ」

 にこにことこの笑顔。

「……。ご飯に、しようか」

 うちでせりかさんに勝てる相手はいないのよ。



 着替えてリビングに戻ると、食卓に着いた男子組が巽さんを交えて話し込んでいた。


「じゃあ、その公園でお前達を襲撃して来たのは誰かから依頼されてやったって事か」

「依頼って言うか小銭掴ませて待ち伏せさせたみたいだった。

 あんまり詳しくは聞けなかったけど、ざっと聞いた感じ、カエが見た黒スーツと見て間違いないんじゃないかな」


「そうか。その辺も聴きだす様に連絡しておこう。

 それはそれとして、太一が捕まえたチンピラを簡単に取り逃がすなんて、何かあったのか」

 巽さん鋭い。

「うん。まあね」

 巽さんの目を見て、イチが言い切った。

「わかった。

 さあ、香絵も降りて来たしメシにしよう」

 小さく息を吐いて、前のめりになっていた姿勢を正す。

 こういう時、巽さんは無理に話を聞き出そうとはしない。

 でも話せばちゃんと聞いてくれる。

 だから信頼してもいいのかなって思っちゃう時もある。

「巽さん、1つ頼み事。公園で黒スーツが最後に投げて来たナイフなんだけど、回収したから鑑識に回して欲しいんだ。刃の部分に何か付着してるみたい」

「わかった、出しておこう」



 いつもよりだいぶ騒がしい食事を済ませ、あたし達4人はリビングの1つ奥の部屋に陣取って事実関係の照らし合わせ。


「さてと、公園の一件は大体聞いたが何か補足があるだろう?」

 カイリが言いたいのは巽さんに言葉を濁した件だよね。


「あー。どこからだ、カエも黒スーツを製薬会社で見たって言ってたな」

「何⁉︎ 居たのかあそこに」

 イチの言葉にカイリが過剰に反応する。


「ちょっと待って。時系列が面倒だからカエの記憶を中心に進めて行こう」

 ジュニアがあたしを指差した。

「え。あたし? っと。じゃあ、まずは月曜日の夕方かな。

 定例会が無くなった日、帰りがけにジュニアがバンで帰って来た後ろから、追い越して行ったタクシーに乗ってたスーツの男。今日の放課後、あたしをつけていたのも黒スーツで間違いないよね」

 つい、同意を求めてイチを見る。


「で、寮からの帰り道か。俺達の前にわざと姿を見せて、公園に引き込んだ。

 つまんないチンピラけしかけたのも、多少なりとも自分がヤるだけの価値があるか見たかったのかもな。あの日、カエが見たって事は、あっちからも見えてたんだろうし」


「お眼鏡に掛かっちゃったかな?」

「1回戦は惨敗だったけどねぇ」

 あたしの言葉に、ジュニアがにぱっと笑う。


「やり合ったのかっ? 製薬会社絡みなら、プロの暗殺者アサシンだって可能性もあるんだぞ!」

 ジュニアの言葉にカイリが語気を荒げた。


「だって背中を見せられる様な状況じゃあなかったしぃ」

 相変わらずジュニアの言葉には悪びれる様子はない。


「で、カエは結局どこで黒スーツを見たんだ?」

 言っても無駄と悟ったのか、カイリがあたしに話を振って来た。


「あの日最後に梯子回収されたでしょう? その時ブルーシートの隙間から。塀の反対側に雑木林があったんだけど、その中に立ってたんだ。

 妙な違和感あったし、こんな寂しい場所に立ってるなんて変な野次馬だと思ってたんだけど、思い返せばあんな時間なのにスーツ着てた」


「バンか。車のナンバープレートを覚えて探したのかもね。ネット検索すれば、本庁絡みの車だって事くらいすぐわかるだろうし。僕が寮まで送ってもらったのをつけて、カエを見つけた」

 ジュニアが考えをまとめるように話し出す。


「黒スーツには、随分と都合のいいタイミングだったね。あの日イチとカエは塀の上で待機してたんだもん。ブルーシートをかぶる前から見られてたのかもね」

 なるほど。


「でも、あたしだけが明らかに標的だったよね。イチも居たのに。あたしに見られたとわかったから口封じ? なら、公園でみんなに姿を晒したのは辻褄が合わない」

 安物爆弾に続き、ここも納得がいかない。


「何を言っても憶測の域を出ないな。とりあえず黒スーツ。しばらくは単独行動は禁止だ」


 リビングのドアを開ける音がして、署に電話をしていた巽さんが入って来た。

「せりかさん。ちょっと署に戻るよ。香絵。鑑識に出す証拠品用意してくれ。海流かいり達も寮まで送ってやるから乗っていけ」

「はーい」


「くれぐれも気を付けろ」

 カイリの出した拳にあたし達も拳を合わせた。

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