翌日。
「オッス」
立神はいつものように学校へと来た。
「あ、立神。お前、これヤバいんじゃないか?」
と宮下が言った。手にはスマホを持っている。
「なにが?」
「これだよ」
宮下はスマホを立神に見せた。
スマホの画面はニュースサイトだった。
写真が掲載されていて、そこにはビールジョッキを持った立神が載っている。
「ああ、これは昨日の焼き肉屋だな。ガハハハ。うまかったなぁ」
立神がニュースになっていることを特に気にはしていない。
「いや、そんなことはどうでもいいんだよ。問題は内容だよ」
「内容?」
「そうだよ。これによるとお前がビールを飲んでいいたように書いてあるぞ。写真も撮られているし」
と宮下。
「立神君、本当にビール飲んだの?」
佐藤も会話に入ってきた。
「飲んだよ。ガハハハ。結構うまかったけど、途中から酔っぱらってなにも覚えてないんだ」
立神は悪びれることなく言った。
「飲んだんだ。それはマズいよ。立神君って一応未成年だから」
と佐藤は心配そうだ。
「未成年って酒はダメなのか?」
立神は知らないようだ。
「ダメだよ。常識だよ」
「そうだったのか。でも、もう飲んじゃったしな。どうしようもないよ。小便になって全部出たし無罪だろ。ガハハハ」
「いや、そういう問題じゃないから」
と佐藤。
「とにかくこれが学校にバレるとまずいぞ。と言うか、多分もうバレてるだろうだろうな」
宮下は言った。
「まずいって?」
「停学だよ」
「俺が?」
「そう。飲酒は校則違反だからな」
「そうか」
立神もここに来てやっと深刻そうな顔をした。
「どうしてお酒なんか飲んだの?」
真希がちょっと怒り気味で言う。
「だって、うまそうだったから、つい……」
立神は真希に言われてしょんぼりした。
ネットニュースになった以上は、学校に知られるのも時間の問題だ。
「あ、もうSNSでも話題になってるよ。ライオン少年が飲酒って」
佐藤が言った。
「ホントだ。もう逃げられないな」
と宮下。
そこに担任の森山がやってきた。
「立神、ちょっと職員室に」
とだけ言って、立神を連れて行った。
「あーあ、もうダメだな。停学だよ」
と宮下が言う。
「そうだね。仕方ないよ」
それから一時間目が終わった頃、立神が教室に戻って来た。
「どうだった?」
宮下が訊いた。
「明日から一週間の停学だって」
立神はボソッと言った。
「そうか。まぁ、そう落ち込むなよ。一週間で済んで良かったじゃないか」
「そうなんだけどな。でも、家に帰るのが怖いよ。オヤジになにをされるか……」
「そ、それもそうだね。立神君のお父さん怖いから」
と佐藤は同情した。
「グワァァァ、停学なんてオヤジが知ったら、俺はただじゃ済まない」
立神は頭を抱え、たてがみ頭をガリガリと掻きむしった。
学校が終わり、下校しようと立神らが校門を出ると、そこにはマスコミがいっぱい来ていた。そして立神が現れると一斉にカメラを向けた。
「飲酒をしたって本当ですか?」
記者はなにやら嬉しそうだ。
深刻な表情は作っているが、あきらかにうきうきしている。
「本当だ」
立神はぶっきらぼうに答えた。
「どうして飲んだんですか?」
「うまそうだったから」
「飲んだのはビールですか?」
「そうだよ」
「学校は大丈夫なんですか?」
「停学だよ」
立神は記者にもみくちゃにされながら歩いた。
「立神君、大変だね」
と後ろからついてきていた佐藤が言った。
「そうだな。すっかり有名人になってしまったからな」
と宮下。
「お酒を飲んだことで停学になった感想は?」
「別に」
「悪いことをしたという認識はあるんですか?」
「まあね」
「世間に対して申し訳ないとかないんですか?」
「やかましいっ!!!」
記者が次々に質問をしてくるので、立神は爆発した。
「それ以上あれこれ訊いてくると噛みつくぞ!」
立神はライオンの口を開けて牙をむいた。
「ヒィィィィィ」
記者は立神にビビッて一気に静かになった。
「立神君! こっちだ」
その声は木暮のものだった。
「あ、助かった」
立神は車に乗った。
そこには矢羽もいた。
「マスコミを抑え込もうとしたが、無理だったよ」
矢羽は残念そうに言った。
「ちょっとビール飲んだぐらいで大騒ぎだな」
と立神。
「ま、世間ってのはそんなもんだ。私も飲ませたのは間違いだった。とにかくいまはおとなしくしておくしかない」
と矢羽が言う。
「社長、立神君に入っていた仕事が、すべて今回のことで次々にキャンセルされています」
木暮が報告した。
「どうせ日和見主義の連中だ。騒動がおさまれば、またすぐに寄ってくる。ホホホ。焦ることはない」
矢羽は今回の騒動に動じていないようだった。
(さすが矢羽社長。こんなに大事になっても動じていない)
木暮は、矢羽の考えについて行けないと思うこともあったが、こういうどっしりと構えた大物ぶりを見るたびに一生ついて行こうと思うのだった。
車は立神の家に到着した。
「それじゃあ、停学が開けるころにまた連絡するから」
と木暮は立神に言った。
「はいよ。じゃあな」
立神は車を降りた。
「はぁ」
立神は玄関を開ける前に大きなため息をついた。